22話︰主人公補正?
今日は久しぶりにフロアボスに挑もうと思っている。
現在の1日での踏破数は2階層。昨日はボス部屋の前まで行き、そこで帰ってきた。
情報によれば、地下20階のフロアボスはシルバーウルフとグレイウルフが3体出る。
シルバーウルフは体長が2メートルほどで名前の通り、銀色(実際はちょっとくすんでいる)の体毛を持つCランクモンスター。
素早い動きと強力な噛みつきに注意とあった。
グレイウルフはシルバーウルフの下位互換であり、ダンジョンウルフの上位互換のモンスターだ。
灰色の体毛に体躯はシルバーウルフより一回り小さいが仲間との連携を得意としており、油断は出来ない相手。
秘密基地内で装備の準備を整えると外に出て、ボス部屋の扉の前に立つ。
今回も例の手でいく。卑怯とか言わないように。
両手で扉を押し開き、部屋の中へと足を踏み入れる。
それを合図に黒い靄が発生し、4ヶ所に集まっていく。
ある程度、黒い靄がモンスターの姿を形取るとスパイダーネットを発射。同時にトラバサミも発動する。
盤石の布陣が整い、後はボスモンスターがしっかりとその姿を現すだけ。
ワォオオーン!!
顕現する直前に自身の武威を示すような遠吠え。
どうやらこの階層のボスは登場の仕方ってやつを理解しているようだ。
キャウン!?
キャン!?キャン!?キャン!?
がしかし、俺の盤石の布陣は破られることなく、フロアボス達を蹂躙する。
銀色の体毛を持つ3匹のウルフが倒れて、ダンジョンへと吸収される。
「ん!?今消えたのは銀色のウルフ?」
グルルルッ!!
そして、正面の奥にいた個体は唸り声を出しながら俺を睨みつけていた。
残った個体は情報とは全く違う黒い体毛に覆われ、血のような紅い瞳をしていた。
身体にはトラバサミが喰い込み、悲痛なダメージからは血が流れている。
ガオォォ!!
突然の咆哮。その瞬間に嫌な予感がしたが既に遅かった。
突如、後ろから攻撃を受けて俺は前に倒れる。
何事かと振り返れば、自身の影へ黒い突起物が戻っていくのが見えた。
その攻撃が何か俺には解らなかったが何かしらの特殊能力であることには間違いないと思った。
また、訳の解らない攻撃をされては困ると立ち上がり、黒いウルフの方に目を向ければ、奴は地面へと沈んでいく。後に残されたのはスパイダーネットの残骸。
その様子を見て、ひとつの可能性が浮き上がる。
「(影魔導か!?だとしたら奴は影狼!?)」
影狼はシルバーウルフの進化先のひとつと言われている。
(育成からしっかりと調べた人がいないのでそうであろうと推測されている)
この影狼はBランクの高位モンスターであり、影魔導を使ってくることでカッコイイと有名だ。
基本的にBランク以上のモンスターは魔術か魔導を使ってくるのだがとりわけ、影系魔法は厄介とされている。
その証拠に地面へと潜ったと思われた影狼は俺の影から飛び出し、噛み付こうとしてきた。
それを寸前で横に跳ぶことで躱し、振り返れば反撃する間もなく自身の影に沈んでいく。
『危険察知Lv:1を習得しました。』
「ちっ!」
影魔法カッコイイな〜、いつかは欲しいな〜と思っていたのに相手にするとここまで厄介だなんて思っていなかった。
「だけどな!」
この影移動にはひとつ欠点がある。それは影から影へとしか移動出来ないこと。
地面にスパイダーネットを打ち込み、その下に罠を設置する。そして、その場所に俺の影がくるように位置をとる。
本来ならパーティーで挑むであろうから影の数はパーティーの人数分と手下であるグレイウルフの数だけあるはずだった。
でも俺はソロ。手下のグレイウルフ改め、シルバーウルフは初手で全滅している。
そして、奴は自身の影に潜ったことで影がなくなっている。
つまり、この部屋にある影は俺の影だけだ。
もうここまで言えば、解るだろう。影狼は出られる場所が限られている。
グオォォオ!?
