51話︰一大事
「実はお願いがあって、後をつけさせてもらいました」
そう言う御神健士の目は真剣で嘘を言っている雰囲気はなかった。
「話だけでも聞いてもらえませんか?」
どうしようか考え、黙っている俺の目をじっと見つめる御神健士にはどこか焦りのようなものが見える。
「分かった。とりあえず話だけなら」
「ありがとうございます!」
道端で話をするのも何なので近くにある小さな公園へと移動する。
空が暗くなった公園には誰もおらず、寂れた遊具と物悲しいベンチがあるだけ。
誰に勧められることもなく、ベンチに座る御神健士を余所にモコは散歩を始め、唯衣はブランコを漕ぎ始める。
御神健士はそんなモコと唯衣に一度は視線を送るが何も言わず、その態度が俺に用事があることを告げていた。
俺も御神健士から人が一人分座れるスペースを空け、ベンチに腰掛けて自由なモコと唯衣を眺めていると御神は静かに話し始めた。
「まずは自己紹介させてもらいます」
こちらをチラッと見るが視線を向けない俺の態度にかしこまっていた空気から固さが抜ける。
「自分は探索者学校に通う御神 健士と言います」
そこでも俺の反応を窺う為か、こちらをチラッと見るが全く反応を見せない俺に少し驚きを感じているようだった。
俺はといえば、勢いよくブランコを漕ぐ唯衣を見て、スカートが捲れないかヒヤヒヤしていた。
「自分、これでも少しは有名だと思っていたのですが・・・知りませんか?」
「・・・知らない」
嘘である。めっちゃ知ってるし、俺達の世代では間違いなくトップ探索者として有名な人物である。
実力では既に俺の方が圧倒しているだろうが俺は目立つにはリスクがある存在になってしまった。
「そ、そうですか・・・」
「ああ、俺は藤颯夜だ」
簡単過ぎる自己紹介に御神健士は返答の当てが外れたのか「(俺もまだまだだな)」と呟くと気持ちを切り替えたように本題に入っていく。
「今日、ショッピングモールで探索者学校の先輩達に何もさせず、圧倒するところを見ました」
喋りながらその時の事を思い出しているのか前かがみに座り、ギュッと握り拳に力が入る。
「藤さんが圧倒したあの人達は探索者学校でも素行が悪く、犯罪組織と繋がっていると噂されている連中でした」
探索者となり、レベルアップの恩恵から身体能力が上がり、その力に溺れる奴らは一定数いるが俺が軽く揉んでやったあいつらは類に漏れない典型的な輩だったと言う訳か。
「自分は訳あって、あいつらを監視していました」
そこで一旦、深く息を吐くと決意が宿った目で再び話し出す。
「俺には親友がいます。プライベートでも学校でも探索でもいつも一緒だった親友です」
御神の瞳には一度は決意したのに焦りや怒りの色が滲む。
「でも夏休みに入る前、親友の行方がわからなくなりました」
事件発生フラグに俺の頭の中にはミステリーアニメの曲が流れる。
「警察は勿論、学校や探索者協会にも手伝ってもらい親友の捜索をしましたが手掛かりは僅かでした」
すっかり陽が落ちて、夜空には星々が輝き、俺達を見下ろしている。
そんな星々を見つめるように御神は淡々と続きを話し始めるが俺は違うことを考えていた。
「(なんか夜の公園で語り合うとか青春っぽいな・・・)」
語っているのは御神健士のみで全然、語り合ってなどいないのだが雰囲気がね…。
「親友が最後に確認されたのがあいつらと黒い噂がある組織が存在する地域で見かけたというものでした。その時点で警察と学校はこれ以上、首を突っ込めば自分達にも火の粉が降り掛かると判断し、身を引きました」
「その黒い噂のある組織って?」
「この名古屋市と隣接する××市にある闇ギルドです」
闇ギルドと聞いて、今日イチで心がザワつく。その××市は俺が岐阜県に向かう時に通り抜けた地域だ。
「警察と学校はもう頼りになりません。探索者協会も迂闊に手が出せない地域とあって、今は静観を決め込んでいます」
御神は歯を強く噛み合わせ、食いしばるように自身の不甲斐なさやもどかしさを我慢している。
「このままでは俺の親友は殺されるかもしれない。もしかしたら・・・いや、何でもないです」
嫌な想像を振り払うように頭も振ってから親友が狙われた理由を語り出す。
「藤さんはユニークスキル持ちを殺すと殺した者にユニークスキルが移るという話を知っていますか?」
「ああ、噂でそういう話があることは知っている」
内心でそう言えば、一部ではそんな噂があったなと思う。
「あの話の半分は本当なんです」
半分は本当ということはもう半分が嘘だとしても噂を真に受けて実行しようとする奴は多いかもしれない。
それだけユニークスキルというのは探索者達にとって、殺してでも奪いたい自身が特別になれる可能性を秘めている魅力を持っているのだ。
俺は半分は本当という事実に動揺するが表には出さないよう努める。
なんせ俺も貴重なユニークスキル保持者なのだから。
「ユニークスキル保持者を殺しても、ユニークスキルは移らない・・・だけど、ユニークスキルを奪い、任意の相手に移すことが出来る魔道具があります」
『颯夜、私は究極技能なので颯夜だけのものですよ』
唯衣のいきなりの宣言に吹き出しそうになるが耐える。
「俺の親友、陣内夏輝はユニークスキルを保持していることがバレて、闇ギルドに拉致されたんだと思います」
ワフン。(お腹減ったから帰りたい)
「昼間に見せた実力を見込んでどうか親友を助けるために力を貸してくれませんか」
その親友も大変だろうが俺にとってはモコの空腹の方が一大事だ。
第2章の山場が開始します。




