39話︰お年頃
・・・お、重い。
寝苦しさで目を開けて見れば、いつもの寝室の天井。
俺の胸の上に頭を乗せて眠るモコもいつもと同じ。
ただ違和感はモコの頭が何だか大きいような…。気にはなったが戦いの影響でまだ眠い。
そっと、モコの頭を退かし抱きかかえるようにして再び、眠りにつくのであった。
『マスター、おはようございます。』
ヒューマン型目覚まし時計唯衣の声で意識が覚醒する。
ベッドの上で大きく伸びをして、勢いをつけて上半身を起こす。
「おはよう」
『いつでもご飯の準備は出来ていますので用意が終わったらダイニングにお越し下さい。』
既にモコは起きた後なのか隣には居らず、温もりも消えかけている。
全身に軽く筋肉痛を感じるがゆっくりと柔軟で身体をほぐせば、痛みは薄れていった。
身体を動かすことで意識もハッキリしてきたら、お腹が減っていることに気付いたのでダイニングに行く。
「はぁ?」
ダイニングに入ると素っ頓狂な声が出た。それも仕方ないと思う。
ダイニングには俺以外の全員が揃っていたがモコ、ソラ、コタロウ、トモヤの見た目が変わっていたのだ。
それは躯の大きさも含めてである。
モコ達は俺が眠る前と比べて、体長が3メートルほどに成長しており、見た目も綺麗になっているというか気品が出たというか、存在の格が上がったのは確かだった。
『マスター、言い忘れていましたがモコちゃん、ソラくん、コタロウくん、トモヤくんは進化しました。』
唯衣の発言でご飯を食べていた4匹は誇らしそうに俺を見てくる。
『コタロウくん、トモヤくんは白金狼に進化しました。その恩恵で風魔術と身体強化スキルを修得しています。』
進化したコタロウ、トモヤの毛並みは以前よりも遥かに輝いていた。
その違いは明らかで例えるならば、以前は台所にあるアルミホイルの裏か表か解らないがくすんだ方だったの対して、今ではピカピカの方くらいになっているのだ。
その上、風魔術という遠距離攻撃の手段まで手に入れるなんて・・・。
ウォン!(俺達、進化したよ〜)颯夜バウリンガルより
ウォン!(これからはもっと戦えるよ〜)颯夜バウリンガルより
そのコタロウとトモヤは街を歩くイケメンよりも雰囲気が出ていた。
『マスター、ソラくんは希少種の金狼に進化しました。その恩恵で光魔導と身体強化を修得しています。』
俺のソラは見た目がというか毛色が変わっていた。もう名前で解ると思うがくすんだ銀色から金色に変わっている。
百獣の王ライオンを彷彿とさせる、いやそれ以上の風格はまさに狼の王者。
進化前は奥手男子だったソラが今では自信に溢れ、イケイケのやりらふぃーだ。
しかも、光魔導まで覚えたなんてウチの子、最高かよ!
ウォン!(ご主人様、褒めて〜)
こんなにイケてるソラを見たら世の女性が放っておくわけがない。
今後、ソラに悪い虫がつかないよう俺が気を付けるしかないと決意するのであった。
なんせウチのソラはちょっと流されやすいところがあるからね。
『マスター、モコちゃんは闇勇狼に進化しました。非常に珍しいユニーク個体です。そして、影魔導から影魔法に変わり、闇魔法も修得しました。モコちゃん激強です。』
・・・そうなのだ。ソラ、コタロウ、トモヤ3匹も進化して、存在の格が上がった。だけど、モコだけは格の上がり方が圧倒的なのだ。
元々からの毛並みも悪くなかったのだが今では髪専門のモデルさんと並んでも引けを取らない艶とサラサラ感。
黒色の毛は更なる艶を帯びて、漆黒の毛になり光に当たると紫色の輝きを放つ。
所謂、ゴーストカラーというやつだ。
古来より紫色は高貴な者の色として扱われることが多いがモコも類に漏れず、高貴で何処か近寄り難く他を寄せ付けない存在感を放っていた。
ワフン!(素敵になったでしょ)
俺はゆっくりと待ての姿勢で座るモコに抱きつく。
体長が3メートルを超えたことで背丈が170cmの俺と同じくらいあり、物凄いモフモフ感を全身に感じる。まるでモフモフのお風呂や〜。
これが至福の時というものかと横を見れば、唯衣が両手を広げて待っていた。
俺は視線を元に戻すと静かに顔をモコに埋めて、モコ吸いを開始するのであった。
唯衣に抱き着くとかホントは興味があるが両親もいるところでそれは許されない。
なんてったって、俺はお年頃なんだから…。
モコ吸いを堪能した後、ご飯をいただく。
『マスター、このダンジョンのダンジョンマスターはどうしますか。』
おっと、忘れていた。
昨日の氾濫でここのダンジョンマスターはDPを使い果たし、尚且つ唯衣によってダンジョンコアを封じられて使用不能にされているんだった。
「ちなみにこのダンジョンのダンジョンマスターって、どういう奴か解るか」
『はい、ここのダンジョンマスターはオーガ種です。詳しい固有名までは分かりませんがランクはAランク以上と推定します。』
ほほう、オーガ種かぁ〜。オーガ種と言えば、強靭な肉体と鬼の角を持つ知性がある高位のモンスターだ。
知性があると言っても人間の子供程度だがその肉体の強さは人類を軽く凌駕するので油断出来る相手ではない。
だが俺とは相性の良い戦闘タイプだ。
「じゃあ、ご飯食べたらみんなで倒しに行こう」
『わかりました。』
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食事を終えて、リビングでモコとソラを両手に侍らせながら進化後の毛並みを確認し、食後のティータイムを楽しんでいると準備が終わった両親が来る。
今回は家族全員でダンジョンマスター戦に挑もうと思ってる。
そうすれば、たぶん両親も称号を増やすことが出来て戦闘力を上げられるはずだ。
この夏休みは他にもダンジョンの攻略を予定しているし、今回みたいな氾濫に遭遇するかもしれないことを考えれば、家族のレベルアップは必須だ。
『マスター、全員揃いました。』
「わかった。それじゃあ行こうか」
俺の掛け声に全員の表情が締まる。
唯衣が既にこのダンジョンにハッキングをかけて、ダンジョンマスターの部屋の前に転移設置している。
転移の間には新しく扉が増えており、この扉からダンジョンマスターの部屋の前に繋がっている。
ダンジョンマスターからしたらたまったもんじゃないだろう。
折角作ったダンジョンを一瞬で踏破、もしくは無かったものにされるのだ。
俺だったら泣くかもしれない。まあ、オーガが泣くとは思えないが・・・。
新しい扉に手を掛けると俺を先頭にダンジョンへと赴くのであった。




