34話︰眼鏡美人
タイトル長くしちゃったけど、10万文字突破記念ということで許してね。
微睡みの中、懐かしさを感じていた。
液体に包まれ、心地よい浮遊感と優しい温もり。
それは胎児が産まれる前に母体の中で感じている安心感と同じだったのかもしれない。
『マスター、意識が戻ったようですね。』
なんだが久しぶりに聞く声には嬉しさが含まれているように感じられた。
懐かしいその声に反応して、俺は目を開く。
いつもと違う感覚、いつもと違う場所、そして、知らない人。
目の前には眼鏡をかけ、白衣姿の美人がガラス越しに立っていた。
『治療は完了しましたので今から再生液を排出します。』
よく分からないことを言っている。自分が今どんな状態なのかもよく分からない。
分かるのは自分が生きていたことだけ。そう、あのミノタウロスと死闘を演じて、自分は生き残ったみたいだ。
この状態になる前のことを思い出していると足下から液体が抜けていき、空気で息が出来るようになる。
それまで朦朧としていた意識がハッキリと浮上してくる。
「どういうこと?」
目の前の光景と自分の状況から導き出された答えがこれだった。
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治療室に設置された回復カプセルから裸で出た俺は何故か実体で眼鏡美人になっていたベースAI先生からバスローブを受け取り、今リビングのソファーで説明を待っている。
勿論、隣にはモコが陣取り、俺にベッタリとくっついている。俺もモコにベッタリとくっついているのでつまりはギュウギュウってことだ。
お互いに恋しかったので仕方ない。
向かいに座るベースAI先生が眼鏡をクイッと上げる仕草をすると説明が始まった。
『マスターは牛魔帝、ランクSSのモンスターを倒した後に気を失われました。』
「牛魔帝?ランクSS?」
いきなりよく分からないパワーワードが出てきた。
『はい。マスターが戦い、倒したモンスターは魔王と呼ばれ、恐れられるモンスターの頂点の一角。人類にとって災害レベルの脅威です。マスターが勝てたのはダンジョン内であったことと、フィールドが狭く相手が力を出し切れなかったことも大きいです。』
「・・・」
『マスターはスキルの効果で高揚状態が続き、自覚がなかったようですが自身の限界を超えた限界まで力を暴走させ、魔王の討伐に成功しました。しかし、限界を超えた代償としてマスターの身体はボロ雑巾より酷い状態に陥り、死ぬ寸前にまで肉体は酷使されました。』
「・・・ボロ雑巾」
『はい、ボロボロの雑巾以下です。』
あれ?ベースAI先生、なんか口が悪くなってない?
『それについても追々、説明します。』
否定しないのね!?
『とにかく、マスターの肉体は崩壊寸前まで追い込まれていました。そこにお母様とお父様が救援に現れました。』
バンッ!
「颯夜の意識が戻ったって本当か!?」
リビングのドアを勢いよく開けて、入ってきたのは両親と3匹達ソラ、コタロウ、トモヤ。
「颯夜!あぁ無事に意識が戻って良かったわ」
両親は俺の姿を見るなり、泣きながら抱き着いてくる。少々大袈裟なのでは?
『大袈裟ではありません。マスターは1週間の間、意識を失っておりました。』
「えっ!?そんなに・・・」
「そうよ!もう意識が戻らないのかと思って・・・うぅ」
「そうだぞ!父さん達はお前の事をずっと心配してたんだからな!」
確かに1週間も意識がなければ、誰でも心配すると思う。
「心配かけてごめん。ところで学校は?」
『マスター、ご両親が心配されているのに気にするのはそこですか・・・。』
そんなこと言われてもねぇ。俺、本業は一応、学生だからね。休んでた間、どうなったのか気になるよね。
「学校には探索で大怪我を負ったから休むと伝えたわ。おかげで友達が何人も何回も訪ねてきて大変だったんだからね」
「は、はい。ご迷惑お掛けしました」
友人達にも心配をかけさせてしまったな。あいつらのことだからパーティーから外した自分達のせいなんて思って、変に責任を感じていなければ良いんだが…。後で連絡しとくか。
「ん?じゃあ、学校はもう夏休みなの?」
「はぁ、そうよ」「そうだぞ」
おいおい!じゃあ、俺は貴重な夏休みを既に無駄にしてるのか!
