70話︰天を仰ぐ
「動くなよ?動けばお前の孫の首を折る」
「・・・っ!?」
陣内陽輝が勝利を目前にしていたのに不用意に近付いてしまった夏輝達のせいで形勢は再度ひっくり返る。
「おお、まさかこんな展開になるとは」
秘密基地の中から他人事のように言うのは主人公である俺、藤颯夜である。
『私も戦いに集中し過ぎて、あの2人の気配に気付かなかったわね』
ワフン!(私は気付いていたわよ!)
まるでテレビドラマを見ているかのような感想を言い合うと逼迫した状況を再び見守るのであった。
「・・・じ、じいちゃん」
「師匠・・・すみません」
夏輝と健士は足を引っ張ったことに対して、居た堪れない表情を浮かべる。
「うははは!神は俺を見捨てなかったみたいだな!」
「・・・」
陣内陽輝の心はこれまでにない程、揺れ動いていた。
後少し、後一歩のところまで宿敵である黒腹を追い詰めたというのに孫を人質に取られ、戦況は覆されてしまった。
・・・この世に神はいないのか。あまりにも世の中は不条理で祈りは届かないのだと思い知らされる。
「陣内!武装を解け!じゃないと孫が死ぬぞ!」
「ぐ、ぐぅ」
黒腹は本気だと見せる為に夏輝の首を締め上げる。
苦しむ孫の姿に天秤は勝利よりも孫に傾く。
「早くしろ!陣内!」
「・・・わかった」
陽輝は黒腹の指示に従うように地上に降りると戦闘スキルを解いて、剣を放り投げる。
抵抗することが出来ずにこちらの指示に従う陽輝の様子に黒腹はほくそ笑む。
やはり自分は神に選ばれし者なのだとこんなところで死ぬ訳がないのだと。
「おい!お前!あの剣を拾ってこい!」
次は健士に指示を出して、陽輝の剣を拾わせる。
指示された健士はどうすればいいのか、師匠である陣内陽輝に目を向けるがその答えは解らない。
「さっさとしろ!友達が死んでもいいのか!」
健士は戸惑いながらも黒腹の怒声に恐る恐る放り投げられた剣を拾いに行くがその際に師匠と目を合わせても陣内陽輝の目は恐ろしいまでに無感情だった。
「なあ、唯衣。これ詰んだんじゃないか?」
『う〜ん、そうね。このままだとハッピーエンドにはならないと思う』
「だよな?」
クゥン?(手を貸すの?)
モコの言葉に傍観者じゃなくて参加者だったことを思い出したので参戦することを決める。
そう俺は今回の作戦に参加していたメンバーなのだ。
「そうだな、陣内会長に逝かれたら折角の約束が守られるか分かんないしな!」
『颯夜が参戦するなら私も参戦するわ』
ウォン!(私も!)
「じゃあ!今から混沌を振り撒きに行きますか!」
適当な理由をつけて、俺達もこの戦いに参戦する。
戦況が動いたのは健士が剣を拾い、重たい足取りで黒腹の元に行く時だった。
黒腹の後ろに突如として現れる扉。御神健士は目を見開き、希望を抱くがそこから緊張感の欠片もない颯夜達が出てくるとなんでそんなにも平静なのかと困惑する。
颯夜の気配に気付いた黒腹は夏輝を抱えたまま、横に飛び退こうとするが地面に縫い付けられたように足は動かなかった。
すぐさま、自身を拘束する魔法が影系統だと看破し、素早い判断をする。
それはせめて夏輝だけでも道連れにし、陣内陽輝を苦しめるという判断だったのだがそれすらも手遅れであった。
俺達は秘密基地から出る前に打ち合わせをしていた。
それは陣内夏輝を救出する為だ。折角、苦労もなく救出したはずの陣内夏輝を殺されてははっきり言ってモヤるからと言うのが理由だ。
なのでまずは陣内夏輝を解放するために2人同時に黒腹を拘束することを決めた。
秘密基地から出て、すぐに俺と唯衣は黒腹を全力の影魔導で拘束するとモコが素早く陣内夏輝を影魔法でワープさせる。
決着は一瞬だった。
驚愕と憤りで顔を歪める黒腹の横を俺達はすました顔で通り過ぎる。
その先には驚きで目を見開く御神健士と安堵の表情を浮かべる陣内陽輝がいる。
「恩に着る」
感謝を告げる陣内陽輝とは逆に事態を把握した黒腹の態度は恨みや怒りに満ちていた。
「何なんだ!貴様らは!?俺の邪魔をするのか!」
ギャーギャーと煩い黒腹を無視して、脱力する御神健士から剣を奪い取ると陣内陽輝に投げ渡す。
「ほら、受け取れ!」
クルクルと回転しながら飛んでくる剣を難なく、パシッと受け取ると陣内はひとつ静かに深呼吸をする。
再び開かれたその目にはさっきまでとは違い感情が宿っていた。
黒腹に向かいゆっくりと歩き出して、俺とすれ違う時に小さな声で言う。
「助かった。悪いがそのまま黒腹を抑えておいてくれ」
無言で頷くと俺達は2人から距離を取り、行く末を見守る。
俺、唯衣、モコの元に健士と夏輝も集まり、感謝を言われるがどうでもよかった。
そんなことより俺は陣内と黒腹の決着が気になっていたからだ。
黒腹はついに観念したのかこれまでの勢いはなく陣内と何か言葉を交わしているようだったが俺達には聞こえてくることはなかった。
そして、陣内陽輝が剣を振り抜き、黒腹と闇ギルドは多くの傷跡を残しながらその生涯を終えた。
陣内陽輝は天を仰ぎ佇むがその背中が僅かに震えているように見えたのは俺だけではなかったと思う。
憎しみは新たな憎しみを生む(意味深)




