25話︰アタシがついてる
現在の俺は自宅近くにあるダンジョンの地下35階以降を目指している。
このダンジョンの最高踏破数は地下40階。
約10年前に有志の地元探索者達によって記録されたもので当時、50人以上のパーティーを組み、1ヶ月近い時間を掛けて到達したと言われている。
それから10年間、規模の大きい探索は行われず、地下30階以降に足を踏み入れた探索者は報告されていない。報告していないだけでいるかもしれないが…。
そんな地下30階に俺は挑む。1日2階層のペースで5日掛けて、ボス部屋の前まで来た。
前情報ではここのボスはキラースパイダーとジャイアントスパイダー3匹。
共にCランクのモンスターでかなりの強敵と言える。特に虫系モンスターは個人的にデススパイダーのせいで苦手だ。
また地下20階のフロアボスの時のようにレアボスが出るかもしれないので予習はしてきた。
キラースパイダーの上位種はデススパイダー。おうふ。
なんだかんだ、まだ心の準備が出来ていないから会いたくはない。
ワフン!(アタシがついてるから大丈夫!)
俺の影から顔だけを出す、心強い相棒に緊張が和らぐ。ついでに頭を撫でておくが影から頭だけ出ている様は不気味だ。
ガブ!
痛い!噛まれたふくらはぎを擦ると声を掛ける。
「それじゃあ、行くか?」
ウォン!
両手でフロアボスの扉を押し開く。足を踏み入れるとそれが合図となり、黒い靄が発生する。
もうこれはフロアボスのテンプレだなと思いつつ、黒い靄が固まり始めたところでスパイダーネットを発射しようとするが今回はひとつ違うところがあった。
黒い靄は20メートル程上にある天井に張り付くように固まっているのだ。
でもやることは変わらない。スパイダーネットを発射。
だが今回はまたしても違う展開が襲う。
俺の放ったスパイダーネットはスパイダーネットで迎撃され、不発に終わる。
慌てて槍の罠を天井に張り付く黒い靄の位置に設置し、床に無数のトラバサミをばら撒くように仕掛ける。
黒い靄から現れたのは黒と白のツートンに背中側のお腹に見覚えのある髑髏柄。
デススパイダーだ。しかも、それが3匹。背中に冷たい汗が流れる。
シャーー!!
『恐怖耐性のレベルが4に上がりました。』
姿を顕現したことで槍の罠が発動するが致命傷には至らず、かなり怒らせる結果となった。
槍の罠で何本かは身体を貫いているが残念ながら頭には命中しなかった。虫系モンスターというだけあって、生命の強さを感じる。
槍を身体から抜く為だろう、自ら地面に落ちるように罠から抜け出す。
その動作で1匹が仕掛けたトラバサミに挟まれ、足がピクピクしているがまだ絶命には至っていない。
本当に虫系モンスターは厄介だと痛感しつつ、絶命は時間の問題だと考え、残りの2匹に集中する。
2匹はやられた1匹を気にする素振りも見せず、お尻から本家スパイダーネットを発射してくるが今度は俺がスパイダーネットで迎撃する。
デススパイダー達はスパイダーネットが俺に通じないと解ると今度は口から毒の塊を飛ばしてくる。
俺は内心で「ぎょっ!?」としながらも影魔導の『シャドウボール』で対応するが1人ではまだ一発が精一杯だ。
万事休すかと思った時、影から頭を出したモコが『シャドウボール』を放ち、もう一方の毒の塊を迎撃する。
迎撃で飛び散った毒液は床に触れると「ジュウジュウ」と音を立てて、僅かに床を溶かす。
こんなのを喰らったら毒耐性があろうとひとたまりもないと思い、迎撃してくれたモコに感謝する。
「モコ、ナイス!」
毒の塊も迎撃されたデススパイダー達は攻め手に困り、罠も警戒している為か、思うように動けずお互いに膠着状態になるはずだった。
そう俺には心強い相棒のモコがいる。
モコは再び影の中から『シャドウスパイク』を発動。
