82話︰古き良き時代
審問会が終わり、静かになった会長室では傍聴者だった者達が再び元の位置に戻り置物になる。
「陽輝、あいつらどうするんだ?」
俺の素朴な疑問に陽輝は淡々と答える。
「この際だから探索者協会内の大掃除をする予定だ。あいつら子飼いの探索者や情報を流していた職員がまだいるからな。尋問して吐くまでは殺さない」
「お、おう、そうか」
普通に殺すと言えるところに激動の時代を生き抜き、数々の死線を乗り越えてきた漢の信念と覚悟を感じて、俺は思わずたじろぐ。
「一先ず、これで俺の私怨も決着した。ここまで付き合ってくれたことに改めて、皆にはお礼を言う。ありがとう」
陽輝が深々と頭を下げる。どれだけ偉くなっても頭を下げられるのは陽輝の美徳だろう。
現に置物達は感服しているのか今にも泣きそうだ。
「それでお兄ちゃん。優斗さんのところにはどうやって行くの?って言っても唯衣ちゃん達に頼るしかないか…」
頃合いを見計らっていたのか美嘉がこの後の移動について、問い掛ける。
「そうだな、俺はダンジョンマスターになったことで本当ならここから動けないが・・・颯夜、悪いが例のやつで頼む」
普通に考えてもそれしかないし、御影優斗と顔を繋ぐには親友の陽輝がいてくれた方が繋ぎやすいので俺は了承する。
「了解。それから健士、夏輝それと護衛さん」
俺の呼び掛けに健士達は置物から人へと進化を遂げる。
「陽輝なんだけど、ダンジョンマスターになったことで寿命で死ぬことなくなったからな」
「「えっ!?」」
「っ!?」
やはり気付いていなかったのか3人は驚愕の表情で陽輝を見つめる。
「ああ、言うの忘れてたわ。颯夜のおかげで代償をなかったことに出来たけど、みんなが流した涙は颯夜のせいで無駄になったな」
どういう理由?とまだ事情が呑み込めていないのか俺を見てくるが顰蹙を買う気はないので何も言う気はない。
「颯夜君ね、寿命の代償を無くす方法を知ってたのに敢えて、みんなの泣き姿を黙って見てたらしいわよ」
おいおい!美嘉さんよ!何バラシてくれてるの?事情を理解した3人からの視線が急に冷めた目になったんですけど!
「まあ、俺達が別れを惜しんでいるところを黙って見ていたことには腹が立つが貴重なダンジョンコアを譲ってくれたから今回は水に流すことにするよ」
なんだろう…陽輝が凄く懐が広い人格者に見えるんだけど、恩着せがましくて何か嫌…。
『颯夜、今から急げば陽が落ちる前には目的地に着けるはずよ』
タイミング良く、話の流れを変える唯衣の言葉で時間を確認すると時刻は午後4時半になる。
すでに夕方ではあるが季節は夏なので日の入りまではまだ少しだけある。
ただ今日は何だかんだで働き過ぎた気がするので出来れば、明日にしたいところだが御影優斗の魔力過浸透症は重症だと推測されるので「じゃあ、また明日な!」とは言えない。
「わかった。ここからなら自転車で行く方が早く着くだろうからちょっと行ってくるわ」
ちょっとそこのコンビニまで行ってくるねの感覚だ。
「颯夜君、悪いけどよろしくね」
「颯夜、頼む」
皆に見送られて、俺達は会長室を後にするのであった。
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会長室から出ると一旦、秘密基地に入り私服に着替える。
なんでわざわざ着替える必要があるんだ?と思ったかもしれないがバトルフォームでは目立つのだ。
なんせ、凱旋をしたばかりで協会にいた人達の記憶から俺達の身なりは流石にまだ消えていない。
そして、特級探索者が自転車で移動する姿を想い浮かべてほしい。
特級探索者カッコ良い!!と思いますか?俺は思わない。
寧ろ、見た瞬間に「えっ!?」ってなるはず…。
これから自分も特級探索者になるんだと想いを馳せる探索者達の夢や希望を壊さないように配慮したのだ。なんて気の利く俺達。
エレベーターから降りると何気ない顔で混み合う受け付けフロアを横断し外に出る。
そこから少し歩き、人が少なくなったところで久々の赤い悪魔号の登場だ。
俺は肩に乗っていたモコを自転車のカゴに入れるとモコは自転車初体験とあってか、激しく尻尾を振ってワクワクしている。
そんなモコを微笑ましく見ながら自転車に跨がると唯衣も荷台に跨がずに座る。※1
お気づきだろうか、俺の自転車はママチャリタイプだ。
「唯衣、モコ!飛ばすからしっかり捕まってろよ!」
『はい、うふふ』
ワフン!(いつでもオッケーよ!)
口ではこう言ってみたが安全第一なので普通に漕いでいく予定だったのだが俺の言葉を真に受けたのか唯衣が腰にしっかりと抱き着いてくる。
今の状態を客観的に想像して、このシチュエーションはまさに古き良き時代の自転車デートだと気付いてしまう。
その事実に気付いたことで間違いなく、今日という日は俺の青春の一ページに刻まれると確信する。
なんだか嬉しくて気合いが漲るが唯衣の温もりを感じながらゆっくりと進み始めるのであった。
ダンジョン帰りと思われる探索者達からはリア充は爆発しろ!みたいな目で見られるが気にもならない。
もうすぐ陽が沈むビル街を赤い悪魔は駆け抜けて行くのであった。
※1︰人口の減少により、自転車の法令は廃止されている。
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