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私の決断

あれから、私たちは会わなくなった。


たまに、ぽつりと連絡を取り合うくらい。

通話は、2ヶ月に一度。

会うのは、お互いの誕生日だけ。


それ以外の日々は、ただ過ぎていった。


前みたいに、何気なく笑い合ったり、ふざけたり、じゃれ合うこともなくなって。

自然と、そんな関係になっていた。


彼は変わらなかった。

私が拗らせて、臆病になって、逃げて、距離を取った。

それでも彼は、何も言わず、いつも通りだった。


本当に、いつも通り。


そうして一年以上が経った。


──勝手に拗らせて、勝手に遠ざかって、勝手に苦しくなって。

自分だけがぐちゃぐちゃになっていくのを、冷静な彼の優しさが、ただ静かに映してくる。


こんなことになるくらいなら、いっそ全部終わらせた方が楽なのに。

そんな考えが浮かんでは、怖くて消して。

ずるずると関係を続ける自分が、情けなかった。


でも。


その夜、私は開き直ったように、スマホを開いていた。


「寂しい」


たった、それだけ。

勢いで、短く送った。


茶化すようにじゃなかった。ふざける余裕もなかった。

本気で、心から、苦しくて――

言葉にならない感情を、ぎゅっと一言に詰め込んだ。


だけど、すぐには返事が来なかった。


──ああ、やっぱりだ。

そう思って、スマホを伏せた。

期待なんてしてない、そう言い聞かせながら、布団に潜り込もうとした、その時。


「ちょっとだけなら」


画面に表示されたその文字に、心臓が跳ねた。


思わず息をのんだ。

嬉しいはずなのに、怖かった。


“何を話せばいいんだろう”

“なんで、こんなふうにしか言えないんだろう”


通話の呼び出し音が鳴る。

たったそれだけで、胸が苦しくなるほど高鳴っていた。


──バカみたい。


出るべきか、迷って。

でも、通話ボタンを押した。


「……もしもし」


彼の声が、静かに耳に届いた。


相変わらずだった。穏やかで、少しだけ眠そうで。

でも、いつもより少しだけ優しい気がして。


それが余計に、心を締めつけた。


なんでこんなに、好きなんだろう。

なんでこんなに、言えないんだろう。


「……」


言葉が出ない。


「どうした?」


彼の声が、私の沈黙をやさしくすくい上げる。


その一言だけで、また、涙が出そうになった。

ほんの少しのやさしさに、期待してしまう自分がいる。


でも、彼はきっと――

誰にでも、こういうふうに優しいだけなんだ。


“私だから”じゃない。


特別だと思いたいのは、いつだって私だけで、

彼の中にある優しさは、誰にでも向けられるものなんだ。


通話越しの彼は、ずっと変わらなかった。

優しくて、温かくて、届きそうで、でも決して手には入らない。


──この声を聞きたくて、「寂しい」って言った。


でも本当は、「好き」って言いたかった。


それすら言えないまま、私はまた、他愛もない話をして

“何もなかったように”通話を終える。


好きなのに、近づけない。

想っているのに、伝えられない。

優しさが残酷に感じるほどに、私はまたズルズルと甘えてしまう。


言わなかったんじゃない。


……言えなかっただけだった。


“好き”の一言が、どうしてこんなに重いんだろう。


口に出せば、きっと何かが変わってしまう。

今の関係さえ、壊れてしまうかもしれない。

そう思ったら、怖くて、震えてしまった。


たった一言で、すべてが終わる可能性。


その先に「同じ気持ち」が返ってくる保証なんてどこにもない。


私はずっと、

「彼女がいるから」

「タイミングじゃないから」

「今は距離があるから」

そんな風に、気持ちに“理由”をつけて、引き下がってきた。


でも、もうその理由はどこにもない。


彼は自由になった。

私と話してくれる。

たまにでも、ちゃんと会いに来てくれる。


――なのに私は、もうずっと“ここ”に立ち尽くしている。


近づきたい。

でも近づいたら、終わる気がする。

“この気持ち”が伝わった瞬間、彼は一歩、離れていく気がする。


今のままなら、きっと彼はこの距離にいてくれる。

私が笑えば、彼も笑ってくれるし、

私が寂しいと言えば、通話に付き合ってくれる。

優しい声で名前を呼んでくれる。


……それでいい、と思ってしまう自分がいる。


欲張りになっちゃいけないって。

この関係を失うくらいなら、何もいらないって。

“報われなくていい”なんて嘘なのに、

そんな風に思い込もうとしてる。


本当は、ずっと、伝えたかった。

「好きだよ」って、たった一言。

言いたくて、ずっと、言えなくて。


彼の声が、笑いが、仕草が――

全部が、私を好きにさせたのに。


“私のことを、どう思ってるの?”

そんな問いを、心の奥で何度も叫んでるのに、

それを彼にぶつける勇気も、ない。


だって、彼は優しいから。

私の気持ちに気づいていても、

気づかないふりをしてくれているかもしれない。


それでも笑ってくれる。

知らないふりで、いてくれる。


そんな彼のやさしさに、私はいつも救われて、

同時に、突き放されている。


だから、私は言わない。


好きって言わない。

言ってしまったら、もう戻れなくなる気がするから。


これからもきっと、

通話の終わりに「おやすみ」と言ってくれる彼に、

「おやすみ」とだけ返して、

胸の奥で“好きだよ”を握り潰して、

私はスマホの画面を静かに閉じる。


――そんな夜を、繰り返していくんだと思う。







日記やスマホのメモにずっとあった私の記憶や想い、それらをやっとまとめれました。

私に興味無い彼をずっと追いかけたいんです。来世があるなら次は素直に結ばれたい。


初めての投稿なので素人文で拙く読みづらさがあればすみません。

最後まで読んでくれた素敵な方いましたら、本当にありがとうございます。

励みになるので反応くれると嬉しいです。

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