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「…で、その女子と出会いを話してみよ。」
パン屋と果物屋の間の路地で、爺さんと膝を抱えた俺の失恋の話…この絵面を思い浮かべ、俺はまた違う意味で泣きそうになった。酒場で酒の勢いで思わず隣の席に座る人に話すのとは違う。隣の席に座ったのが同年代の男なら(わかるぜ。おまえさんの気持ち)などと言ってくれるだろう。もし隣の席に座ったのが女性なら…もしかして新たな恋になんて事が1%ぐらいあるかもしれない。
だがパン屋と果物屋の間の路地だぞ!おまけに隣に座っているのは爺さんだぞ。
そう思うと涙が溢れそうなる。
「それほど惚れておったのか…。」
爺さんが俺の眼に浮かんだ涙を良いように勘違いしてくれたのか、頷きながら俺の肩に手を置くと軽く叩きながら。
「恋とかはようわからんが、わしは1000年以上生きておる賢者じゃ。それなりにアドバイスはできると思うぞ。」
1000年…生きてるって…やっぱりこの爺さんはボケてる。はぁ~どうしたものか、このまま逃げ出したいけれど、騎士たるものそんなことはできない。
そっと爺さんを見れば、俺の恋話を期待しているんだろう、眼が、眼が違う。キラキラと光り輝いてる。
俺の恋を面白い話にはしたくない。話題を変えたいなぁ。なんでもいい。なんでも。
だから俺は小さく息を吐き、柔らかい声で言った。
「爺さん、100年と言うところを1000年と言い間違えたみたいだぞ。」
そう言って笑うと、爺さんも笑いながら
「いや、言い間違えておらんぞ。わしはエルフじゃ。だから人間より寿命は長い。」
「えっ?」
エ…エルフ?美人でボンキュッボンとちょっと大人の本に出てくるあのエルフ?
いや、そんなことはどうでもいい!!だが、俺の何かが認めたくない。
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いや、そんな問題じゃない!ボケてる人の話を否定しちゃいけないと言うけど、マジこれはない!エルフなんてありえない!否定しちゃいけないらしいが、これは否定したい!
だから俺は大きな声で叫んだ!
「エルフって!それはありえない!だってエルフって、おとな…じゃない、ファンタジーな話に出てくるやつじゃないか!」
「ほぉ~エルフはふぁんたじーなのか?でも、ほらこの耳。エルフと言えばこの耳じゃろう。どうじゃ!」
そう言いながら、爺さんは耳を見せてきた。
…木の葉に似ている長くてとがった耳が俺の眼の前にある。
エ、エルフ?!いやそんなわけない!あれは大人の本に出てくる男のロマンだ!
だいたいエルフとかドワーフとか本の中の存在。例え万が一、いや絶対ないけど、美人でボンキュッボンじゃないエルフ以外、やっぱり認めたくない。ロマンを、男のロマンが詰め込まれたあの本を、否定したくない。ただ耳の長い爺さんだ。そうただ耳の長い…爺さん…。
俺の視線にニンマリ笑った爺さんは言った。
「さぁ早く、その女子との出会いを話してみよ。」
眼をキラキラとさせた自称エルフの爺さんは、俺にまたそう問いかけ、ジェラードでべたべたになった手で俺の手を握ってきた。
話題は変えられないようだ。