案の定、影から飛び出した瞬間にスパイダーネットに絡まり、設置した槍の罠でその身を貫かれる。
「お前の敗因は俺を甘く見たことだ」
記憶に残るフロアボス戦にするためにも勝利の決め台詞は必要だ。
その命が尽き、消えゆく影狼に対して、斜め後ろ向きで立っていた俺は胸の前で十字を切ると小さく息を吐く。
残心を解いた後、魔石を回収しフロアボスの宝箱へと足早に向かう。
さて今回も初回特典がつくので中身には期待している。
ゆっくりと宝箱の蓋を開けば、中には2つのアイテム。
「よしっ!」
逸る気持ちを抑えられず、鑑定しながら秘密基地を発動して中に入る。
『マスター、お疲れ様でした。今回も見事な戦いでした。』
そうだろうそうだろう。実に完璧で智謀に溢れた戦いだったと自賛する。
(一撃喰らったことはもう忘れています)
自讃することも忘れず、ベースAI先生に称賛されて気分が良いまま、獲得したアイテムを台座に乗せる。
ここに来るまでに鑑定してわかったアイテムの名前は『影魔導の宝珠』と『影狼のブーツ』。
前者は調べなくても解るので影狼のブーツだけを調べてもらう。
影狼のブーツ 希少級
能力︰敏捷+20%
効果︰影系魔導に+補正(中)
解ってはいたが今使っている盗賊の靴よりも性能が良いので履き替える。
そして、今回のメインはこれだろう。
影魔導の宝珠。
正直、使うことはもう決めているが一応、ベースAI先生に相談する。
「影魔導を習得しても問題ないか?」
『はい。マスター。影魔導は罠術との相性が良く、レベルが上がれば【エクストラスキル】複合罠術を覚えることが出来ます。』
「な、なんだってぇ!?エクストラスキル!?まだ、限界突破しか持ってないけど増えるっていうのか!?」
とりあえず、驚いておいた。
『複合罠術を身につければ、マスターの戦術がより広く深くなります。』
アイテムボックスから影魔導の宝珠を取り出すとすぐに使った。
そして、すぐに影魔導を使ってみた。影移動に感動し、魔力がなくなり掛けたことは秘密だ。
影魔導で遊び過ぎて、ぐったりとした身体をソファーに預ける。
ぼ〜っと、魔力が回復するのを待ちながらフロアボス戦を思い出していた。
「そういえば、フロアボス情報と違ってなかった?」
「今頃っ?」とこの場に誰かいたら確実にツッコまれていたと思う。
『はい。マスター。今回のフロアボスは低確率で発生するレアボスと呼ばれるものでした。』
今回は俺だから何とかなったがこれが普通のパーティーだったら全滅は必至だったと思う。
それにしてもフロアボス戦でレアボスが出てくるなんて所謂、主人公補正というやつだな。
戦いを思い出し、今回の結果に満足したのでアイテムボックスから今回、手に入れた影狼の魔石を取り出す。
「ついにきたな・・・」
『はい、マスター。ついにですね』
前に少しだけ言ったと思うが初めて生成するモンスターはカッコイイのじゃないと嫌だと言った。その考えは変わっていない。
そして、今日ついにカッコイイモンスターの魔石を手に入れた。
じゃあ、することはひとつだよね。
「今から影狼を生成する!」
『はい、マスター。』
「準備を頼む!」
『出来ております。マスター。』
この仕事ぶりはまさにパーフェクト秘書!さすべー先生!
『マスター。モンスターを収容する部屋はどうされますか?』
「えっ!?」
何?モンスターを飼うためには部屋が必要なの?聞いてないよ〜。なので説明してもらう。
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ということでベースAI先生に説明してもらったのだがどうやらモンスターによって飼育方法が異なるとのこと。
今回、生成する予定の影狼は1日3回の散歩が欠かせないという。
怠れば、影狼が体調を崩し、パフォーマンスが落ちるらしい。
ついでにご飯も1日3回。ダンジョンのモンスターなのであげなくても魔力を吸収するから死にはしないが強くはならないらしい。
そこはね、ちゃんとあげるよ。今の時代、動物愛護団体ならぬモンスター愛護団体なんてのもいるくらいだし。
もうね、こうなったら誰にも文句言われないよう徹底的にモンスター、いやウチの子の為にわんわん牧場作ってやろうと思う。
『マスター、犬ではなく狼です。』




