46話︰失言
さて、秘密基地に帰ってきたがやることは多い。
とりあえず、リストにすると以下の事がある。
・清十郎の部屋の確認。
・愛の巣の確認。
・ダンジョンコアの吸収
・大鎌の進化
「何から初めようか」
『でしたら今上げたリスト通りでよろしいのでは。』
まあ、そうするかな。楽しみは後に取っておくタイプだし。
「じゃあ、唯衣案内頼む」
『はい、かしこまりました。では失礼してチェンジフォーム!』
唯衣よ、なぜ今チェンジフォームするの?俺の疑問は唯衣の姿を見てぶっ飛ぶ。
普段は女医さんのような格好をしている唯衣なのにチェンジした後はメイド姿になっていた。
「もっ!?」
萌えるぜ…。未だに唯衣に対して素直になれない自分がいるがこのメイド姿は萌える。
『ご主人様、如何ですか?』
そう言うと唯衣はミニスカートの先を軽く摘みながらその場で一回転する。
その際にツインテールが綺麗に円を描きながら流れ、俺の正面で止まると首をコテンと傾けながら上目遣いで聞いてくる。
勿論、脚はミニスカートとニーハイのテンプレで絶対領域が存在している。
俺が何も言わないからか正確には悶えそうで何も言えないのだが唯衣は更なる攻勢に出る。
『ご主人様のスマホの検索履歴を元に再現したのですがお気に召さなかったですか?』
「・・・」
またですか…。俺の個人情報の扱いは一体どうなっているんだ。誰しもスマホには闇を抱えているんだぞ!
そんなことを思っていると唯衣は畳み掛けるように必殺技を繰り出してくる。
両手でハートの形を作ってやるあれである。
『ご主人様!萌え、萌え、キュン!』
「ぐはぁっ」
秘密基地の機能を無駄に使い、ピンクのエフェクトを纏った萌えキュンは俺のハートを撃ち抜いた。
ただ一言だけ言わせてくれ…萌え萌えキュンを使うタイミングは今ではないと思う。
心の底から屈した俺はメイド姿の唯衣に腕を組まれ、誘われながら清十郎の部屋を見に行く。
作戦室から続く、秘密の部屋内に新しく設けられた廊下には扉がいくつもあった。
そこには清十郎の部屋の他にもリビングや両親の部屋、俺の寝室に愛の巣(唯衣の部屋)とを繋ぐ扉が設けてあり、動線の関係でこういう造りに変更したらしい。
『こちらが清十郎殿の部屋です。』
廊下に並ぶ、扉のひとつだけが和風を思わせる引き戸になっていた。
引き戸を開けると靴を脱ぐ、玄関がありその先には昔ながらの土壁に板張りの廊下が続く。
清十郎の部屋ではあるがこの秘密基地の主は俺なので履いていたブーツを脱ぐと率先して、中へとお邪魔する。
板張りの廊下の先には立派な和室があった。それは清十郎がまだダンジョンマスターだった頃に使用していた床の間よりも手の込んだ造りで欄間や襖、障子が追加されていた。
『ご主人様、右手の襖を開けると寝室。左手の障子を開けると縁側があり、庭に繋がっています。』
俺は襖を開けて寝室を覗く。8畳一間の落ち着いた部屋には桐箪笥がひとつ。
反対側の障子を開ければ、小さな池のある日本庭園が広がっていた。
清十郎は感極まったのか唯衣に深く頭を下げる。
「奥方様、かたじけない」
『清十郎よ、気にするでない。そなたの更なる活躍を期待してのこと。』
「ははっ!」
奥方様とか言われて嬉しかったんだろうけど、今の唯衣メイド姿だからね…セリフと格好がちぐはぐで前代未聞だよ。
清十郎のお部屋見学会が終わったので次は唯衣の部屋を見に行きたいところだがソラが縁側を甚く気に入ったようで昼寝を始める。
どうやら日向ぼっこが気持ち良いみたいでもう動く気がないとへそ天までするのでゆっくりさせてあげる。
清十郎の部屋を出て、廊下の奥に進むと唯衣の部屋はある。
唯衣と俺の部屋は隣同士らしく扉が並んでいる。
『ここがご主人様と私の愛の巣です。』
唯衣の先導で扉を抜けた先には白とピンクのインテリアで統一されたラブリーな部屋が広がっていた。
俺は女性の部屋になど当然、今までの人生で入ったこともなく、その女性オブ乙女な部屋に圧倒されていた。何か甘い匂いがするし…。
俺とは対照的にモコは部屋に入った瞬間、乙女心で瞳を輝かせると部屋全体を興味深そうに、隅々まで視線を巡らせている。
ワァフン!(私は気に入ったわ!)
『モコちゃんのベッドもありますよ。』
唯衣が指す先には寝室があり、天蓋付きのベッドがドーンと備えられていた。
「め、面妖な部屋でありますな…」
清十郎は自身の理解の範疇を超えてしまったのだろう。失言と取られ、唯衣とモコに連れられて何処かへと行った。
次の日まで清十郎を見ることはなかったとだけ言っておく。
唯衣達が清十郎を連行したせいで俺は乙女な部屋にひとり取り残されたが正直に言って、女性の部屋に興味がない理由がない。今はちょうど、手持ち無沙汰だ。
ドキドキしながら俺は寝室の物色を始めた。変態ではありません。
天蓋付きのベッドをクルリとひと周りし、確認を終えると次はベランダ付きの窓から外へ出る。
ベランダにはティータイムが出来るようにテーブルとイスが設置されており下を見下ろせば、わんわん牧場が広がっていた。
そこではちょうど、コタロウとトモヤが元気に走り回っている。
ベランダから室内に戻り、入ってきた扉とは違う扉を開けてみるとそこには見慣れた俺の寝室があった。
『ご主人様、いつでも来れるようにマスターの寝室と繋げておきました。』
いつの間に戻ったのか唯衣とモコが抜かりはないという顔をしていた。
平日の投稿時間を11時から7時に変更します。




