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私に向かないでほしい

証拠も無いのに、″彼女の仕業″と言ってしまう。

変化のきっかけを作ったのは私。

波風立たせず穏やかだったあの距離を誰よりも大切にしていたのに、欲が出たせいで--


これからどうしたいのか向き合う時がきてしまった、矛盾だらけな″私″が揺れ動く感情をどう表現するのか見守っててほしいです。



通話が終わったあと、布団に潜りながらスマホを見つめていた。


画面には、彼との通話の履歴がまだ残っている。

バイブ音が鳴る直前まで、私たちは他愛もない会話をしていた。

眠そうな声。途切れそうな笑い声。

ほんの数十分のやりとりでも、私はそれだけで幸せだった。


それなのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。


あんなふうに、ちゃんと話を聞いてくれて、

「怖いね」と言ってくれた彼は、きっと優しい人だ。


不安を笑わず、スルーせず、まっすぐ受け止めてくれる人。


でも――

彼の優しさが、どうしても、私には刺さるように感じるときがある。


たとえば今日みたいに。

「それは怖いね」って、穏やかに共感してくれたそのあと、

何もしようとしないところまで含めて、優しさなのだとしたら。


私は、その“やさしさ”に、どうしようもなく置いていかれてしまう。


彼は誰も傷つけたくないんだと思う。

彼女も、私も。

きっと、どちらもなるべく傷つかずに、やりすごしていきたい。


でも、それってつまり――

誰もちゃんと選ばない、ってことじゃないの?


私は、彼に選ばれたいんじゃなかったのか。


「今はお前といる時間だから」って、あの言葉に救われたあの日から、

ずっと、私は彼の隣にいられることを願っていた。


でも本当はずっと、彼は誰の隣にも“ちゃんと”立ってないのかもしれない。


優しい顔で、絶妙な距離を保ちながら、

誰も否定せず、誰の感情にも入り込みすぎないように、うまく立ち回ってる。


私はそんな彼の態度を、

“やさしさ”だと思い込んでいた。


でも違う。

これは――誰にも深入りしない“逃げ”だ。


もちろん、私だって本当のところはわからない。

彼が今、どんな気持ちでいるのかも。

彼女とどうなっているのかも。

どれだけ本気で私のことを見てくれてるのかも。


だけど、わからないまま、そばにいたいと思っていた私は、

きっと彼と同じだった。


本音を言わずに、優しさにすがって、

ぬるま湯の中で「選ばれない」ことをごまかしていた。


そのことに、やっと気づいた。



私はきっと、彼の“やさしさ”には向いていない。


「大丈夫」って笑われるたびに、

本当は、心がずっとざわざわしていた。


そんな気持ちごと丸ごと抱きしめてくれるような、

“やさしさ”を求めていたんじゃない。


私は、本当は欲深い人間なんだ。

ちゃんと誰かに選ばれたかった。

怖くても、曖昧じゃなくて、ちゃんとした言葉で。


なのに私は、

選ばれないまま、選ばれたようなフリをして、

ここまで来てしまった。


もう、限界かもしれない。




つづく

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