52話︰ごにょごにょ
御神健士の話を聞き終えた俺は連絡先を交換して、受けるかどうかは保留にした。
そして、自分への協力に対して、あまり良い感触を得られなかったと思い込む御神健士を公園に1人残し、急いで自宅に帰ってきた。
というのもモコの空腹で切ない顔を見たら居ても立ってもいられなくなったのだ。
秘密基地のダイニングで少し遅くなった夕飯を食べながら今日のことを考える。
『颯夜、今日は楽しかったですね』
「ああ、唯衣が楽しめたなら俺も嬉しいよ」
素直に口に出せるまで俺は今日1日で成長した。
「だけど唯衣、今日は人がいなかったからいいけどスカートでブランコを漕ぐのは控えろよ」
『は〜い』
唯衣は照れ隠しなのかテヘペロと舌を出す。一瞬、スマホで撮影しようと思ったが遅かった。
夕飯も食べ終わり、リビングで唯衣とモコとゆっくりしていると御神から協力して欲しいという念押しの連絡がくる。
「唯衣」
『何?』
「次はその・・・よかったら2人で出掛けないか?」
『はい!』
そこには今日1番の笑顔を向けてくる唯衣がいた。その破壊力にやられて、俺はまたしてもシャッターチャンスを逃す。
「モコも今度、一緒に出掛けような」
ウォン!(約束よ!)
次の約束も取り付けたところで本題に移る。
「唯衣、あの時の話は覚えてるか?」
『ええ、覚えてるわ』
ホント、唯衣の喋りがどんどん成長していく。おかげで1人の女性としてしかもう見られない。
『モコちゃん、ソラ君、コタロウ君、トモヤ君が余裕で出入り出来るくらいの大きさが良いと思うの』
「そうだな。カラオケボックスというより宴会場みたいになるかもしれないけど、カラオケはみんなで楽しんだ方が盛り上がるからな」
こうして、俺と唯衣の初めてのカラオケボックス創りが始まった。
一緒に壁紙の柄を選んだり、ライトの配置、スピーカーの場所などこだわるとキリがないが唯衣とあーでもない、こーでもないと一緒に悩むのは楽しかった。
そして、俺はカラオケボックス作成中に凄い事を思いついてしまう。
これが出来れば、きっと俺の奥義になると。早速、唯衣に相談する。
『一応、出来ますがまだ性能は低くなると思います。颯夜が求める性能にするにはダンジョンコアがまだいくつか必要ですね』
それでも俺達は日付が変わる前にカラオケボックスと奥義部屋を創り、目標をやり切った。
すぐに使う機会が来るとも知らず…。
そうして、この日はぐっすりと眠ることが出来た。
翌日はいつもより少し遅い目覚めだ。
朝食も終わり、唯衣とモコといつものようにリビングで今日は何をしようかと思案しながらスマホを確認すれば、御神健士からの連絡が溜まっていた。
〜〜〜
御神です。
どうか親友を助けるために協力して下さい。お願いします。
御神です。
昨日は話を聞いて下さり、ありがとうございました。人助けだと思って手伝ってもらえませんか?
御神です。
親友を助ける件、考えてくれましたでしょうか?
出来れば、連絡して欲しいです。
御神です。
忙しいのかもしれませんが事は急を要します。
返事はまだでしょうか?待ってます。
御神です。
今日、探索者協会で陣内会長を交えて話を改めてしたいと思います。
なので自宅まで迎えにいきます。
御神です。
後、少しで自宅に着きます。
「・・・」
面倒くさい奴に目を付けられたのかもしれない。後、少しで自宅に着く?馬鹿なのかコイツ…。しかも、俺の好きな芸人のネタみたいだし。
「おい!颯夜!御神君が迎えに来てるぞ!いつの間に友達になったんだ!?」
秘密基地のリビングに慌てた顔の父親が飛び込んでくる。
「居ないって言っておいて」
「馬鹿野郎!株式会社MIKAMIの御曹司だぞ!ウチの仕入れ先でもあるんだぞ!」
「ウチは肉屋だろうがいつから武具屋になったんだよ」
「ウチは元から武具も扱う魔具屋だ!そりゃあ、肉の方が売り上げはごにょごにょ」
『颯夜、どうするの?』
どうするも行かなきゃ、どうせ付きまとわれるのだろう。
「面倒だが行くか」
落ち込む父親をリビングに置いて、唯衣とモコを連れて店の方に行く。
生憎とソラと清十郎は日向ぼっこと自主訓練をしているので今日もお留守番だ。
俺はカジュアルな格好で唯衣も今日はカジュアルな格好をしている。昨日、ショッピングモールで見た服屋の服を参考にしているようで出掛けても問題ないだろう。
店に顔を出すと重い表情の御神が立っていた。
「おはようございます。いきなりの訪問で驚かせたかと思いますがこちらも切羽詰まっているので少々強引な手を使わせてもらいました」
本当に強引だと思う。御神の言う強引な手と言うのは会社か探索者協会の力を使って、俺の自宅を突き止め、更にはこの中部地方の探索者協会会長陣内陽輝を巻き込んだこと。
いや、御神の親友は陣内夏輝と言っていた。陣内夏輝と言えば、伝説の探索者陣内会長の孫だ。
ならば、この件に陣内会長が出てくるのは既定路線なのだろう。
「代わりと言ってはなんですがそれなりの報酬は用意させてもらいます」
なかなか魅力的な提案に心がザワつく。
「わかった。ついて行く」
「ありがとうございます」
「それと唯衣、彼女も連れて行くけどいいか?」
御神の目的は俺であり、唯衣ではない。さらにはあまり他人には聞かせたくない内容の為、迷いを見せる。
「言っとくけど、こう見えて唯衣の強さは俺と同等だぞ」
「っ!?そういことなら是非、お願いします」
こうして、俺達は探索者協会会長が待つ本部へと向かう。
「(さて、探索者最高到達点と言われる陣内陽輝を拝みに行くか)」
俺は唯衣以外には気付かれることなく、不敵な笑みを浮かべながら御神が用意した車に乗り込むのであった。




