冒険者登録②
案内された訓練場には、人間よりも一回りも二回りも大きな、石でできたゴーレムが鎮座していた。その無骨な姿は素人が見てもかなりの強度を誇っていることが分かる。
「それじゃあ、始め!」
合図と共にまず動いたのはリリアーヌだった。まるで疾風そのものだった。
床を蹴る音もほとんどなく、瞬時にゴーレムの懐に潜り込むと、その小柄な体からは想像もつかないほどの威力で拳を叩き込んだ。
ゴッ、という鈍い衝撃音と共に石のゴーレムの胴体に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
「なっ……!?」
「素手で、ゴーレムにヒビを……!?」
ギルド職員や周りで見物していた冒険者たちから、驚愕の声が上がる。
リリアーヌの身体能力は俺でもビックリするほどすごかった。
だがゴーレムも黙ってはいない。巨大な石の腕を振り上げ、リリアーヌに反撃の拳を叩きつけようとする。その動きは鈍重だが、一撃の威力は絶大だろう。
「――させません」
凛とした声が響いた。
リリアーヌから少し離れた位置で、セシリアが静かに立っていた。彼女は前に出るでもなく、ただゴーレムを真っ直ぐに見据えその唇がかすかに動いて、古の言葉を紡ぎ始める。
セシリアの足元に淡い光を放つ魔法陣が瞬時に展開された。
そして、ゴーレムが拳を振り下ろす、まさにその瞬間。
「《縛鎖》」
セシリアが紡いだ魔法は、ゴーレムの足元から伸びた魔力の鎖となり、その巨体を瞬く間に絡め取った。ギチギチと音を立てて締め上げる鎖に、ゴーレムの動きが完全に停止する。
「今です、リリアーヌ!」
「言われなくても!」
動きを封じられたゴーレムはもはやただの的だ。リリアーヌは、その好機を逃さない。再び懐に飛び込むと、今度は亀裂の入った胴体の中心――ゴーレムの動力源であるコアが埋め込まれた部分に、渾身の蹴りを叩き込んだ。
ズガァァンッ!!
先ほどとは比較にならない凄まじい破壊音。
石の破片を撒き散らしながら巨大なゴーレムは、その場に崩れ落ち、完全に沈黙した。
訓練場は一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声とどよめきに包まれた。
リリアーヌの圧倒的な破壊力と、それを完璧にアシストしたセシリアの的確な魔法。二人の連携は見事なもので、数多の死線を潜り抜けてきた歴戦の勇士のように感じられた。
そして俺はと言えば。
その光景を、ただ口を半開きにして、呆然と眺めているだけだった。
「……俺、やっぱりいらなくね?」
結局、二人の実力は最高ランクの一つ手前である「ゴールドランク」と認定された。ちなみに、何もしていない俺もパーティーリーダーということで、同じランクに認定された。解せぬ。完全に七光りならぬ、二光りである。
こうして俺たちは晴れて(?)冒険者パーティー「リョウマ団」として、ギルドに登録されようとした。
もちろん、パーティー名は俺が断固として却下し、「暁の翼」という、無難でそれっぽい名前に落ち着かせた。これ以上、復讐代行業者感を出すわけにはいかない。
俺はまだイチャイチャ生活を諦めたわけじゃないからな。




