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賢者様の恋指南  作者: 夏野みかん


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3/4

マズい…。

俺…今、眼が真っ赤、鼻が真っ赤…さっきまで泣いてましたという顔を大勢の人間の前にさらけ出してる!!


そう思った瞬間、爺さんに掴まれた手を反対に掴みなおし、一目散に走り出した。





そして…俺は今、パン屋と果物屋の間の路地に座り込んでいる。



横にはジェラードをヒゲにつけた爺さんが笑みを浮かべ

「勇者マーベリック。お主とは500年振りかのう。」などと言っている。


いったいなんなんだ。子供の本に出てくる勇者に転生したと言われて(やった!俺は勇者だったんだ。)と喜べってか!勇者、転生…まったくなんだよ。

とにかく屋敷に帰りたい。俺はそっと顔を上げ



「なぁ爺さん。俺はそのマーベ…なんとかじゃないぞ。とにかく家まで送るから、どこに住んでるんだ。」


爺さんは一瞬、顔を歪めた。


「あ、あの…爺さん?」


「…マーベリックの記憶を持って転生したのではないのか。そうか、そこまで神は助けてはくれぬのだなぁ。」


そう言いながら、爺さんは空を見上げた。路地から見上げた狭い空をぼんやりを見つめ


「記憶はない…のか…。そうか…ないのか…そう…か…」語尾が掠れて、最後の言葉が聞こえなかった。




心の支えだったのかなぁ…。勇者マーベリックとの再会が…。



辛い事、悲しい事、それを乗り越えるために必要なものは心の支えだと思う、それはなんでもあってもいい。好きな本や食べ物、ペットの犬や猫、親や子供や友人そして…愛する人。


そう…愛する人…俺にとって心の支えはあいつだった。


大きく息を吐き、俺は狭い空を見つめる爺さんを見た。

爺さんが生きていくための心の支えは、想像の世界で冒険をしたマーベリックとの再会なのだろう。


爺さんは鼻を啜ると、見上げていた空から俺に顔を向け

「迷惑じゃろうが、老人の戯言だと思って聞いてはくれぬか。」と言って、うっすら涙の膜が張った目で俺にそう言った。



爺さんの言う、俺が勇者の生まれ変わりという話は理解できない。でも、心の支えを失った時のこの喪失感は理解できる。


俺は黙ってうなずくと、爺さんは口元に少し笑みを浮かべ、小さく息を吐き


「わしはまたお主と会えたら謝らなければと思っておった。…すまない。どんな困難にぶつかってもお主は、勇者マーベリックは、いつも前向きでみんなを鼓舞し、その姿にわしらは勇気を貰っていたのに…。あの日…最後の時、わしはお主に何もしてあげられず、それどころか、いつも笑っておったお主が初めて涙を零し、わしに頼み事をしたのに、…だのにわしは…お主の頼み事を果たすことができんかった。すまない。」



その声が震えて聞こえる。




「爺さん……。一応、その謝罪は受け取っておくな。」


そう言うと、爺さんはホッとした顔で俺を見た。



そうか…爺さんが知る勇者マーベリックはどんな困難にぶつかっても、いつも前向きでみんなを鼓舞する男だったんだ。俺とは…違うな。爺さんの心の支えを守ってやりたいなって思ったけど、勇者マーベリックと俺とじゃ違いすぎる。



そう思ったら、俺は俯いてしまった。


「…ごめんな。謝罪は受け取っておくと言ったけど…やっぱり、やっぱり俺は……その勇者なんかじゃないよ。前向きどころかいつも後ろ向きのダメな男なんだ。幼い頃から好きだった子に好きだと言えなかったヘタレなんだ。それどころかあいつが憧れていた騎士になれば、あいつが俺を好きになって、俺の傍にいてくれんじゃないかと思ってたバカな男なんだ。騎士なれば惚れてくれるなんて…バカだよなぁ。だからこういう結果になったんだ。」


「こういう結果とは?なんじゃ?」



戸惑うような爺さんの声に、俺は笑みを浮かべようとして口角を上げた。

「今日は……あいつの結婚式だったんだ。新郎は騎士団の副団長。来月ようやく騎士になる俺と副団長じゃ、勝負にもならない。笑えるだろう。」


俺は今、どんな顔を爺さんに向けているのだろう。口角は上がって、にっこりと笑えているだろうか。

そう思いながら立ち上がった俺の手を、爺さんはジェラードでべたつく手で掴むと叫ぶように言った。


「わ、わしに任せるのじゃ!前世でお主との約束を果たせなかった分、今世は必ず約束を果たしてやる!」


「や、やくそく?」


「そうじゃ、500年前にお主とした約束じゃ!」


「だ・か・ら俺は勇者マーベリックじゃないって!、ロマーネ子爵家の次男アースウッドなんだってば! だから約束はいいから!」


「ホオッ…今世は貴族か、恋愛も結婚も自由にできん、そんな面倒なところに転生するとは…お主は今世も大変じゃなぁ。だか心配するな。アースウッド、全てにわしに任せろ。お主の恋を成就して進ぜよう!」


眼を輝かせながらニンマリと笑う爺さんに俺は腰が抜けたように、また路地に座り込んでしまった。


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