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出てしまった言葉

感情で動いてしまう愚かさ、寂しさをどうしてぶつけてしまうのか。

あの時ああしなければ…いつも自分の行動がおかしくする。

彼女よりも優先してくれることに、私はここ最近浮かれていた。


「大丈夫、今はお前といる時間だから」

そう言って笑ってくれる彼の言葉に、私は毎回救われて、甘えて、満たされていた。


彼の仕事が忙しくて中々時間が合わず、1ヶ月以上会うことも連絡もしなかった。


その夜は無性に寂しかった、せめて寝る前の10分だけでもいい。

彼の声が聞きたいと思って、わがままを言った。


「眠い〜」って愚痴をこぼしながらも、彼は通話に応じてくれた。

声を聞くだけで、私の頬は緩む。

この日も遅くまで仕事に追われていたらしく疲れて眠そうなのが伝わってきた。

断ればいいのに、優しいな…


ほんの少しの時間でも、こうしてつながっていられることが嬉しくて。

そのまま、眠るように会話を終えるはずだったのに――


突然、彼のスマホからバイブ音が鳴った。


一瞬で現実に引き戻される。

頭のどこかが、チリリ…と痛んだ。


“ああ、そうだ。彼には彼女がいるんだ”


──どうして、今、この瞬間に。


そんな気持ちが、喉の奥に詰まって、

気づいたら私は、言ってしまっていた。


「……誰かさんとのツイートをすると、必ず引用とリプがついてるんだよね」

「こっちからは見えないの。鍵垢なんだと思う」


言葉が止まらなかった。

心の中でずっとくすぶっていた不安が、音に乗ってこぼれ出す。


「最初はね、バグかなって思ってたの。でも他のツイートにはないの」

「わざと君のこと書いたら、やっぱり来るの。……怖くて、なんか、嫌で」


ああ、本当は言いたくないのに。


彼は、急に静かになった。

さっきまでふざけて笑っていた彼の声が、相槌が、すっと、真面目なトーンに戻る。


「……ねえ、これって君の彼女じゃない?」


そう言ってしまった自分が、信じられなかった。


言いたくなかった。

これはただの憶測。証拠もない。

見えないまま責めるのは、あまりに一方的で、卑怯で。

それでも――口から出てしまった。


「え、なにそれ……いつから?」


彼の声は、静かで、冷静だった。

私の心臓は、ドクドクとうるさいくらいに鳴っていた。


「……3ヶ月くらい前から」

「バグかなって放置してたけど、ちょっと変で……でも勘違いかもだから、ほんとに全然気にしないで」


言葉を繕いながら、どこかで後悔していた。

“やっぱり、この話題は出すべきじゃなかった”って。


「誰がやってるか分かんないけど……それ普通に怖いな」

「相手には見えないのに、そんなことする意味わかんないわ」


そう言ってくれた彼の声は、ちゃんと真剣だった。


でも――

私は心のどこかで、彼の「答え」を探していた。


彼女の仕業かもしれない、という可能性を、

彼がはっきり認めてくれることを。

そして、もしかしたらその先に、

何かを“選んで”くれるかもしれない――そんな期待を、してしまっていた。


だけど、彼は「怖いね」と言っただけだった。

その“誰か”が誰なのかについても、

そのあとに何をするかについても、何も言わなかった。


たぶん、それが彼なりの“優しさ”なんだと思う。

不安な私に寄り添うような言葉だけ残して、

誰も責めない。何も深くは問わない。


でもその優しさが、今は少しだけ、苦しかった。

つづく

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