48話︰ズボラ
今日は仲の良い友人達4人と地元のショッピングモールで遊ぶ約束をしていた日である。
そんな予定いつ決めたかと言えば、俺が牛魔帝戦の後、瀕死に陥り回復カプセルで治療を受けて治った後、友人達が心配して見舞いに来てくれたと聞いて、お礼を言うために連絡をした時に決まった。
その時は俺を含めて、5人だったのだ。
その時は俺を含めて、5人だったのだ。
その時は俺を含めて、5人だったのだ。
大事なことだから3回言ってみた。なんだったら後5回は言える。
今は秘密基地のリビングで子犬みたいになったモコと唯衣の支度が終わるのを待っている。
待っているが女性の支度を待つだけでこんなにも緊張するとは知らなかった。この時間を平然と待てる世の出来る男ってのはさぞ凄いんだろう。
とりあえず、落ち着かないのでステータスポイントが貯まっているので鎌術でも取得しておこう。
それにしても昨日、唯衣に友人達との遊びに連れていくと言質を取られてから俺は友人達になんて伝えるか悩んだ。それはもう悩みに悩んだ。
どれくらい悩んだかと言うと某有名アイス屋チェーン店でどの組み合わせにするかぐらい悩んだ。
と思ったが俺の組み合わせは決まってたわ。バナナ&ストロベリーとキャラメルリボンね。
気を取り直して、例えるわ。
どれくらい悩んだかと言うと某カレー屋チェーン店のトッピングを何にするかくらい悩んだ。
と思ったが俺のトッピングは5パターンだけだった。トンカツ、ハンバーグ、メンチカツ、ソーセージ、チキンカツのどれかね。
兎に角、悩んだ末に俺は素直に友人達へ告げることにした。
明日、彼女を連れて行く。とね…。
グループチャットは既読のみを残して、誰もいなくなったのではと思うほど、動きがなくなった。
彼女と言ったのは説明に困ったからだ。そして、唯衣は案の定というか俺のグループチャットも監視しているようで自室から飛び出してくると『明日は最高の彼女になります。』と言って、再び自室へと戻っていった。
グループチャットは通信障害だったのか5分くらいで復旧すると友人達から怒涛の勢いで返信が送られてきた。
もう一回、入院した方が良いんじゃないか、とか精密検査はちゃんと受けたのか、とかまだ頭は快復してないのか、とか辛かったら無理しなくてもいいだぞなど、俺を心配する声が多かったとだけ言っておく。
そんなことを考えていると支度が終わった唯衣が自室から出てくる。
『颯夜、お待たせ。』
「おうふ」
唯衣は夏らしく、サマードレス姿だった。しかも、普段は化粧などしないのに薄化粧をしており、ただでさえ美人なのにやべぇくらい可愛いかった。
『どうかな?』
メイドごっこで身につけたと思う上目遣いや恥ずかしそうな照れ顔を駆使して聞いてくる。
「・・・めっちゃ可愛いよ」
『ありがと。』S2
それだけ言うと手を差し伸べてくるので優しく握る。
『それじゃあ、行こっか?』
「・・・うん」
既に語彙力も思考力を奪われつつあるが引っ張られるように立ち上がると俺の腕に唯衣が自分の腕を絡ませてくる。
「おうふ」
何が当たってるの?なんて聞いてくる野暮な奴はいないと思うので描写は省く。
モコはソファーからジャンプすると唯衣とは反対側の俺の肩の上に乗る。
唯衣の方を見れば、ルンルン!なんて擬音が聞こえてきそうなほど、嬉しそうな笑顔で歩いている。
そして、香水なのか化粧水なのか解らないがほんのりと甘い匂いがする。
今日はハードな1日になりそうだぜ…。
秘密基地から自宅に出ると両親がニヤニヤした顔で見てくる。
「唯衣ちゃん、とっても可愛いわよ」
「唯衣ちゃん、颯夜をリードしてやってくれ」
『はい!お母様、お父様行ってきます。』
「「楽しんでくるん(だぞ)のよ」」
自宅から今日、遊ぶ予定のショッピングモールは歩いて、30分くらい。
いつもなら赤い悪魔号で行くのだが唯衣とモコの希望で歩いて行く。
街中は夏休みということもあって、普段より子供が多い。
そんな子供達も道を行く、大人達もみんなが振り返り、唯衣を見ていく。
「(こんなに可愛いかったら誰だって振り返るよな…)」
『(ありがと!でもみんなは私だけじゃなくて、颯夜のことも見てるわよ)』
颯夜の現在のレベルは約200。
世界中の探索者の中でも10本の指に入る高レベルであり、当然のようにその恩恵は外観にも出ているのだが普段の颯夜はかなりのズボラである。
どれくらいのズボラかと言うと歯を磨く時以外には鏡を見ないくらい。下手したら歯を磨いている時も鏡を見ていないくらいズボラなのだ。
自分が興味あることには一生懸命になるが興味が無い事にはトコトン興味がないそんなタイプであり、自分の顔にはあまり興味がなかった。
その性格が災いして、自身の見た目には無頓着で外観が良くなったことに気付けないでいた。
天然を素でいったり、いかなかったりする厄介な主人公、それが藤 颯夜である。
ここ最近、学校か秘密基地かダンジョンにしか足を向けていなかった颯夜は数え切れないくらいの人達からの視線を受けて、ショッピングモールに着く前に疲れ切っていた。