『マスター、説明に戻ってもよろしいでしょうか?』
「あ、はい」
『瀕死で意識を失っていたマスターをご両親が保護して、秘密基地に連れ帰りました。しかし、マスターの容態は芳しくなく、手の施しようがありませんでした。このままではマスターの死を待つしかないと誰もが思っていました。』
「・・・」
「そこからは私が話そう」
話を引き継いだのは父親だ。
「颯夜を救助した後、モコが意識を取り戻して、このダンジョンのダンジョンコアを持ってきたんだ」
「えっ!?じゃあ、あのミノタウロスはダンジョンマスターだったってこと?」
「ああ、どうやらそうだったみたいだ。そして、颯夜がダンジョンマスターを倒したのにその成果でもあるダンジョンコアを勝手に使ったことを謝っておく。すまん」
「颯夜、違うの!そうしないと颯夜を救えなかったのよ!」
『マスター、お父様は悪くありません。提案したのは私です。』
俺は今何を見せられているのだろうか、記憶がないからか他人事に思えて仕方がない。そもそも話の要領を得ないんだが・・・。
「別に怒ってないし、それよりよく解んないから説明してくれる?」
3人は顔を見合わせると頷き、再び父親が話し出す。
「颯夜を救う為にダンジョンコアを秘密基地に吸収させて、秘密基地のレベルを上げたんだ」
ほう、なるほどなるほど。
『私のレベルが上がったことで新しい機能、治療機能が追加されました。これを使いマスターの治療を行ったのです。』
だから俺はあの変なカプセルに入っていたのか。やっと、理解できた。
「ちなみにその姿は秘密基地のレベルが上がったから?」
『そうです。今の見た目に不満があれば、マスターの好みに合わせて、自由自在に変えることが出来ます。』
俺好みの美人に仕上げれるなんて、これは楽しみだ!
概要の説明が終わったところでみんなにお礼を言う。
「父さん、ダンジョンコアを使う決断をしてくれてありがとう」
「俺はお前の父親なんだ、息子の命を助けるなんて当たり前だ」
なんで親父はこういう時だけカッコイイんだよ。
「母さん、心配してくれてありがとう。そして、いつも心配ばかり掛けてごめん」
「本当にそうよ!何度心配掛ければ済むのよ!・・・でも生きて帰ってきてくれて良かったわ。うぅ…」
また、泣かせてしまった。いつも泣かせてるな…。
「ベースAI先生、いつも助けてくれてありがとう。今の俺があるのはベースAI先生のおかげだ」
『マスター、私の事をベースAI先生と言うのは辞めませんか?そろそろ私にも名前をくれても良いと思うのですが・・・』
「うっ、そ、それはちょっと考える時間を下さい」
リビングに久しぶりの笑いが起こる。
「モコもダンジョンコア持ってきてくれてありがとうな。後、今回もモコがいなかったら俺は生きていなかったよ」
ウォン!(ホントにそうなんだから感謝してよね!)
モコも無事で良かったと思いながらワシャワシャしてやる。
「ソラ、コタロウ、トモヤお前達も心配してくれたんだろ?ありがとうな!」
ウォン!ウォン!ウォン!
俺達も撫でろと群がってくるので順番に撫でてやる。
改めて、俺はここにいるそれぞれの顔を見ながらもう一度、みんなに感謝する。
「みんな!ありがとう!これからも無茶すると思うけど、許してね!」
「・・・馬鹿野郎」
「・・・もうやめて」
『・・・はぁ』
「・・・クゥン」
「「「ワン!」」」
さあ、待ちに待った夏休みだ!はじけるぞ〜!
第1章 完
この話で第1章は終わりとなります。
第2章では主人公がより無双し、より強くなっていきますのでお楽しみに。




