53話︰スターシステム
中部探索者協会本部。ここに来るのは探索者登録をした時以来だ。
御神が用意した車は関係者用の地下駐車場に入っていく。
この時点で御神が探索者協会から特別な待遇を受けており、今回の事件が特別な事が分かる。
地下駐車場で降りると関係者専用のエレベーターに向かう。
そこには屈強な身体つきをした黒服の男が2人。
御神は面識があるのだろうその男2人に軽く頭を下げると男達も軽く頭を下げる。
エレベーターの扉が開き、俺達3人とモコがエレベーターに乗り込むと警備だと思っていた男達も乗り込んでくるのでエレベーター内は一気に窮屈になる。
ちなみに自宅からここまで誰一人として口を開いていない。まあ、俺と唯衣はテレパシーで話していたけどね。
エレベーターは最上階に向かい、どの階にも止まることもなく昇っていく。
この中部探索者協会本部の最上階は30階。およそ3分で昇りきると扉が開く。
男達が先に出て、それに続くように俺達もエレベーターから出ると高級だと踏み入れただけで解る絨毯が通路には敷かれていた。
通路の先の1番奥の部屋。マホガニーの一枚扉だと思われる立派で重厚な扉が視界に入り、その扉の向こうからはダンジョンボスを彷彿とさせる威容を放つ気配がひとつ。
その気配からは俺達の到着を待っていることが感じ取れた。
コンコン!
「失礼します。お客人をお連れしました」
「入れ」
中からはっきりとした威厳ある声が聞こえ、それを合図に男達2人が観音開きで扉を開けて、御神を先頭に俺と唯衣とモコが入室する。
会長室は40畳ほどの広さがあり、御神の声が響く。
「師匠、お話しした方々を連れて来ました」
御神が師匠と言った相手は中部探索者協会のトップ。陣内陽輝会長。
師匠と言われた陣内会長はもうすぐ70歳を迎えると聞いていたが目の前の人物はとても高齢者とは思えない容姿をしていた。
初見の人なら30代だと勘違いするほど、その瞳は身体は覇気に満ち溢れている。
そして、師事を仰いでいるのは共に雷魔法を保持しているからだろう。
執務机に座り、その後ろにはこれまた屈強な男が一人佇み、此方を見据えている。
「ようこそ、藤君とお連れの方」
そう言うと椅子から立ち上がり、窓側にあるソファーへと誘導される。
ソファーはコの字型に配置されており、御神は窓側のソファーへ俺達は下座に座る。
そして、屈強な男達は俺達の後ろに立つと久しぶりに危険察知が反応する。
「(唯衣、モコ何か仕掛けてくるぞ)」
『(了解、颯夜)』
「(ワフン)」(了解)
陣内会長は堂々とゆっくりした所作でソファーに腰掛けるとニヤリと不敵に笑いながら言う。
「大事な話の前にすまんが試さしてもらう」
陣内陽輝のひと言で俺と唯衣の後ろに立っていた男達が襲い掛かってくる。
その動きは明らかに高レベル探索者(レベル80以上)の動きだったが危険察知スキルのおかげで解っていた俺達は驚かない。
俺は即座に影転移を発動して、一瞬で男の背後を取り、シャドウバインドで拘束する。
隣を見れば、唯衣も全く同じ動きをしていたようで男達は何が起きたのか解っていない。
そして、モコは護衛の中で1番手練れだと思われる陣内会長の後ろにいた男を初動すら許さず、シャドウバインドで完全に拘束する。
これくらいでいいかと思いかけた時、首の後ろがチリチリとした感覚を覚え、振り返りながらアイテムボックスから暗黒の大鎌を咄嗟に取り出す。
ガァイィン!!
俺の大鎌と陣内陽輝の剣が激しい音を上げながらぶつかり合い、窓ガラスが悲鳴を上げて衝撃はこの広い部屋を揺るがす。
齢70にもなろうというのにその攻撃の重さは尋常ではなかった。
「(これが探索者の最高到達点か・・・!)」
不意打ちが止められたことで陣内陽輝は更に笑みを深める。
「これにも反応するか!」
「師匠っ!!」
『全員動くな!』
この茶番を聞いていなかったのだろう御神は動揺し、師匠と叫ぶが状況を把握すると動けなくなる。
『全員、少しでも動けばこの老いぼれの首を切り落とす』
そう言ったのは唯衣だ。
唯衣は俺と陣内の武器がぶつかり合うと同時に影転移で陣内の背後を取り、見たこともない真っ白な大鎌の刃を陣内陽輝の首に添えていた。
「(ちょいと唯衣さんや)」
『(なんでしょう?)』
「(その大鎌は何?)」
『(颯夜に内緒で創った私専用の大鎌だよ)』
「(なんで大鎌?)」
『(前も言ったけど、颯夜と私は一心同体。能力値もスキルも同じ)』
つまり、唯衣も鎌術スキルを所持していることになるから大鎌を創ったと・・・。
うん。それはいいとして、さっきのドスが効いたカッコイイ台詞はどこで覚えたんですか?羨ましいんですけど…。
『(私も颯夜の言う厨二力については常に勉強してるんです)』
俺達は頭の中で間の抜けた会話をしているが部屋の空気は緊迫している。
特に御神と護衛と思われる男達の焦りは酷く、滝のような汗が彼等の気持ちを表していた。
「・・・参った」
この状況では自分達が不利だと悟った陣内がボソッと負けを告げるが俺達は気を緩めない。
何故って?腹が立ったからじゃ駄目か?
俺は王威を発動し、自身の大鎌に重力魔法の重量操作を使い、徐々に大鎌の重量を増やしていく。
唯衣は俺の行動を見習い、陣内自身に重力魔法を掛けていく。
「ま、参った!本当に参ったから魔法を解いてくれ!」
陣内陽輝の悲痛な声には最早、威厳が感じられなかった。
陣内陽輝が若いのはレベルが高いことに起因する。




