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72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める  作者: 月神世一


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EP 4

ポポロ村と商魂逞しい猫

「ここが……ポポロ村か」

 森を抜けた先に広がっていたのは、まさに俺が求めていた「スローライフ」の理想郷だった。

 なだらかな丘陵地帯に広がる畑。

 そこには、俺の腰ほどの高さがある巨大な大根(月見大根というらしい)や、太陽のように赤い皮の芋が実っている。

 村の中央にはレンガ造りの広場があり、人間、獣人、背の低いドワーフたちが入り混じって談笑していた。

 のどかだ。

 ブラック企業の殺伐としたオフィスとは大違いだ。ここなら、俺の荒んだ心も癒やされるかもしれない。

「ようこそ! ここが三国の緩衝地帯、ポポロ村です!」

 キャルルが誇らしげに両手を広げた。

 子供たちは「ママ~!」と叫んで、それぞれの親の元へ走っていく。村人たちがキャルルに駆け寄り、口々に感謝を述べている。

 やはり彼女は人望があるようだ。

「キャルルちゃん! 無事やったか!」

 その時、一際大きな声と共に、茶色い影が飛び出してきた。

「あ、ニャングル!」

 現れたのは、茶トラ模様の猫耳と、長い尻尾を持つ青年だった。

 商人が着るような和洋折衷のエプロンを掛け、手にはなぜか鉄製の巨大な算盤そろばんを持っている。

「心配したで! 帰りが遅いから、またドコぞの軍隊に拉致されたんか思うて、香典の計算しとったわ!」

「もう、縁起でもないこと言わないでよ。……それに、今日は素敵なお客さんを連れてきたの」

 キャルルが俺を紹介すると、ニャングルの猫目がギロリとこちらを向いた。

 その視線は、獲物を狙う猛獣のものではなく……完全に「値踏み」をする商人の目だった。

「……フンフン。なんや、貧乏くさい兄ちゃんやな」

「失礼だな」

「服はボロボロ、武器も無し。持っとるのは……なんやその黒い板切れは? 黒曜石か?」

 ニャングルは俺の小脇にある『ルチアナ・ブック(ノートPC)』をコンコンと叩いた。

「まあ、キャルルちゃんの命の恩人なら歓迎するけどな。ワテはニャングル。この村で物流と財務を仕切っとるモンや。よろしゅう」

「赤木大地だ。よろしく」

「ほなダイチはん。歓迎の宴といきたいトコやけど……村の財政もカツカツでな。タダ飯食わせる余裕はないんや」

 いきなり世知辛い。

 だが、ニャングルの言うことももっともだ。俺は無一文の居候候補。何か手土産の一つでもなければ、肩身が狭い。

(……喉、乾いたな)

 72時間労働明けの脱水症状に加え、さっきの戦闘での発汗。

 俺の喉はカラカラだった。

 ふと、小脇のPCを見る。

 あの女神、確か言っていたな。『Amazonだろうが何だろうが取り寄せ可能』だと。

「……なあ、ちょっと水と、甘い物でも出そうか?」

「は? 何言うてんねん。水場は広場の井戸やぞ?」

 俺は適当な切り株に腰掛け、PCを開いた。

 電源ボタンを押すと、爆速でOSが立ち上がる。デスクトップ背景は、ピースサインをするジャージ姿のルチアナだった(イラッとする)。

 俺は『ルチアナ通販』という怪しげなアイコンをクリックした。

「なんやそれ!? 板が光っとる!? 絵が動いとるで!?」

 ニャングルが尻尾を逆立てて驚く。

 画面に表示されたのは、見慣れた地球の通販サイト……によく似たインターフェース。

 商品検索:『ミネラルウォーター 500ml』

 価格:1,000円(送料・手数料込)

「たっか!!」

 思わず叫んでしまった。

 日本のコンビニなら100円だぞ!? 10倍ってレベルじゃねーぞ!

「どないしたんや、ダイチはん?」

「い、いや……なんでもない」

 背に腹は代えられない。俺の財布には、福沢諭吉(1万円札)が1枚入っているだけだ。

 俺は震える手で『購入』ボタンを押した。

 ついでに、キャルルへのお礼も兼ねて『板チョコレート(500円→5,000円)』もカートに入れた。

 合計6,000円。

 俺の全財産の6割が、一瞬で消えた。

 『決済完了。転送を開始します』

 画面に文字が出た直後、PCのキーボードが青白く発光する。

 そして、画面からズルリと、冷えたペットボトルと、銀紙に包まれた板チョコが出現した。

「うわぁっ! 物が出てきました!?」

「召喚魔法か!? しかも詠唱なしかいな!」

 キャルルとニャングルが腰を抜かす中、俺はペットボトルのキャップを捻った。

 プシュッ。小気味よい音と共に、冷気が漂う。

「ふぅ……生き返る」

 半分ほど一気に飲み干し、残りをキャルルに差し出した。

「ほら、君も喉乾いてるだろ。新品だから安心してくれ」

「え、いいんですか? ……すごい、こんなに透き通った水、王都でも見たことありません」

 キャルルはおずおずと受け取り、一口飲むと、目を輝かせた。

 そして、もう一つの品。

「これはチョコレート。甘いお菓子だ。助けてくれたお礼だよ」

 俺は板チョコを割り、ひとかけらをキャルルの口元へ持っていく。

 彼女はパクりと口に含んだ。

「ん……!」

 瞬間、キャルルのウサギ耳がビーン! と直立した。

 そして、パタパタと高速で羽ばたき始める。

「あまーい! 何ですかこれ!? 口の中でトロけて……ハニーかぼちゃより濃厚で、凄く幸せな味がします!」

「そ、そんなにか?」

「はい! 美味しいです! ダイチさん、魔法使い様だったんですね!」

 キャルルが頬を赤らめて喜ぶ横で、ニャングルが真剣な顔でチョコの包み紙(銀紙)を拾い上げていた。

「……ダイチはん。ワテにもひとかけら、くれへんか?」

「ああ、いいぞ」

 ニャングルはチョコを口に放り込むと、猫のように目を細め、数秒間沈黙した。

 そしてカッと目を見開き、俺の肩をガシッと掴んだ。

「――売れる!!」

「え?」

「この『チョコ』いう菓子! 悪魔的な甘さと、この中毒性! 貴族の奥様方が発狂して買い漁る未来が見えるで!」

 ニャングルは興奮して鼻息を荒くした。

「それにこの水! ガラス瓶やない、この『透明で軽いペットボトル』! これだけでも革命的や! ダイチはん、アンタ一体何モンや!?」

「ただの元コンビニ店員だよ」

「コンビニ? 知らんけど、アンタは宝の山や!」

 ニャングルは俺の手を握りしめ、ブンブンと振った。

「決まりや! アンタ、ウチの村で商売せぇへんか? ワテがプロデュースしたる! その代わり、利益は折半……いや、6:4でどうや!」

 ……なるほど。

 俺の『ルチアナ・ブック』は、ただの鈍器じゃない。

 この世界にはない「地球の物資」という、最強の商材を呼び出す打ち出の小槌(ただし代金は自腹)だったわけか。

 俺は苦笑いしながら、空になった財布の中身を思った。

 まずは、このボッタクリ価格を支払うための「原資」を稼がないといけないらしい。

「分かったよ、ニャングル。乗った」

「商談成立や! ほな、まずはその『黒い板』の使い道をじっくり聞かせてもらうで!」

 こうして、ポポロ村に新たな産業が生まれようとしていた。

 最強の村長、商魂逞しい猫、そして元コンビニ店員の俺。

 

 奇妙な共同生活が、今始まる。

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