あなたを置いて
「ダメだ……耐え切れない。俺はなんでこんなことを」
蓮司は堪え切れないという様子で泣き崩れた。
それを見ていた鷹真は舌打ちを一つしたが、それはすぐにため息交じりの笑みに変わった。
「だから言ったんだよ。殺しなんてやめようってな」
鷹真はそう言って蓮司の背中を擦る。
二人は昔からそうだった。
短気な蓮司はすぐにカッとなる。
それを鷹真はどうにか宥める。
その繰り返しだった。
しかし、今回は違った。
鷹真の宥めが足りず、蓮司は衝動のまま自分を馬鹿にした相手を殺してしまったのだ。
二人で殴り続けて虫の息となった相手を見て、鷹真は最早助からないと判断しトドメを刺した。
万が一助かったとしても、どう考えても訴えられる――そうなればおしまいだ。
『こうするしかなかったんだよ。諦めな』
鷹真はそう言って宥め、蓮司も始めは納得していた様子だったが今になり罪の重さに負けたというところか。
「仕方ねえよ」
鷹真は蓮司の背中を何度か叩いた後、いつものように笑った。
「とりあえず逃げられるところまで逃げよう」
「もし捕まったら……?」
「その時は素直に裁きを受けるしかねえよ」
元も子もない言い方だ。
蓮司は何故か笑っていた。
鷹真も笑った。
二人は車に乗り込んだ。
そしてエンジンがかかる。
運転席に乗っていた鷹真はこちらを見て言った。
「じゃ、俺らは先に行くからな」
言うが早く車は走り出した。
――あなたを置いて。