76話︰ぐはぁっ!
「そんな事より美嘉は!?」
『美嘉さんは・・・』
唯衣はそこで言葉を止めると深刻そうな表情を浮かべる。
陽輝は唯衣の表情を見ると力が抜けたようにソファーへとへたり込んだ。
そんな陽輝を見ながら唯衣は淡々と答える。
『美嘉さんは後30分もすれば魔力過浸透症の治療が終わって全快するわ』
「・・・はぁ?」
又もや陽輝は狐につままれたような表情をするがさっきより早く復旧する。
「ち、ちょっと待て・・・さっきの表情は何だ?」
「こういうの颯夜が喜ぶのよ」
唯衣の発言を聞いて、俺はうんうんと頷き唯衣にサムズアップをするが陽輝はフルフルと身体を震わせて再び必殺技でも出しそうな雰囲気を醸し出す。
「お前らマジでなんなんだよ!ったく!」
陽輝は今日一番の発声を済ますとドカッとソファーに座り直し、そっぽを向いてしまった。
「唯衣、ごめん。お茶入れ直してくれないか?俺じゃあ、上手く淹れられなくてさ。会長はいる?」
「いる!」
ワフン!(私の分もお願い)
『わかったわ。ちょっと待っててね』
唯衣がお茶を淹れ直しにキッチンへと歩き出すが陽輝の機嫌は美嘉の無事を確認するまで続く。
全員でお茶をしながらゆっくりしているとあっという間に時間が経つ。
『そろそろ治療が終わる時間だから私は戻るわね』
そう言ってリビングから唯衣が出て行くと陽輝が話しかけてくる。
「さっきのことを許した訳じゃないが先にお礼は言っておく。妹を治してくれてありがとう」
「リアルで見ると男のツンデレって、キモいな」
「お前はひと言多いんだよ!全く!」
見た目が自分の歳と近付いた為かどうも馴れ馴れしくしてしまい敬意を払えない。
陽輝自身も若返ったことで感性や精神が若かった頃に戻っていると感じていた。
「美嘉が治ったら俺の親友の優斗も見てやってくれ。あいつは恐らく美嘉よりも深刻な状態だ」
美嘉さんがこんな状態だった事を考えれば、先行して何年も前にダンジョンマスターになった御影優斗は確かにもっと深刻な状態だと思う。
「あいつ、優斗とは実は10年近くも会っていない。正確に言うなら会いに行っても会ってもらえない状況が続いてる」
それはつまり魔物化もしくは魔人化してしまったのではなかろうか…。
最悪の状況を想定していると唯衣と共に陣内美嘉がリビングに入ってくるがその表情は明るい。
『お待たせ』
「やっほー!唯衣ちゃんのおかげでこれからは全快バリバリなんでよろしく!」
「えっ!?」
「美嘉っ!良くなったのか!?」
「ええ!今ならフルマラソンだって余裕ね!」
全快バリバリって・・・美嘉さんって、本当はこんなキャラなの?病弱な美人清楚系じゃないの?俺が感じた深窓の令嬢は何処いったぁー!
そんな事を思っていると俺の傍に来て、向日葵の背景が浮かぶような元気で晴れやかな笑顔を向けてくる。
「颯夜君だったよね?」
「はい!そうです」
棒読みなのは久しぶりに唯衣以外の美人を前にして緊張しているからだ。
「唯衣ちゃんから聞いたけど、あの治療の設備も颯夜君の力なんだってね!」
「そ、そうです!」
「ふふ、おかげで体調が元に戻ったわ!ありがとうね!チュ!」
「っ!?」
『(ギロリ)』
ガルルルゥ!(ちょっと!)
おでこに湿った唇の柔らかい感触が触れて、俺は天に召されそうになるが唯衣に腕を思いっ切りつねられ、モコには肩をカブカブされて地上に連れ戻される。
「うふふ、颯夜君モテるのね!」
「美嘉、あまりからかってやるなよ。相手はまだ子供だぞ」
まだ唯衣とモコからの執拗な指導は続いているが明日から陽輝会長の事、お兄さんって呼んでもいいですか?
美嘉さんの体調が戻ったことで改めて自己紹介とこの後の予定について、話し合いが持たれた。
「折角、私のダンジョンに来てくれたのにバタバタしちゃって自己紹介も出来なかったからこの場でさせてもらうわね」
ここまで言い終わると俺に向けて、ウインクしてくる。ズッキューン!
またもやハートを撃ち抜かれた俺は唯衣とモコからの指導で息を吹き返す。
「ふふ、私は陣内 美嘉。知ってると思うけど、ここにいる陣内陽輝の妹よ!そして、この子は私の従魔で灼熱虎の紅よ。よろしくね!」
ガウッ!(紅だ!)
ソファーの横に佇む紅を優しい手つきで撫でる美嘉は楽しそうに俺達の様子を眺めていた。
「美嘉の兄の陽輝だ。よろしく!」
「知ってる」
『知ってるわ』
ガァルル(知ってる)
よく分からないタイミングで陽輝会長が自己紹介してきたから思わず、俺達は冷静になってしまう。
陣内家の自己紹介が終わったので次は藤家の俺達が簡潔に自己紹介する。
「藤 颯夜です」
『藤 唯衣よ』
クゥン!(藤 モコよ!)
俺達の自己紹介は簡潔に終わったと思ったが予想外の事が起こる。
「へぇ〜、モコちゃんって言うのね!可愛い!」
グルゥ!?(わかるの!?)
「っ!?」
『!?』
「解るわよ。なんてったって、私テイマーですもの!」
流石は世界初のテイマーとでも言うべきなのかモコの言葉が解ることに驚愕してしまう。
もしくはそういうスキルでも持っているのだろうか…。
「それにしても颯夜君の特殊技能は凄いわね!治療室がついていて、他にも色々と面白そうな部屋もあるみたいだし、要するにここって移動出来るダンジョンってところかしら?」
「へぇ〜、移動出来るダンジョンかぁ〜、それは凄いユニークスキルだ!是非とも詳しく聞かせて欲しいなぁ〜」
獲物を見つけたように陣内兄妹の目が光る。陽輝に至っては言葉が露骨過ぎて、俺の秘密を教えろと言っているのと変わらない。
・・・だがな俺はそう簡単にゲロったりはしないからな!
「颯夜君は知っているかしら?」
「何を?」
言ってなるものかと気構える俺に対して、美嘉はそこで言葉を止めるとソファーに座りながら、科を作り魅惑的な笑顔と態度で颯夜に精神的圧迫を掛ける。
「本来、ダンジョンマスターになった人は自分のダンジョンから出ることが出来なくなるのよ」
ダンジョンマスターにそんな制約があったなんて知らなかった。
更に脚を組み替えながらこう言うのである。
「颯夜君のおかげで約40年ぶりに外出することが出来たわ。ありがと」
天真爛漫っぽいのに色気のある仕草もお手の物だなんて、これが大人の魅力ってやつなのか・・・。
「だからねぇ、お姉さん教えて欲しいなぁ〜。颯夜君のひ・み・つ」
「おうふ」
そう言いながら前屈みになるようにして、腕でお胸を寄せ上げる。
「ぐはぁ!」
この人、どんだけ強力なスキルコンボ持ってるんだよ!こんなの面と向かってやられたらまだ16歳にもなっていない少年が耐えられるはずないじゃん!
この後、俺は綺麗に吐かされる未来しか見えなかった。
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