27話︰毒魔法
当初の目的であった毒無効化を得る為、死蜘蛛シリーズを集めることは達成した。
ここまでの道のりは決して、平坦ではなかったと思う。
苦労のほとんどの割合がわんわん牧場の建設に割かれているが建設出来たことには満足している。
寄り道はしたが結果的には達成出来たのですることはひとつ。
毒魔法の習得だ。正直、習得するか迷っていたが毒無効化を手に入れたことで吹っ切れた。
という訳でみんなが見守る中、『毒の宝珠』を使用する。
手のひらで消えるように毒魔法の宝珠がなくなり、ステータスを確認。
【技能】
集中Lv:3up!
鑑定Lv:4up!
危険察知Lv:3up!
気配察知Lv:4up!
気配遮断Lv:6up!
罠術Lv:7up!
影魔導Lv:4up!
毒魔法Lv:1new!
恐怖耐性Lv:4up!
【固有技能】
アイテムボックスLv:10
【特別技能】
限界突破
複合罠術
【特異技能】
秘密基地Lv:6
無事に習得できたので次は実践だ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
ちょっとそこまで散歩してくる感覚で秘密基地から出る。
流石にモコも毒無効化は持っていないので連れて行けない。今回はお留守番だ。
クゥ〜ン
ウルウルした瞳で見つめられて、気持ちが揺らぐがどうなるかわからないから心を鬼にして、背を向ける。
秘密基地から出たのは地下31階。ここから出るモンスターはオーク、シルバーウルフ、キラースパイダー、ポイズンスネークなどCランクモンスターがメインになる。
久しぶりにダンジョンを1人歩きしているとモコの存在が何だか恋しい。
何年も探索者が踏み入っていないからか、すぐにモンスターと遭遇する。
今回、遭遇したモンスターはオーク3匹。
この階層には毒耐性を持つモンスターもいる為、毒に対してフラットなオークは丁度いい相手だ。
俺を見つけ、興奮しながら嬉しそうに走って来るオークが愛おしく感じる。
もう、数え切れないくらい倒したからかな。
今から使う毒魔法は初めて使うので、しっかりと手を前に出してから構えて発動する。
「ポイズンブロウ」
俺の手から放たれる毒の風は迫るオークを包み込んでいく。
毒の霧に触れたオークはその動きを止めると一瞬だけ苦しみ、声も出せなかったのかバタバタと倒れていく。
その光景に息を呑む。
「・・・やべぇわ、これ」
想像ではもっと苦しむと思っていた。別にサイコパスじゃないのでオークが苦しむのが見たかったわけじゃないが余りにも、そう余りにも呆気なさ過ぎて驚愕を超えて、困惑していた。
毒性の強い猛毒や劇毒だって、もう少し作用があるだろう。だがこの毒魔法は恐ろしほどに静かだった。
まるでオークが眠ってしまったかのように…。
「探索者協会が危険技能に指定するわけだ・・・」
この光景を見ていたのは颯夜だけではなかった。
秘密基地内の作戦室では両親と4匹も透過機能を使い、一連の顛末を見ていた。そして、みんなの反応は同じだった。
両親は顔を真っ青にし、モコ、ソラ、コタロウ、トモヤは全身の毛を逆立たせ、ブルブルと震えている。
それは明確な恐怖。絶対に相対したくないという意思だった。
眠るように永眠したオークはダンジョンに吸収され、その場には魔石が3つとオーク肉ひとつだけが残される。
毒の効果はダンジョンの修復機能により、時間が経てば浄化されることは解っている。しかし、それは毒魔導を使用してのこと。
毒魔法での検証を行った者はいないのだ。どれくらいで浄化されるか検討もつかない。
俺はこの戦利品の扱いに困った。拾っても大丈夫なのか?それとも毒に冒されているのか。
そこへ都合良く、シルバーウルフが2匹やって来る。オーク肉の匂いに誘われやってきたのだろう。
この時点で空気中の毒はなくなったと思った。その証拠にシルバーウルフはオーク肉と俺を見つけると平然と駆け寄ってくる。
目の前のオーク肉に気を取られているが俺のことも警戒している。
オーク肉を中心にやがて、お互いが見合った状態は俺が引くことで収まる。
ある程度、距離が離れるとシルバーウルフ達は落ちているオーク肉に殺到する。
ガブリガブリとオーク肉に我先にと喰らいつき、ものの数分で平らげる。
食べる様子を見て、俺は安心していた。内心では喰らいついた瞬間にシルバーウルフが卒倒したらどうしようかなんて思っていたのだ。
俺の杞憂だったと解ったところで既にフラグが立っていた。
グルルゥ!グルルゥ!
