69話︰比類なき
「さあ、始めようか!楽しい楽しい最終ラウンドだ!!」
陣内の発言で黒腹は苦い表情を浮かべていたが颯夜と唯衣とモコは真剣な表情で展開を見守っていた。
「なぁ、唯衣」
『何?颯夜』
「エリクサーってそんな簡単に手に入る物なのか?」
『一般人には難しいけど、ダンジョンマスターなら比較的簡単に手に入るはずよ。秘密基地でも購買機能で通常の250倍のポイントで交換出来るわよ』
唯衣の答えを聞いて、まだ250倍もボッタクられるのかと俺は唸る。
『これでもだいぶレートは下がった方なんだけど、適性なレートにするにはまだまだダンジョンコアが必要ね』
「そっか〜、まだまだか」
『ええ、まだまだ颯夜とのダンジョン探索は終わらないわ』
ワフン!(そうよ!)
俺はモコを撫でながら動き出した陣内に目をやりつつ、まだダンジョン探索は終わらないと言った何処か嬉しそうな唯衣の表情を想い浮かべていた。
「黒腹!裁きの時は来た、俺の稲妻に焼かれ、地獄に堕ちろ!」
「ふ、ふざけるなぁ!地獄に堕ちるのは貴様の方だぁ!!」
再び、激しい視線が交差し2人の戦意が最高潮に高まっていく。
「戦場に雷鳴を轟かせよ!雷神纏衣!!」
「雷迅の煌めきと成せ!疾風迅雷!!」
「世界を照らす光となれ!光神剣!!」
陣内陽輝が最初からギアをトップギアに入れて、全開戦闘の準備をする。
「何度やろうと!勝つのは俺だぁ!」
黒腹も負けずとギアをトップギアに入れていく。
「大鎧の城壁!」
「大盾の城壁!」
「巨人の剛力!」
「超反応!」
「闇神の守護!」
黒腹の対応を見て、陣内は薄っすらと笑みを浮かべる。
その笑みの理由は単純だ。
どんな物語でも主人公は負けた後に強くなる。
この戦いでも過去の自分を超えられない者には勝利はないと確信し、陣内自身は過去の自分を超えていく自信と覚悟があった。
飛翔魔法で空中に飛び上がると太陽を背にして、さっきまで笑っていた顔が決意の表情に変わる。
「我は願い!我は誓う!今こそ真の力を解き放つ!限界突破!!」
陣内はこの戦いの後の事を考えるのをやめた。
それは必然だったのかもしれない。若返りの薬を使った副作用で後に襲いくる代償に自分が耐えられないことを悟っていたからだ。
陣内陽輝が飲んだ若返りの薬の効果は一日続くが効果が切れたら若返った分だけ歳が加算される代償がある。
陣内の年齢は約70歳。
薬の効果で陣内陽輝の肉体はピークだった20歳になってしまった。
つまり効果が切れた後には120歳になってしまい、自分は生きてはいられないことを悟ってしまったが為、ここで黒腹を必ず仕留めると決意し、出し惜しみなく限界を超えて奥の手を解放することにしたのだ。
「我は誰にも屈しない!天衣無縫!!」
「我は誰にも負けない!神威降臨!!」
「我に倒せぬ者はいない!絢爛光剣!!」
「「・・・っ!?」」
全ての力を解放した陣内の姿に黒腹も颯夜も言葉を失う。
その姿は境地に達した者だけが至ることが出来るであろう存在。
まさに神々しく、この世の者とは思えない比類なき美しさと尊さを兼ね備えていた。
「いくぞ!黒腹!幻光蝶」
若かりし頃に鍛えに鍛えたサイドステップと魔法を組み合わせた陣内陽輝の最高の技。
掛け声と同時に空中にも地上にも黒腹を囲むように陣内の姿が犇めく。
「な、な、なんだこれは!?」
黒腹の視界も感覚の全てが右も左も前も後ろもそして、上も陣内に埋め尽くされていた。
「「「天上の光がどんなものかその目に焼き付けろ!」」」
四方八方の陣内陽輝から響く声に黒腹は正確に的を絞ることが出来ず、どう対応すればいいのか狼狽する。
「「「天地神明撃!!!」」」
幻光蝶を使用している時のみ発動することが出来る最強の物理攻撃が黒腹を襲う。
途切れる事なく流れる一方的な剣撃の嵐が降り注ぎ、黒腹は為す術もなく急所を守るので精一杯となり、防御一辺倒になってしまう。
剣撃を盾で受ければその威力で盾が齧られたクッキーのように欠け、剣撃が鎧に当たれば飴細工のように鎧の欠片が吹き飛び、辺りを金属片が埋める。
ガッガッガッガッガッ!!!
無数の剣撃でついに盾がなくなり、欠損し僅かに残る鎧腹部に食い込んだ剣撃の衝撃で息が詰まり、黒腹は意識が遠のきかけた。
それでも意識を失わないのは全身に走る激痛のせいであり、最早立っていることすら困難なのに倒れることさえ許されない。
死に物狂いで防御スキルを継続し存命に努める。
ザッザッザッザシュッ!!、
永遠とも思える苦痛の海に黒腹の抵抗の意思は完全に呑み込まれて失われていた。
全身を傷だらけにし、夥しい血で染め上げてまともに口を開くことも出来ないまま、地面に崩れ落ちる黒腹。
それを空中から見下ろす陣内陽輝。
光剣を頭上に掲げ、後はトドメを刺すだけ勝利は目前だったのだ。
「すげぇよ!じいちゃん!」
「ついにやりましたね!師匠!」
「「・・・っ!?」」
何処かで戦いを見ていたと思われる陣内夏輝と御神健士が陣内陽輝の勝利を確信して、建物の影から駆け足で姿を現す。
「ばっ!?馬鹿野郎!くるなぁ!!」
成す術もなく、圧倒的な力で打ちのめされ絶望の淵に落とされた黒腹は薄っすらとした意識で真っ暗な暗闇の中に一筋の光を見出す。
それは陣内夏輝という宿敵陣内陽輝のアキレス腱。
陣内陽輝の注意よりも先に動いたのは黒腹だった。
「う、うわぁ!?」
「う、動くなぁ!」
黒腹は今まで見せたことがない命の最後の灯火と言える俊敏な動きで陣内夏輝の背後を取ると首に腕を回して締め上げる。
黒腹の背丈は夏輝よりも頭ひとつ分高く、夏輝は爪先立ちで耐えるが固定された腕はびくともしなかった。
「ぐぅっ!?」
「動くなよ?動けばお前の孫の首を折る」
「・・・っ!?」
それは完全な油断が招いた結果だった。
健士と夏輝は後で大説教ですね。




