91話︰握手
サイドステップを始めてから、もう3日が経つ。
残された夏休みも後僅かになってきた。
この日も朝から店番がある親父以外の全員がサイドステップをしていると陽輝がやってくる。
「みんな、ご苦労様」
その顔には笑顔が張り付いていた。
機嫌が良いことを察した俺は足を止めて、休憩に入る。
「おう、颯夜。もう疲れたのか?」
「いや、前から陽輝に聞きたかったことがあって」
怪訝そうに眉を上げて、警戒する。
もうちょっと、信頼してくれても良いのでは?と思いつつも気にしない。
「ダンジョンの購買機能のラインナップを見せてくれ」
大したことを言った訳でもないのに陽輝の顔が濃くなった気がする。
「なんの為に?」
「単なる興味本位だ」
『颯夜の言う通りだけど、出来れば互換性の確認もしたいわね』
唯衣も自分の領分だからか身を乗り出すように陽輝に迫る。
「わ、わかった。けど、あまりイジるなよ!」
陽輝は唯衣に対して、苦手意識があるように見受けられる。
まあ、一度本気で怒らせてるし、首を落とされそうになってるから仕方ないか…。
『……心外ね』
俺達は会長室に赴く。
「本当にイジるなよ?」
どれだけ信用がないのか、陽輝がダンジョンディスプレイを開き、指先を俺に向けて振る。
すると空中に浮いたディスプレイが目の前に滑るように飛んできた。
内容は以下だ。
・ダンジョンレベル 【4】
・ダンジョンポイント 【81547635DP】
・ダンジョンの作成
・ダンジョンの編集
・モンスターの作成
・モンスターの配置
・アイテムの生成
・その他
やっぱり、俺の秘密基地とは違うなと思いつつ、表示されたディスプレイを眺める。
「う〜ん」
『唸って、どうしたの?颯夜』
「うん、ダンジョンにもレベルがあるんだと思って」
『それはあるわよ』
平然と言ってのける唯衣に改めて、その存在の根源を認識する。
『ダンジョンレベルでダンジョンの大きさや広さ、強い武具やモンスターの生成解放とか設定出来る範囲、条件が増えるのよ』
流石、唯衣だぜ。今度からダンジョン博士とでも呼ぼうかな。
『呼ぶのはいいけど、美少女も付けて』
他愛ない会話で唯衣と肩を寄せ合いながら、順に見ていく。
途中、ダンジョン編集で1階の受付フロアをナーロッパの冒険者ギルド風に模様替えしたら、速攻でクレームの内線が陽輝の元に届いて怒られる。
「なあ、俺がなんて言ったか覚えてるか?」と凄んできた。
俺は実際に見てから決めてもらおうか!と強気だ。
結果、月一回の頻度で模様替えが決まった。
そして、一番見たかったアイテム生成欄に移る。
アイテム生成欄にはスキル、武具、消耗アイテムなど、秘密基地と似ていた。
正確には秘密基地がダンジョン機能を利用しているから当たり前なんだけどね。
俺は指でスクロールして、アイテム類を流しながら見ていく。
内容は変わらないがこっちはセール中のように必要ポイントが少ない。
『ん、颯夜。私これが欲しい』
「あいよ!ポチッとな」
他のみんなが稼いだダンジョンポイントで交換するアイテムは気分が最高だ。
唯衣が欲しいという衣服をポチッてはアイテムボックスへと突っ込む。
服類が終わり、1人ファッションショーをすると言って、唯衣は自室に戻っていった。
そんな中、俺は他のページを見ていると気になる道具を見つけた。
まさにピタゴラ的発想が芽吹いた瞬間だった。
早速、ポイントと交換してアイテムボックスにしまうと境界線へと戻る。
みんなが汗を流し、頑張る中。
アイテムボックスから例の物を取り出す。
みんなの視線が全て俺に集まる。
俺が出した道具はスケート選手とかが練習で使うスライドボード。
意気揚々とスライドボードに乗ると右へ左へと滑る。
これだ!俺が求めていたのはこれなんだ!
サイドステップに飽きていた俺は再び新鮮な感覚でダンジョンポイントを稼ぎ始める。
「ちょっと、颯夜君」
気付けば、目の前に美嘉さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「はい、なんでしょう?」
「それを私に貸しなさい」
な、なんだと!ジ○○アン的発言に俺の軽やかなスライドが止まる。
その隙を狙ってか、強引にスライドボードに乗るとスライドの勢いで俺を弾き出す。
「ふふ、良いわね…これ」
僅か数回でコツを掴んだのかスケート選手を彷彿させる綺麗なフォームでスライドし始める。
ふっ、ふっ、ふっ
規則正しい呼吸。その目はアスリートだった。
「颯夜君、この道具は君にはまだ早い」
美嘉の俺を見る目は鋭い。
「だから、この道具は今日から私が使うわ」
よく分からないが勝ち誇った顔に俺は半べそになる。
「この道具はサイドステップを極めた者のみが使える」
意味の分からない言葉に悔しさから俺は会長室へと逃げるように戻る。
「はるえも〜ん、ダンジョンディスプレイ出してよ〜」
「戻れ!」
出さないじゃなくて戻れ?
「颯夜お前、ダンジョンポイントどんだけ使ったんだよ!今すぐ戻って稼ぎ直してこい!」
こんな優しくないの俺の知ってる、はるえもんじゃない。
『どうしたの?颯夜』
その時、着替えた唯衣が秘密基地から戻ってきた。
「唯衣、聞いてくれ!美嘉さんにスライドボード取られて、はるえもんがポイント稼いで来いって」
「はるえもんって、誰だよ!」
『…そう、世の中には酷い人達がいたものね』
解ってくれるのはやっぱり唯衣だけだ。
『颯夜、取り戻しに行くわよ!』
駆け出す唯衣の後を追い、俺はさっきよりも洗練されたスライドを見せる美嘉さんを睨む。
『姉さん、そのスライドボード…』
ゾーンに入っていた美嘉は唯衣にすら、鋭い目を向ける。
『私と交替制にしましょう!』
「いいわよ。私が唯衣ちゃんを一流のスケーターにしてあげる!」
唯衣と美嘉は熱く固い握手を交わすのであった。
……俺、どこいった。
来週はもう少し真面目に書きます。(たぶん)
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