87話︰張本人
アトミック・ボムズアウェイを片手で受け止められた俺は気を取り直して、再び椅子の上に立つ。
「もういい!もういい!わかったから!」
何がわかったのか分からないが陽輝がうんざりしているようなので大人しく、椅子に座り直す。
「冗談だと思ってるかもしれないが手っ取り早く強くなるにはこれが本当に早いんだよ」
「そんなにサイドステップのスキルは強いのか?」
黒腹との戦いで見た陽輝の幻光蝶は確かに脅威と浪漫以外の何物でもなかった。
「使えた方が便利には違いないがサイドステップのスキルを覚えるのは副次的効果みたいなものであくまでメインはダンジョンポイントだ」
『あっ!稼いだダンジョンポイントで購買機能を使うのね』
どうやら唯衣がまた気付いたらしく、話の続きを奪おうとタイミングを計っていた美嘉が前傾姿勢からゆっくりとソファーにもたれ掛かるように戻る。
「そうだ」
唯衣の答えは合っていたようで陽輝はニヤリと笑う。
『でも相手はレベル500を超える魔人。優れた武具やスキルの種類を増やしたところで御影優斗に勝てるようになるとは思えないけど』
唯衣の言う通り、優れた武具を手に入れても御影優斗も優れた武具を所持している。
また、スキルの種類が増えたところで使い熟せなければ意味はない。
颯夜の秘密の奥義を使って、レベルを半分にしたとしても相手の方がまだ50以上もレベルが上なのだ。
何より颯夜の奥義は陽輝や美嘉にも適用されるので御影優斗と戦うとなれば、実質的に颯夜、唯衣対御影優斗となる。
(唯衣はアルティメットスキルなので適用外)
陽輝や美嘉は颯夜の奥の手を知らないが教えることで変に期待されて、颯夜が無理させられる事を唯衣は危惧している。
「確かにそれだけでは勝てないだろう」
『なら……』
「まあ、待て。そう決断を急ぐな」
2人の話はまだ終わりそうにないので俺はモコと戯れる。
「今、提案しているのは颯夜の基礎固めみたいなものだ」
俺の話が出たから目線を陽輝に向けてみる。
「今の優斗と対等にやり合うにはここにいる4人が手を合わせる必要がある」
全員、異論がないようで頷いてしまう。
「だが手を合わせるにしても実力差があっては連係は上手くいかない」
「つまり、俺と唯衣が足を引っ張ってるってことか……」
「正直に言えば、そういうことだ」
陽輝の戦いを見て、素の実力差がある事は解っていたがこうやって、直接口に出して伝えられるとなかなか堪える。
俺にだって、秘密の奥義があるんだぞ!と言いたいが秘密なので言わないけど……。
「わかった。やってよろうじゃん!」
《7つの大災厄、憤怒の魔人が誕生しました。》
「「「!?」」」
『!?』
俺の決意を加速させるようにワールドアナウンスが響く。
それにしても《憤怒》と言えば、俺が倒した牛魔帝が持っていた7つの大罪スキルと聞いたはずなんだが確認の為、アイテムボックス内にある牛魔帝の魔核を取り出す。
「唯衣、この魔石を確認してくれ」
『わかったわ』
陽輝と美嘉は急に慌て出した俺達に戸惑っているが説明は後だ。
『……力が失われているわ』
「急に魔石なんて取り出して、どうしたんだ?」
俺が以前、憤怒の魔王を倒したことを知らない陽輝達は憤怒の魔人の誕生など、何処か遠くで起こった出来事だと思っているのだろう。
だが俺達は憤怒と関わりを持ってしまっている以上、今後の憂いにも繋がるかもしれないので説明する。
「この魔石は憤怒の魔王を倒して、手に入れた魔石なんだ」
「はぁ!?」「えぇ!?」
話の掴みは良かったようなので俺は親父が牛肉を食べたいと言い出したところから説明していった。
「そう言えば、少し前に憤怒の魔王が倒されたって、ワールドアナウンスが流れたな……それにしても最初の親父さんの話は要らなくないか?」
「そうね、憤怒の魔王を倒した話より牛肉の話の方が壮大でウェイトが大きかったわね」
2人の言う通り、説明を始めたら飛騨ミノタロス肉の美味しさとその時の感動を思い出して、話のウェイトがそっちに偏ってしまったことは否定出来ない。
「まあ、日本に7つの大罪のひとつ《憤怒》が存在していたことは重大な事案だから俺の方で他の地域の探索者協会に共有と新たな魔人の捜索は手配しておく。………………はぁ」
自分には関係ないと高を括っていたのにまさか自身の管轄内でそんな重大事案が起こっていたことを知らされ、一気に疲れた表情になった。
『今日はもう遅いから解散にしない?』
「そうね、お兄ちゃんもこれから探索者協会に戻って報告書とか作らないといけないんでしょ?」
「ああ、颯夜。こんな時間に仕事を作ってくれてありがとうな」
全然、ありがとうって顔でもないし、声も弾んでいないんだが…………。
でもありがとうって、感謝されてるからウザムーブで返しておくか。
「陽輝!俺なんて大したことしてないからそう畏まるなるなよ!」
ついでにサムズアップしておけば、陽輝のこめかみに青筋が浮かぶ。
「颯夜、会長命令だ。憤怒の魔王を倒した時の詳細な報告書を提出しろ!」
「はぁ!?報告書なんて書いたことないし!俺、高校生なんですけど!」
「うるさい!原因を作った張本人が書くのが当たり前だろうが!提出は明日の朝までだ!」
そう言うと陽輝は反論は聞く気もないとばかりに秘密基地から出て行った。
なるほど、原因を作った張本人かぁ……。つまりは牛肉を食べたいと言い出した親父だな。
「ちょっと、親父に報告書書くように言ってくるわ」
父親の報告書はこれから始まるのであった。
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