高3、12月―——。
ある日、突然 舞い降りてきた初恋は3分で心を奪われた――――ーーー。
貴方のオレンジかかった黄色い髪も、その仕草も、貴方の全てから目が離せない。
会場全部を巻き込むパワフルなパワー。もう、ドキドキが止まらない。
その眼差しで真っすぐ見つめられると、貴方から目が離せなくなる。
私の心はどんどん貴方に吸い込まれていくようだ。
感情をせつなく歌うラブソングに心がぎゅっと しめつけられる。
気づいたら私はこの恋に走り出していたーーーーーーー。
―――そして、私は再びペンを持つのだったーーーー。
高校生活も残り4カ月――——。
そして、私の人生もこれまでかと……タイムリミットが徐々に刻々と確実に
迫ってきていたーーー。
私、清野青葉、18歳。8月生まれの乙女座。夢は漫画家。
中学の時から描き続けてきた漫画。でも、決して私はアニメオタクではない。
初恋どころか恋愛経験もなく、自分の描いてきた主人公の男の子にいつも
胸キュンしてきた。
「要するに恋愛経験ナシってことね」
体をこっちにひねり頬杖をつきながら白川那波がさらりと
言った。くるりと巻いた栗色の髪は天然パーマらしく、「この髪、実はあまり
好きじゃないんだ」と、髪をいじりながらいつも口癖のようにボヤいている。
だけど、毛先が太くて枝毛だらけの私からしてみれば、めっちゃ可愛らしく
チャームポイントだと思うのだが、那波は自分の天パーが気に入らないみたいだ。
なのに那波はヘアーメイクさんになるのが夢らしいのだから矛盾している。
多分、那波は自分のコンプレックスである髪に関係がある仕事に携わる
ことで克服しようとしているのかもしれない。というより、毎日、色んな髪型を
してくる那波を見ていると、もうすでに克服しているように思う。しかも那波の
センスには圧倒される。どんなヘアーだって自分で演出できるほど めちゃくちゃ
器用だ。それは、きっと那波がヘアーメイクという仕事に向いているからだろう。
小顔で肌の色も白く、お目目もパチクリ大きくて漫画に出てくるような美少女。
私とは真逆のタイプの那波はどんな髪型だってアレンジできるセンスの持ち主で
コンプレックスを自分のプラスに変える。その結果、見事、東京ヘアーメイク
専門学校へ合格した。
「アオは幻想を抱きすぎるのよ」
シャキっとしたシャープな顔立ちと凛とした背筋でスタイル抜群。背中まで伸びた艶がある黒髪は癖のないストレート。相変わらずはっきりとした口調で直球に物事を言う吉見千里は常に学年トップの座を守り続け成績優秀で学級委員長と生徒会長を兼任している。勿論、偏差値90以上という一流大学である東栄大学に一発合格。父親は東京に幾つもビルを持ち会社を経営している社長さん。
母親は地元でお花を教えている先生だが千里が東京にある東栄大学合格を機に家族で東京に移住するらしい。お金持ちで才色兼備を持つ千里は堅物のお嬢様だ。そんな千里がなぜ私と親友をしているのか謎なくらいだが、いつも一人で静かに小説を読んでいる千里を見て、4月のクラス替えからすぐの席替えでたまたま隣同士になった私は思い切って声をかけた。その事がきっかけで、いつの間にか友達になって、すぐに何でも話せる親友にまで昇格していった。
あれから色んな出来事があり、ひと夏を越え、気づいたら紅葉が舞う
秋を迎え、あっという間に12月だ――—-ーー。
大学や専門学校の受験は高校受験に比べて少し早く、合否通知も2学期終了頃までには学校へ連絡がきている。県外へ受験する子もいる為、余裕をもって上京できるように準備期間を設けているのだろう。また念の為、不合格者も地元の大学受験や企業へ就職が受けられる2次募集に間に合うように配慮されている。そんな世間一般常識的なルールもあって、できるだけ一人の脱落者も出すことなく皆が無事に
社会に出れるように学校側も企業や大学・専門学校もこのシーズンは神経をすり減らしている事は間違いないだろう………。
来年、4月から二人は晴れて東京行きが約束されている。
クラスの皆もきっと進路が決まっているだろうな………。
進路が決まっていないのは おそらく私だけかもしれないーーー。
季節が変わり二人は着々と大人へと成長しているのに、一年の時から私は何も変わっていない。何だか私だけが取り残されてみたいで、二人の事を羨ましく思う自分が嫌になる。ひたむきに夢を追い続けてきたが、それでも何一つこの手に掴んではいない。そして、この時の私はあきらめきれない夢にしがみついて未来さえも見えなくなっていたんだ。三年生になって五月の頃、渡された希望の職種や大学を記入する用紙に第一希望から第三希望欄に漫画家と書いた。三者面談で先生は「よく、ご家庭で話合ってください」と母に言った。ふと、母の顔を見ると顔色一つ変えないで黙ったまま何も言わなかった。
その帰りの事だ。教室を出ると、「それじゃね、お母さん、まだ仕事が残ってるから行くわ」
と、背中越しに聞こえた母の声が何だか他所事のように感じた私は気づいたら母を追いかけていた。
そして、中央玄関出た時、
「お母さん、今日は来てくれてありがとう。……ごめんなさい……」
立ち止まる母の背中が私の目に映っていた。
「貴方との約束だから、この一年間は何も言うつもりはないけど、もしも
それでも芽が出なかったら今度こそは漫画家をあきらめて地元で就職しなさいよ。
それができないなら家業を継ぎなさい」
「はいーーー」
一方通行な私を更に上をいく母の正当な言葉に私は何も言えなくなって
『はいーーー』と言うしかなかった。
期限付きの私の夢は叶わないままもうすぐ終わろうとしていた―――――ーーー。
多分、私にとっての夢は夢のまま終わっても仕方がないくらいの憧れや幻想、妄想などと同じようなことだったのかもしれない。
――――――そう・・・・・・
あの人と出会うまでは―――――――――――――――。