第二章 ボッタクリ観光地と涙の手紙
ポポロ・マート、爆誕!
「……ふむ。悪くない」
ポポロ村を襲った傭兵団を撃退してから数日後。
俺は廃屋のちゃぶ台に広げられた、大量の『ルチアナ通貨(日本円)』と金貨の山を見つめていた。
「悪くないどころやないで、ダイチはん! 大勝利や!」
向かいに座るニャングルが、興奮して鼻息を荒くしている。
おでん屋台の売上と、傭兵団の装備を剥ぎ取って売却した利益(ニャングル主導)、そしてルチアナからの動画配信スパチャ(手数料7割引)。
合わせれば、この村で家を一軒建ててもお釣りが来るほどの資金になっていた。
「これだけの元手があれば、次のステップに進めるな」
俺は札束をポンと叩いた。
「次のステップ? また屋台を増やすんか?」
「いや、屋台じゃ限界がある。雨が降れば休みだし、防犯面も弱い。俺が作りたいのは、もっと恒久的で、24時間365日、いつでも客を迎え入れられる拠点だ」
俺はPCの画面を開き、ある設計図を表示させた。
それは、俺がかつて青春(と寿命)を捧げた、日本のコンビニエンスストアのレイアウト図だ。
「俺たちの店……『ポポロ・マート』の実店舗を作るぞ」
俺の号令の下、ポポロ村最強のドリームチームが再結集した。
建設予定地は、村の広場に面した一等地。
まずは建材の確保だ。
「木材なら、わたくしにお任せくださいまし!」
エルフの王女、ルナが腕まくり(ドレスの袖を上げるだけ)をした。
彼女が更地に『世界樹の種(量産型)』を蒔き、杖を一振りする。
「伸びろー! 建材になっちゃえー!」
ズゴゴゴゴゴッ!!
地面から極太の木々が瞬時に生え揃う。
普通なら数十年かかる成長を一瞬で完了させ、しかも最初から「柱」や「板」の形に加工された状態で成長を止めるという、神業(という名の力技)だ。
「便利すぎるだろ……」
「お安い御用ですわ! その代わり、お昼は『Lチキ』でお願いしますね!」
続いて、建築と設備の担当はドワーフのガンツだ。
「ふん、24時間営業の店じゃと? 人使いの荒い小僧じゃ」
ガンツは設計図を睨みながらも、その目は楽しそうに輝いている。
「この『自動ドア』という機構……面白い。人が近づいたのを風魔法のセンサーで感知し、滑車と重りで扉をスライドさせる……。よし、動力にはスライムの粘液と磁石を使うか」
「爺さん、ドアの開閉速度はマイルドにな。挟まったら死ぬような速度にするなよ?」
「分かっておるわい! ワシを誰じゃと思うとる!」
ガンツ率いるドワーフ工務店(村の職人たち)の手により、ルナが出した建材があっという間に組み上がっていく。
壁は断熱効果の高い魔法粘土で固められ、屋根には採光用の窓。
そして店内には、俺の指示通りに陳列棚が整然と並べられた。
工事開始からわずか3日。
異世界とは思えない速度で、その「城」は完成した。
「す、すごい……! 本当にお城みたいです!」
キャルルが完成した店舗を見上げて感嘆の声を上げた。
白い壁に、青いラインが入った看板。
大きく**『Popolo Mart』**と書かれたその外観は、間違いなく日本のコンビニそのものだった。
ただし、素材は世界樹とミスリルだが。
「いらっしゃいませー!」
俺の声に反応して、ガンツ特製の自動ドアが『ウィィィン』と滑らかに開く。
中に入ると、魔石灯の明るい光が店内を照らし出していた。
「品揃えも完璧やな」
ニャングルが棚をチェックして頷く。
入り口付近には、『月見大根』や『太陽芋』といった村の特産品コーナー。
奥の棚には、『ルチアナ通販』で仕入れた地球の日用品(洗剤、ノート、ペンなど)。
そしてレジ横には、常に熱々の『ポポロおでん』と、新商品『からあげクン(トライバード肉使用)』が入ったホットスナックケース(魔法保温器)。
「完璧だ。これぞ俺の城……」
俺はレジカウンターの中に立ち、支給された(キャルルお手製の)制服のエプロンを締めた。
このカウンターからの眺め。
これこそが、俺が最も落ち着く場所だ。
「ダイチはん、そろそろ開店の時間やで!」
「ああ、分かってる」
村の外には、すでに噂を聞きつけた冒険者や商人たちが長蛇の列を作っている。
俺は深く息を吸い込み、最高の営業スマイルを作った。
「――ポポロ・マート、オープンだ!」
自動ドアが開く。
先頭に並んでいたイグニスが、勢いよく入ってきた。
「へっへっへ! 一番乗りだぜ! 兄貴、Lチキと……あと、あの新商品の『プリン』ってのをくれ!」
「はいよ。Lチキとプリンですね。ご一緒にポポロおでんはいかがですか?」
「お、おう! じゃあそれも!」
イグニスが釣られて追加注文する。チョロい客だ。
「うわぁ! ドアが勝手に開いたぞ!?」
「すげぇ! 中が昼間みたいに明るい!」
「おい見ろよ、この『とれっとぺーぱー』って紙! 貴族のハンカチより柔らかいぞ!」
店内は瞬く間に客で溢れかえった。
レジを打つ(電卓を叩く)俺の手が止まらない。
キャルルが商品の補充に走り回り、ルナが客引き(という名のサクラ)をして、ニャングルが裏で売上を回収する。
忙しい。
72時間ワンオペの時と同じくらい忙しい。
だけど、この忙しさは心地よかった。
「ダイチさん! 品出し追いつきません!」
「了解、今行く! ……イグニス、入り口で立ち食いするな! 邪魔だ!」
こうして、異世界初の24時間営業コンビニ『ポポロ・マート』は、爆発的なスタートを切った。
だが、俺たちはまだ気づいていなかった。
この店の成功が、さらなるカオス——「とんでもない観光客(親父)」と「怪しい妖精ビジネス」を招くことになるなんて。
カウンターの奥で、ニャングルが不敵な笑みを浮かべていた。
「へへっ……次は『観光』や。この人の波を金に変える、とっておきの秘策があるんや……」




