73話︰最期の頼み
前話のあらすじ
陣内と黒腹の戦闘でダンジョンビルは崩壊。
唯衣によって閉じ込められて逃げられなかった少年は大切な仲間を全て失う。
唯一、生き残った少年は怒りに呑み込まれて、新たなる憤怒の魔人として覚醒するのであった。
『(薬の代償をなかった事にする方法があるけど、聞く?)』
「(ほほう、面白そうだし聞かしてもらっても)」
なんせ大の大人達が別れを惜しんで本気で泣いているのだ。
この雰囲気をぶち壊したらさぞ楽しそうだと思えたので聞いちゃう。
『(それはダンジョンマスターになること。ダンジョンマスターになれば、その影響で代償を無視出来るわ。颯夜がダンジョンコアを渡しても良いならだけど)』
唯衣の提案は至極単純なものだ。ダンジョンマスターになるとその者は成った時の年齢の姿で止まる。
加齢という代償を受けている陣内陽輝であろうがダンジョンマスターの不老が上書きしてしまう。
なので年齢の数字が増えても肉体はそのままを維持する為、ダンジョンマスターになれば陣内陽輝も生きていられるのだ。
しかも、都合が良いことに黒腹から奪ったダンジョンコアを俺は持っている。
「(なるほどね)」
『(どうする?)』
「(う〜ん、ダンジョンコアは惜しいけど、陣内陽輝に使わせた方が後々、有益な気がしない?)」
『(そうね、恩を売ることで中部探索者協会を取り込めるかもしれないわね)』
「(お、おう)」
まさか探索者協会ごと取り込もうと考えるなんて流石は唯衣だ。
目の前ではまだ健士も夏輝も護衛達も大泣きしているのに俺達は腹黒い話を続けている。
そんな光景を見ながらどのタイミングで伝えるのが1番面白そうか考える。
『(今、伝える?)』
「(いや、なんか良い雰囲気だし後で水を差した方が面白い気がするんだよな。だから後でいいんじゃないか?)」
『(颯夜がそうしたいなら何も言わないけど文句言われても知らないわよ)』
唯衣との密談が終わると陣内陽輝のお別れ会も一区切りついたようで鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした護衛達や健士、夏輝を置いて、陽輝は立ち上がると俺達の前にやってくる。
そして、俺達に頭を下げながらお願いをしてくるのであった。
「2人に最期の頼みがある」
その目には自身の最期を覚悟した者特有の穏やかさと力強さが感じられた。
後で覆してやるんだけどね。
「俺の親友と妹に会ってくれないか?」
その言葉は俺達にとって、青天の霹靂であった。
陣内陽輝の言う親友はダンジョンマスターとして有名な『御影 優斗』。
2人が親友なことは最早、周知の事実であり陣内陽輝の武勇伝でも語ろうものなら一緒に御影優斗の名前も上がるくらいには有名である。
逆も然り。
そして、陣内陽輝の妹。
『陣内 美嘉』は人類史上初のテイマーであり、約40年前に行方不明とされていたはずだがこの口ぶりからして、どうやら陣内陽輝に匿われていたようだ。
いきなりの提案だが何となく、陣内陽輝の思惑が透けて見えるが興味がそそられるので俺達は同意するのであった。
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陣内陽輝の最期の頼みを了承した俺達は健士と夏輝と護衛2人を残して、再び車で移動する。
会長室から出ていく際に健士と夏輝からここから連れ出してみたいな瞳を向けられたが護衛さん達に念入りに叱るように言ったら笑顔でお任せ下さいと返されて、健士と夏輝の絶望する顔といったら…。
写真撮ればよかったな。
護衛さんが運転する車で陣内陽輝が口を開く。
「今から妹の美嘉のところに向かうが場所も美嘉についても他言無用で頼む」
「ふ〜ん、どういう事情があるんだ?」
これまで約40年間も行方不明扱いされていたんだ。さぞ、深い理由があるのだろう。
俺の返しに陣内陽輝は諦め顔で答える。
「俺の妹、美嘉はダンジョンマスターなんだ」
「へぇ〜」
『・・・』
この答えに驚きはなかった。俺も唯衣もそうなんじゃないのかと予想していたからだ。
「驚かないのか?」
「まあ、そうじゃないのかと思ってた」
『大体、予想通りね』
俺達の返答に陣内陽輝は驚いた顔をするがすぐに表情を戻して、話を続ける。
「なら話が早い。兄としてこんなことを頼むのはおかしいかもしれないが妹の美嘉と友人になってくれ」
まるで友人がいないような口ぶりに俺の中での陣内美嘉のイメージが出来上がる。
眼鏡をかけており、ジャージを着ている陰キャだ。
「それは会ってみないことにはわからん」
「それはそうだな…う〜ん」
即答する俺に陣内陽輝は項垂れる。
そんな話をしていると見たことがある道に出る。
「この先って、確か探索者協会が管理するダンジョンビルがあるんじゃ…まさか?」
「ああ、美嘉はそこでダンジョンマスターをしている」
▼
車はダンジョンビルの地下駐車場へと入っていく。
ここは関係者以外立ち入り禁止の場所。
車を降りると護衛を先頭にエレベーターを通り過ぎる。
あれ?最上階にいるんじゃないの?と思った表情を見られて、陣内陽輝が説明してくれる。
「ダンジョンマスターの美嘉は色んな奴らから命を狙われている。だから最上階には偽物のダンジョンマスターをおいている」
色んな奴らから命を狙われるって、どんだけ恨みを買っているんだ。
これまた顔に出ていたのか教えてくれる。
「勘違いするなよ?単に美嘉からダンジョンコアを奪って、自分がダンジョンマスターに成り代わりたいと思ってる輩が多いだけだ」
『(颯夜、なんだがこのダンジョン、様子がおかしい)』
「(様子がおかしい?)」
会話の途中で護衛の足が止まるがそこはボイラー室の扉の前だった。
懐から鍵を取り出すと扉を開けて中へと入る。
中は普通のボイラー室だったが護衛が何の変哲のない壁にカードキーを翳すと音もなく壁が開き、地下へと続く階段が現れた。
俺達は黙って、前を歩く陣内陽輝の後に続くとまた口を開き始めた。
「先に言っておくが最近の美嘉は体調が優れない。だから気を悪くすることを言うかもしれないけど勘弁してやってくれ」
どこか悲しそうな陣内陽輝の声には申し訳なさが含まれていた。
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