第一話 歪んだ歴史
ステラは教室であの育児日記を読んでいた。
この200年くらいのステラのルーティンだ。
こうしているときだけはシオンをすごく近くに感じることができるから
「ねぇ!聖母ステラ様ってほんとに凄いね!」
廊下から声が聞こえる。
「そうだね、山を割って道を示したとか、彼女の周りはいつも静寂に包まれていたんでしょう?!」
もうステラは慣れてしまっていた。
シオンは誇らしいことに歴史に名を残した。
でも、ステラは歪んだかたちで残ってしまった。
歴史を語る者たちが本物のステラは不要だと扱ったからだ。
完璧な英雄には完璧な母を、
不完全なステラは必要とされなかった。
それでもステラは構わない。
聖母ステラの話を聞くたびに英雄と呼ばれるシオンが愛してくれたのはこの私であって、その聖母ステラではない、
そう思えたから、
この居場所を守れただけで十分だったのだ。
でも、全てが変わらなかった訳では無い。
エルフ達はステラの魔法を覚えステラを必要としなくなった。
嬉しいことではあるのだが残酷なことだった。
それでもステラが先生を続けているのには理由がある。
「先生〜!」
教室に獣人の血を引く子供や魔法が下手な子が入ってきた。
今のステラの生徒たちだ。
音での痛みをエルフ達は理解できない。
それを理解し寄り添えるステラの教室に集まっていた。
ステラの周りからエルフは居なくなってしまったがそのかわり多くの獣人の子がステラの隣に来てくれた。
それだけではないステラのように人間とエルフのハーフで魔法が苦手な子もたくさんいた。
高度な魔法を使うエルフは見捨てるかもしれない。
ステラは決して見捨てなかった。
できないことがあればとことん付き合うし、できたら自分のことのように大喜びする。
そんなステラだから慕われることができたのだ。
「いらっしゃい、さぁ、席について今日も授業を始めるよ」
「はーい!」
ノートを優しく閉じて授業を始める。
その顔はは不幸な先生ではない誰よりも幸せそうな先生、いや、母親の顔だった。




