33話︰限界の果て・・・
「モコォー!」
モコが時間を稼いでくれたおかげで次の動作をする余裕が出来る。
モコのことは心配だが今はコイツを倒すのが先決だ。
隙が出来た牛魔帝の下半身の部分になる背中にスパイダーストリングを張り付け、自身の身体を引き寄せる。
俺が見つけた死角は奴の背中だ。
ぐんぐんと奴の背中に引き寄せられ、もう少しで着地出来るというところで邪魔が入る。
「させぬわ!」
牛魔帝は着地を阻止すべく、その巨体を走らせる。
急に慣性に引っ張られ、体勢が崩れる。だがここで決めなければ、また窮地に追い込まれると本能が訴える。
縮まっていたスパイダーストリングを伸ばし、相手の動きに合わせて、ブランコを漕ぐ要領で勢いをつける。
そのまま、サーカスの空中ブランコのように牛魔帝のお腹の下と地面ギリギリを通り抜け、スパイダーストリングと奴のお腹が触れ合うと同時にスパイダーストリングを伸ばしながら奴のお腹を支点にして、一気に逆上がりのように上昇。
とんでもない浮遊感が襲うが見事にアクロバティックを決めて、背中へと着地した。
《スキル操糸術Lv:1を習得しました。》
「小癪な真似をぉ!」
片手はスパイダーストリングを張ったまま、もう片方の手でシャドウボールを無我夢中で放つ。
戦士としての自負なのか背中には鎧はなく、無防備に見える。
モコが作り出してくれた最初にして最大のチャンス。ここで必ず削ってやると決意し、ありったけの魔力でシャドウボールを撃ち込む。
《不屈の精神の過負荷暴走を確認。上限突破暴走を発動。》
《集中のレベルが一時的に最大になりました。》
《操糸術のレベルが一時的に最大になりました。》
《罠術のレベルが一時的に最大になりました。》
《影魔導のレベルが一時的に最大になりました。》
《身体強化のスキルを一時的に習得しました。》
《身体強化のレベルが一時的に最大になりました。》
《魔力強化のスキルを一時的に習得しました。》
《魔力強化のレベルが一時的に最大になりました。》
《魔力操作のスキルを一時的に習得しました。》
《魔力操作のレベルが一時的に最大になりました。》
《思考加速のスキルを一時的に習得しました。》
《思考加速のレベルが一時的に最大になりました。》
〃
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《種族限界値が最大になりました。》
《種族が人間から半神人へ一時的に進化しました。》
頭の中で色々な声が聞こえた瞬間、俺の身体の周りに青白いオーラが噴き出し、今まで放っていたシャドウボールが変化する。
これまで球体だったシャドウボールは狼の形に変わり、牛魔帝の背中を駆け抜け、剥き出しの背中を抉っていく。
まるでモコの分身体が襲い掛かって居るようだった。
「ぐがぁっ!?」
初めて聞く、牛魔帝の苦痛な叫び。
背中の筋肉は抉られ、一部背骨が見えるほど。
これは堪らんと言わんばかりに下半身を暴れ牛のように何度も何度も跳ね上げ、俺を振り落とそうとする。
そんな動きをされたらまともに魔法も放てないので何とか耐えようと腰に帯びていた暗闇の短剣を抜き、牛魔帝の背中に突き立てるべく、勢いよく振り降ろすが暗闇の短剣は表面の皮に当たると根元からパキリッと折れてしまう。
結局、力任せに暴れる勢いにスパイダーストリングは千切れ、再び俺は空中に投げ出されるが直ぐに空中で体勢を整えて、地面に着地する。
ボキッ!ボキッ!ボキッ!ブチッ!ブチッ!ブチッ!
今の音は単に俺の足の骨が折れた音と全身の筋肉が切れた音だから気にしないで欲しい。
俺の身体が能力上昇に耐えられなかっただけだ。
「き、貴様ぁ!よくも、よくもやってくれたなぁ!」
憤怒の表情で俺を見る牛魔帝にさっきまでの余裕はなかった。
「塵も残さず!無に帰してやるわ!!」
ハルバートを上段に構えると巨体から赤いオーラが立ち昇る。
これまでは様子見だったのだろう。浮ついた自信は欠片もなくなり、目の前にいるのは戦士の顔をした強敵。
全身の筋肉には血管が浮き上がり、正真正銘最大の一撃が来ようとしていた。
その一撃を避けようにも俺は足の骨が折れ、筋肉の繊維は千切れ、その場から一歩も動くことが出来ない。
だが俺の頭は、思考は恐ろしい程に冷静だった。
モコは余程ダメージを受けたのか未だに意識を失っているようで動く気配もない。この状況で毒魔法を使えば、モコを巻き込むことになる。
ならば、使える力は限られる。
一瞬の思考の後、無意識に最大最強の言葉を紡ぐ。
「上限突破暴走罠」
牛魔帝が最強の一撃を放つよりも早く、俺の罠術が発動する。
「神龍の顎」
限界を超えて強化された最大威力のスキル群全ての複合罠術。
牛魔帝を囲うように地面から神々しい巨大な龍の頭部が迫り出す。
その大きさは牛魔帝を丸呑みする程で口には激烈な刃が並び、180度に開いた状態で獲物を今か今かと喰らい尽くすのを待っていた。
「な、なんだ?!これは・・・神の力だと!?人間ごときが使えるというのか・・・」
全身全霊を出し尽くし、正直怠くて今すぐにでも寝たい俺は呆気なく告げる。
「・・・じゃあな」
「ふ、ふざけるなぁ!人間ごときがぁ!この魔王である我を・・・」
グシャッ!!
龍の顎は一瞬で閉じるとその激烈な刃の隙間から血が流れ出る。
最後に牛魔帝が見せた表情は信じられないといった顔。
人間など弱小と決めつけ、侮ったが故に牛魔帝は敗北した。
さっきまでの激戦が嘘のように静寂が空間に広がる。そこに最早、動ける者はいなかった。
俺も意識を手放す前に壁際で倒れるモコを見る。
「(ごめん、モコ・・・どう・ら・・限界・・・みた・い・だ・・・)」
そこで俺の意識は途絶えた。
《7つの大災厄、憤怒の魔王が討伐されました。》
この日、世界の人々は永らく響くことのなかったワールドアナウンスを聞いた。
今回獲得した称号
勇者
・魔王を討伐した者に送られる称号。
《効果》全ステータスに+補正(中)。闇の眷属に対して特攻効果。勇者固有の光魔法を使用可能。
【名前】 藤 颯夜
【順位】―
【称号】下剋上 征服者 英雄 無慈悲 罠使い 反抗者 罠戦術家 勇者
【職業】 上級道具士
レベル:124(+48up) 530P
筋力:379(+144up)
体力:448(+192 UP)
魔力:222(+96UP)
精神:222(+96UP)
耐性:222(+96UP)
器用:478(+192UP)
敏捷:335(+144UP)
幸運:597(+240UP)
【技能】
集中Lv:6up!
鑑定Lv:4up!
危険察知Lv:3up!
気配察知Lv:4up!
気配遮断Lv:6up!
操糸術Lv:1new!
罠術Lv:7up!
影魔導Lv:4up!
毒魔法Lv:1
光魔法Lv:1new!
恐怖耐性Lv:4up!
【固有技能】
アイテムボックスLv:10
【特別技能】
限界突破
不屈の精神
複合罠術
【特異技能】
秘密基地Lv:6
次話で第1章は終わりとなりますので明日も投稿します。




