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冒険者登録①

 翌日。

 俺たちは昨日食堂の主人から聞き出した冒険者ギルドの場所へと向かっていた。王都の中央広場に面した、ひときわ大きな石造りの建物。

 入口の上には、剣と盾を交差させた勇ましい紋章が掲げられており、その威容は、俺のささやかなハーレム計画とは絶望的なまでにミスマッチだった。


「ここが……冒険者ギルド……」

「思ったよりデカいな。活気もあるみてぇだ」


 セシリアが緊張した面持ちで建物を仰ぎ見、リリアーヌは好戦的な笑みを浮かべて腕を組む。その隣で、俺はマリアナ海溝の最深部よりもさらに深いであろう、絶望的なため息を心の内で吐き出していた。


 ああ、我が夢のハーレムよ、君は今いずこに……


 重々しい樫の扉を押し開けると、むわりとした熱気と、汗と酒と、そして微かな血の匂いが混じり合った、独特の空気が俺たちを包み込んだ。

 広く高い吹き抜けのホールには屈強な鎧姿の戦士や、軽装の斥候、ローブをまとった魔法使いらしき者たちでごった返している。

 壁一面に設置された巨大な掲示板には、無数の依頼書(クエスト)が所狭しと貼られていた。

 まさにファンタジー世界の王道。俺が求めていたのはもっとこう、裏路地の薄暗い酒場で繰り広げられるような、背徳的な出会いだったのだが。


「あの、すみません。冒険者の登録をしたいのですが」


 俺は意を決してカウンターへと向かった。カウンターの向こうでは、栗色の髪をポニーテールにした、快活そうな女性職員が笑顔で迎えてくれた。その胸元には、ギルドの紋章と共に「受付」と書かれたプレートが輝いている。

 おお、ギルドの受付嬢。これもまたファンタジーの王道。だがしかし、俺のハーレムメンバー候補としては、残念ながら審査対象外だ。俺の理想は、俺だけに尽くしてくれる専属の奴隷ハーレムなのだから。


「はい、新規登録ですね! こちらの用紙にご記入をお願いします。それから、登録には簡単な実技テストがありますけど、大丈夫ですか?」

「実技テスト?」

「ええ。皆さんの実力がどの程度か、こちらで把握させていただくためのものです。それによって、受けられる依頼のランクが決まりますので」


 受付嬢がにこやかに説明する。なるほど、合理的だ。

 だが俺には神様から貰ったチート能力《神の祝福》以外、これといった戦闘スキルはない。いや、そもそも《神の祝福》は治癒能力であって、戦闘には全く向いていない。これはまずい。


 俺が内心で冷や汗をかいていると、隣にいたリリアーヌが、待ってましたとばかりに一歩前に出た。


「実技テスト? 面白ぇ。アタシがやる。相手は誰だ?」

「え、ええと、では訓練場のゴーレムを相手にしていただきますが……」

「ゴーレム? 上等じゃねぇか。ぶっ壊せばいいんだろ?」


 リリアーヌの瞳が獲物を見つけた肉食獣のようにギラリと光る。そのただならぬ覇気に、快活だったはずの受付嬢の顔が、わずかに引きつった。


「私も、援護します。リリアーヌ一人では、少し心配ですから」


 セシリアも静かながらも強い意志を込めて名乗りを上げる。


 こうして、俺を完全に蚊帳の外に置いたまま、二人の実技テストが始まった。

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