44話︰候
ゆっくりと話していたせいでゾンビやスケルトンがこちらに気付き、緩慢な動きで迫ってくる。
「清十郎、お前の力を見せてもらおう!」
「御館様、御意に」
俺の指示で清十郎がひとりで前に出る。
今の清十郎は初めて会った時のような気怠そうな雰囲気はなく、忠義に厚い家来といった風情だ。
「この世に迷いし死霊ども、我がまとめて冥府に送ってやろうぞ。さあ、掛かってこい!」
俺の目に狂いはなかった。清十郎は出来る子だ!
生者に引き寄せられるのかアンデットが次々と集まってくる。
そんなアンデット達を清十郎はものともしない。
スケルトンの類いは大鬼の金棒で一撃粉砕。ゾンビは腰に帯びた刀、鬼灯で一刀両断。
鬼灯は鬼火属性が付与されており、斬られたゾンビは傷口から青い炎が燃え上がる。
かなり厨二力の高い武器だ。
清十郎ひとりで廃旅館ダンジョンの周辺を粗方片付けてしまった。
トータルで50体くらいか。それでも息が切れた様子もなく、悠然としている。
「御館様、迷宮周りの掃討、了と仕り候」
「う、うむ。見事であった」
やべぇ、清十郎が使ってるのは古文てやつなのか?最後が難しくてよくわかんねえ…。
『マスター、同時通訳可能です。』
流石、唯衣だ!次から頼む!
清十郎が徘徊していたアンデットを片付けてくれたおかげで俺達は悠々と廃旅館ダンジョンの中に入ることが出来る。
ダンジョン内は旅館をベースにしたお化け屋敷といった具合だ。
『マスター、ダンジョン及びダンジョンコアの掌握完了して候。』
今回、早っ!?候。
『ダンジョンマスターの部屋まで転移しますか候。』
いや、今はまだいい。俺とソラの光魔法と光魔導も試したいし、モコの闇魔法も見たいからな。
『わかりました候。』
これは唯衣の中で候ブームが来たのかもしれない候。
唯衣とやり取りしていたら旅館内の奥からアンデットがぞろぞろと姿を現す。
「ここは俺とソラでやる」
ウォーン!(やっと出番だ!)
俺とソラが前に出ると狙いもつけずにライトボールを撃ち込む。
オォ゙ォ゙ォ゙…
ライトボールに触れたゾンビやスケルトンは苦しみの怨嗟を上げながらその身体が崩れるように昇天していく。
無駄撃ちしているとスキルレベルが上がった。
これまでに比べて、やけにレベルが上がるのが早いが称号収集家の効果である。
途中からソラと競うようにライトボールを乱れ撃ちしていたら、旅館内のアンデットを粗方片付けてしまったようで館内にはアンデットの無情な叫びが消えていた。
「(唯衣、聞こえるか?)」
『どうかしましたか、マスター。今、愛の巣完成まで大詰めの忙しいところです。』
どうやら候ブームは過ぎ去ったようだ。それと愛の巣はいいが清十郎の部屋は作り終わったのだろうか…。
「(このダンジョンに宝箱かモンスターハウスはあるか?)」
『どうやらどちらもないようですが魔道具と思われる反応が2つほどあります。』
貰えるものは貰う主義なので回収しよう。
「(わかった。案内頼む)」
唯衣にナビしてもらいながら進んだ先は離れにある元はお高めの客室だったと思われる建屋。
その周りにはアンデットが警備でもしているのか立ち尽くしている。
ウォン!
俺が指示を出すまでもなく、モコが闇魔法のダークネスボールを同時に複数発動させて、アンデットをまとめて殲滅する。
闇の住民に対して、闇魔法で倒すなんて力技だな。
だが自身の周りにダークネスボールを衛星みたいに浮かせる様は最高にカッコ良かった。うん、やっぱウチのモコ、サイコーだわ!
離れの建物からは異様なオーラが立ち昇り、不気味と言える気配が漂っていた。
これは中ボスなのではと俺の期待が高まる。
引き戸の玄関を開けば、中は外から見た時よりも広い和室になっており、部屋の奥には陰陽師が着るようなボロボロの装束を纏ったアンデットが佇んでいた。
『マスター、Bランクのリッチですが一応、ユニーク個体のようです。それと愛の巣完成しました。』
「(お疲れさん、清十郎の部屋はもう終わってるんだよな?)」
『・・・。』
「キサマら、ナニヨウダ」
『マスター、ここは以下の台詞が良いかと思います。』
話題を変えて、話を逸らそうとするなんて誰に似たのやら…。まあ、カッコ良いから使わして貰うけどね。
「我ら星の巡り、地の理に従い、乱れたる気の流れを正さんとする者なり」
「ソレは陰陽師タル、ソレガシノセリフ…」
『マスター、ソラ君、今です!』
リッチが困惑した隙にソラはライトボールを放ち、俺は光魔法のレベルが上がって覚えたライトフォースを放つ。
「オオォ゙ノレェ〜、ヒキョウナ…」
後には魔石と下駄が残されていた。久しぶりに鑑定を使い、下駄を調べると『悠久の下駄(英雄級)』と出た。
そう言えば、清十郎は裸足のままだったことを思い出したので渡すことにする。
「清十郎、今日の戦いの褒美だ」
「はは!ありがたき幸せ」唯衣翻訳済
清十郎が下駄を履くとより様になって、いい感じだ。
『マスター、魔道具はこの部屋に飾られている掛け軸と壺になります。』
唯衣に言われて、掛け軸と壺に目をやると禍々しいオーラが出ていた。
なんか呪われていそうで触りたくないのでそのまま、アイテムボックスに取り込む。
『マスター、このダンジョンにある目ぼしいアイテムは以上です。』
唯衣からの報告にしけたダンジョンだなと思いつつ、次の指示を出す。
「目ぼしいものがないならダンジョンマスターのところに俺達を転移してくれ」
『わかりました。マスター』
唯衣の返事と同時に視界が変わった。