デススパイダー2匹は意表を突かれ、その身体にダメージを受け、1匹は蜘蛛の糸を使い天井に逃げ、1匹は横に跳んで逃げる。
横に跳んだ個体は俺が仕掛けたトラバサミに挟まれ、瀕死に陥る。残りは1匹。
罠に掛かった個体に気を取られる間もなく、天井に逃げたデススパイダーから間髪なくスパイダーネットと毒の塊が連続で射出され、俺とモコは迎撃しながら右へ左へと避ける。
自身の仕掛けた罠の位置は把握しているので俺が罠に掛かることはないし、モコは攻撃の瞬間だけ顔を出すので問題ない。
迎撃と回避を繰り返しながら限界設置数に達している仕掛けた罠を解除して、リロードして天井に槍の罠を発動させる。
デススパイダーは俺が発動した罠を器用に天井を走りながら避けていくが想定済みだ。
Bランクモンスター、正面から戦ったらマジで強敵である。
一進一退の攻防を繰り返しているふりをして、追い込むと期待通りにモコがデススパイダーの攻防を崩す。
影から凄い勢いで飛び出すとデススパイダーに向かって『シャドウボール』を放つ。
モコの攻撃に対処しようとデススパイダーは隙を晒した。
その隙を俺は見逃さなかった。槍の罠を発動し、見事に身体の中心を槍が捉え、動きが格段に悪くなる。
この機会に畳み掛けるようにスパイダーネットでデススパイダーの足を絡め取り、さらに身動きが出来ないデススパイダーにスパイダーネット、もうひとつおまけにスパイダーネット。
まるで蜘蛛の糸に絡め取られた獲物のようにグルグルになって動けなくなったデススパイダーに再び槍の罠を見舞う。
それでも不気味な6つの目は忙しなく動き、中々死なないデススパイダーにさらに槍の罠を繰り返す。
計4回も槍の罠を発動して、デススパイダーは魔石になった。
最後に残った個体との戦いに夢中になって、残りの2匹を忘れていたがすでに魔石へと変わっていた。
「はあ、はあ、はあ」
戦いが終わると一気に汗が噴き出してきた。
「・・・やった」
自然と呟きが溢れる。
途中、何度も何度も秘密基地を発動して、有利に戦うことを考えた。
・・・でも、それではあの時の恐怖を何も出来なかった自分を超えられないと感じて、踏ん張った。
正直、途中から泣きそうだったがとにかく踏ん張った。
戦いは終わったのに今更ながら膝が震え出す。立っているのも億劫で尻もちをつく俺にモコが擦り寄る。
「モコ、ありがとう。助かった」
ワフン!(私がついてるから大丈夫って言ったでしょ)颯夜バウリンガルです。
モコがいなければ、俺1人ではこの戦いを乗り越えることは出来なかったと思う。
モコセラピーのおかげで立てるようになった俺は慌てて、魔石と宝箱にドロップアイテムを回収する。
結構、時間が経っていたので戦利品が消滅するギリギリだったと思う。
ボス部屋を出て、次の階層へと降りてから秘密基地を発動する。
『マスター、お疲れ様でした。』
ベースAI先生の言葉で無事に帰ってこれたことを実感する。
「颯夜、よくやった」
「颯夜、無事でよかったわ」
「「「ワン!」」」
「みんな、ただいま」
どうやらみんな俺のことを心配して、見守ってくれていたようで何だか恥ずかしさが込み上げてくる。
そして、フル装備なのはいざという時は助けに入るつもりだったのだろう。ヤバイ、泣けてくる。
「颯夜が頑張ったから今夜はごちそうよ!」
母親の言葉でもっともテンションを上げたのがモコ、ソラ、コタロウ、トモヤだ。
その様子を見て、俺と父親はちょっと苦笑いだった。
今回の戦いで颯夜が獲得した称号。
反抗者
・自らの意思で脅威に立ち向かい、打ち破った者に送られる称号。
《効果》不屈の精神。窮地に追い込まれるほど能力が上昇する。
罠戦術家
・罠を組み合わせ、成果を最大化させる者に送られる称号。
《効果》複合罠術。複数の罠を組み合わせ新し罠を造り出すことが出来る。