オーク肉を食べ終わったシルバーウルフは口の端から白い泡を出し、目が血走り、その姿は明らかに状態異常にかかっていた。
ふらふらと俺に敵意を剥き出しに進んでくる。まるで毒を盛りやがって許さないと言っているようだった。
シルバーウルフが一歩、二歩、三歩と進むにつれて体の揺れは大きくなり、ついには血を吐いて倒れた。
ピクピクと痙攣するも徐々に弱まり、息絶える。
この結果な毒魔法の恐ろしさと使い勝手の悪さを痛感させられた。
恐る恐る倒したオークとシルバーウルフの魔石を触らないようにアイテムボックスにしまい、帰ろうと秘密基地を発動させるか迷う。
俺の逡巡を余所に目の前に秘密基地のドアが現れ、中から母親が出てくる。
「颯夜、心配いらないからとりあえず中に入りなさい」
母親に促されるように秘密基地へと入るのであった。
秘密基地の中ではモコ達も含めて神妙な面持ちで俺を待っており、最初に聞こえたのはベースAI先生の声だった。
『毒魔法によるマスターへの汚染は確認出来ません。マスター、お疲れ様でした。』
この報告で全員が息を吐き、全身から力が抜けるのがわかった。
モコ達も安心したのか執拗に躰を擦りつけて甘えてくる。
『マスター、今回の毒魔法のダンジョン内での残存効果は約5分です。また、ドロップしたアイテムに付着した場合は浄化機能が働かないことが確認されました。』
つまり、毒魔法で倒すとドロップアイテムは回収出来ないということか…。
『マスター、基地内に浄化機能を追加することをお勧めします。』
流石、ベースAI先生。浄化機能まであるなんて最高じゃないですか。ただお高いんでしょ?
『はい、少々多くの魔力を消費しますが今ある魔力量で充分に賄えます。』
「なら付けます」
即決だった。だって、モコ達に何かあってからでは遅いからね。
ついでにこの際、秘密基地内の間取りも変更することにした。
今までは作戦室を中心に出入り用の扉と転移用の扉と秘密の部屋への扉があったが作戦室と秘密の部屋の間に転移の間を設けることにした。
生活空間から直接、作戦室に来れてしまうと嫌でも俺の戦いが目につく場合がある。
そうすると無駄に両親を心配させる可能性があるからだ。
早速、ベースAI先生に頼んで浄化機能を取り付け、間取りを変更する。
浄化機能はエアーシャワーみたいなものが作戦室の出入り用の扉に設置され、更に獲得したアイテムも浄化出来るボックスが共に設置された。
念の為、一度使用感を確認してアイテムボックスにしまった汚染されていると思われる魔石をボックス内に入れる。
このボックスはまんま回収ボックスの見た目だ。
そして、浄化されたシルバーウルフの魔石は両親に回収され、新たにウチの子として生成される。
「颯夜、後3〜4匹頼む」
父親の考えではどうやら数を増やして、ローテーションでモンスターハウスを無双ランニグさせるつもりらしい。
今ここにモンスターブラック労働をさせる組織が爆誕しようとしていた。
俺は父親のその要求を呑み、シルバーウルフを求めて再び地下31階層を徘徊し始めるのであった。
やっぱり、数が多い方が安全性は増すと思うんだ。ウチの子達はみんな大事だから。




