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ダンジョンコアでマジョリティ&ロイヤリティ  作者: くろのわーる
第3章 横跳び界隈

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第92話:ボロボロなハート



 夏休みも残り僅かになってきた頃、学生らしい夏休みとは無縁の場所にいる。


 探索者協会ビルの一角、ギルドマスターの部屋の前。


 白線で区切られた仮想フィールド。その境界線ギリギリに、俺は倒れ込んでいた。


 理由は一つ。


 俺はついにサイドステップをマスターした。


 だが体力は底を尽き、境界線に跨がるように大の字で倒れている。


 荒い息は達成感の現れだ。


 ……たぶん。


「お疲れ様、やっぱり基礎レベルが高いからマスターするのも早かったな」


 俺を見下ろすように立つ、陽輝の顔は笑顔だった。


 短い付き合いだが分かる。


 こういう笑顔の時は大抵、碌なことを考えていない。


「よし、次の訓練に移るぞ」


 ほら来た。


 やっぱりか……と恨めしい目で見返すが、当然のごとく何の効力もない。


 こいつに情けという概念はないのか。


 陽輝は体育教師のように軽く手を叩くと、俺に新しい訓練の説明を始めた。


「次は俺との模擬戦だ!」


「いや、俺まだ動けないんだけど、見てわかんねえの?」


「疲れた時にやるから意味があるんだ!」


「そうよ!いつも万全の状態で戦えるわけじゃないのよ!」


 援護射撃のように聞こえるが美嘉さんはスライドボードに夢中で見向きもしてないよ。


「どこのスパルタ強豪校だよ……」


「よし行くぞ!転移!」


「人の話を聞けぇ!」


 愚痴る俺を陽輝は無理矢理に転移させる。


 言い終わる次の瞬間、身体がふわりと浮く。


 一瞬の浮遊感の後、初めて見る広大な訓練場。


「喜べ、お前の為に作った訓練場だぞ!」


 床も壁も天井も、すべてが無機質な白。何処か既視感があるがあえて、何も言わない。


「どうだ?凄いだろ?」


 胸を張る陽輝。どうだ凄いだろ?と全身でアピールしているがそれも束の間。


「ん?んん!?なんだっ!?」


 急に慌て出す陽輝。


 手を振り、何かを操作するような仕草を繰り返すが俺には予想がついていた。


「なっ!?俺のダンジョンマスター権限が奪われた!?」


 ラスボスが来るぞ、来るぞ!と顔がニヤついてしまう。


 俺の隣に転移陣が現れるとそこにはアルティメット唯衣が立っていた。


『勝手に私の颯夜を連れていかないでくれる?』


 低く冷えた声。空気が一段階下がった気がした。


 不機嫌さを露わに睨む完全武装の唯衣。これで二段階は下がった。


 権限を奪われて、意味が分からず狼狽える陽輝。


 笑わずにはいられなかった。


『颯夜、これ飲んで』


「いや、ちょ――」


 唯衣は俺に近付いて来ると有無を言わさずに小瓶を口に突っ込んできた。


「にがぁ!?うげぇ!」


 脳を貫き、舌が千切れるような苦さ。一瞬、毒を盛られたかと思ったが身体が淡い赤色の光を放つ。


「なっ!?まさか!だだの疲労程度でエリクサーを使ったのか!?」


 陽輝の声が裏返る。


『そうよ』


 淡々と答える唯衣に陽輝は戦慄を覚えた。


 エリクサーの効果で完全回復した俺はゆっくりと立ち上がる。


「で、なんで陽輝と模擬戦なんだよ」


 信じられない者でも見たのか、唖然とする陽輝。


「いやいや!そんな手軽にエリクサーを使うなよ!」


 たぶんこいつは、RPGで最後まで回復アイテムを温存して、結局使わずにクリアするタイプだ。


 ……うん、俺と同じタイプ。


『別にいいじゃない。このダンジョンのポイントなんだし』


 出処を知った陽輝は即反応する。


「このダンジョン!俺のものなんだけど!」


『今は私のものよ』ドーン!


 効果音が聞こえた気がした。


 無慈悲で正当な発言。陽輝は何も言い返せず、口をぱくぱくさせる。


「で、もう一回聞くけど、なんで模擬戦なんだ?」


 肩を落とし、項垂れる陽輝はゾンビのようにゆっくりと振り向く。


「……颯夜、お前……戦闘経験少ないだろ特に近接戦とか……」


 図星だ。


 他の探索者達に比べたら、普通だと思うが陽輝の基準では少ない部類になるだろう。


 とりあえず、素直に答えておく。


「そりゃあ、陽輝達と比べたら少ないと思うよ」


 陽輝は「だろ?」とばかりに頷く。


「サイドステップをマスターして、他のスキルも強化しても経験がなければ、スキルは活かせないことは知ってるな?」


「ああ、そうだな」


 理屈は理解している。


 サイドステップをマスターしたとはいえ、近接戦をやってきていない俺では役に立たない可能性が高い。


「ハッキリ言って、今のままでは優斗に鼻息でやられるぞ」


 あんまりな発言に唯衣の反撃が飛ぶ。


『私には速攻で権限取られたくせに……』


 唯衣がトドメを刺しにいっている。


 クリティカルヒットしたのか、急に胸を抑えながら叫ぶ。


「返せよ〜!俺の権限!」


 唯衣の視線が鋭くなる。


 大鎌を肩に掛け、足を肩幅に開き、無礼者を見据える。


 完全に処刑人の構えだ。


 決着は早かった。


「調子に乗って、すいませんでした!返していただけませんか?ダンジョンの権限……」


 地面に額が付きそうな勢いで頭を下げる陽輝。


 最初の笑顔はどこへいってしまったのか、模擬戦の前に陽輝の心はすでにボロボロだった。


 ……たぶん、俺よりダメージ受けてる。



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