16話︰思慮分別
休みが明けて、学校から戻ると再びダンジョンに潜る。
週末は思いがけず、探索が全く捗らなかったので今週はペースを上げたい。
それから今後は状況を見てになるが週末は休みにするか別のダンジョンで探索するか検討だ。
地下11階。ここから出現するモンスターがだいぶ変わる。
出現するのはコボルト、ダンジョンウルフ、ホブゴブリン、ホブゴブリンアーチャーといったE・Fランクモンスター。
一気に難易度が高くなり、探索者達にとってひとつの壁と言われている。
というよりも地下10階までがチュートリアルみたいな難易度だったわけで此処からが本当の探索が始まる。
今まで以上に気を引き締めて、注意深く挑むが攻略速度は上げていく。
まず、最初に遭遇したのはコボルト2匹だ。
こいつらはゴブリンよりも1.5倍くらい早く、爪や牙が脅威になる。
タイミングを測り、1匹は落とし穴。もう1匹はトラバサミで対応。
ガァオ!?ガガァオ!?
落とし穴を仕掛けたやつは寸前で跳んで避けられた。もう1匹のヤツも跳んでトラバサミを避けようとしたが片足が掛かり、片足を失って床で転げ回っている。
罠に掛かったヤツは無視して、避けてこちらに襲い掛かってくるヤツの対応をする。
勿論、ショートスピアでだ。
いくらゴブリンより早いといっても中学生程度。お前も少し前までは中学生だっただろ?ってのはなしだ。
こちとら新米とは言え、れっきとした探索者なんでね。
落ち着いて、コボルトの動きを見てショートスピアを突き出す。
ショートスピアの尖端はコボルトの顔面を綺麗に捉え、やすやすと顔を貫通した。
「ふぅ〜」
ちょっと、グロかったがまだグロいヤツが転がっているのでそちらもさっさと片付ける。
転げ回り、こちらに背を向けた隙にショートスピアで一突き。
コボルトの身体はダンジョンに吸収されるように消えて、魔石と牙が残る。
コボルトの牙は価値がないので放置で魔石だけ持って行く。
初めてのEランクモンスターだったが自分で思っていたよりも冷静に対応できたことを素直に喜ぶが罠が避けられたのは反省すべき点だ。
ダンジョンの先へ歩みを進めながらタイミングが悪かったと反省し、次はもっと上手くやると意気込む。
ついでに強化したショートスピアだったが強化する前ですらまともに使っていなかったのに違いなど解るはずもなかった。
その後、コボルト、ホブゴブリン、ダンジョンウルフと出会い。どの戦いも罠が上手く決まり、苦戦せずに倒すことが出来たが問題はホブゴブリンアーチャーだった。
初めての飛び道具を扱うモンスターとして、警戒していたが思った以上に厄介だった。
こちらは罠術を使うも射程が10メートルに対して、あちらは20メートルくらい離れた距離から矢を射掛けてくる。
そのせいでこちらが取れる手段が限られてしまう。
ひとつは飛んでくる矢を避けて、時にショートスピアで叩き落として近付き、こちらの射程に入った瞬間に罠を発動して仕留める。もしくはショートスピアが届く距離まで近付き、仕留める。
これはまずまずの成果だ。こちらが近付けば、当然むこうは距離を保とうとしてなかなか縮まらないのがネックだが…。
ふたつめはアーチャーを発見した段階で罠を仕掛けておいて、下がりつつ罠へと誘導する方法だ。
これは前者よりも矢を撃たれる回数が増え、その分リスクを高く感じる。矢自体の速度は100キロくらいではあるがまだ絶対に当たらないとは言い切れない。ぐふ
結果から言うとアーチャーには『スパイダーネット』を採用しました。
もうね、俺の十八番だわ。スパイダーネット万歳!
おかげでこの日は探索速度が元に戻って、ギリギリ地下12階まで行けました。
今回、手に入れた魔石は秘密基地に吸収させず、父親に売って自分のお小遣いにしたことも付け加えておく。
こうして次の日も2層進み、その次の次の日も2層進んだ。
レベルは2つ上がっているが流石に学校が終わってから門限までの探索では2層進めるのが限界みたいで当初の見立てが甘かったことを学ぶ。
最初の見立てでは1週間で地下30階くらいかな〜て、まだ社会の厳しさを知らない子供なんで勘弁してください。
ここ数日で大体の探索ペースが掴めてきた。
ペースが掴めたことで今後の予定が見えるようになって、気持ちが軽くなり心にも余裕が出てきた。
どうやら俺は自分しか持っていない力を手に入れたことで気付かないうちに早く強くならないといけないと勝手に焦って、気を張り詰めていたようだ。
その点はベースAI先生は見抜いていたようでしっかりと指摘された。
『マスターは自身の本質を理解された方が良いです。』
「俺の本質って?」
『マスターは思慮分別があるタイプです。』
高校1年生には難しい言葉でなんとなくしか解らない。
「それって、どういう意味?」
『物事を冷静に考え、適切な判断を下せる者です。』
ハッキリ言って、自覚がないんですけど。
『マスター自身に自覚がなくとも今までの行動で証明出来ます。顕著だったのは地下10階でのフロアボス戦です。』
俺のかさぶたに触れてくるパターンですか!?
『マスターは冷静な分析と適切な手段でフロアボス相手に完璧な戦いをしたと評価しています。マスターのように戦える者は意外と少ないのです。』
めっちゃ褒めてくるやん。
『探索者になる多くの者は血気盛だったり、浅慮な者が多く。そういった者は命を落としやすいものです。』
あれ?ちょっと胸が痛いな〜。何となくで死にかけた男ですけど何か?
そして、上げておいてからの落とすパターンだったとは…これも俺が調子に乗らないように配慮してるんだな。思慮深い俺には解る。
ベースAI先生のアドバイスで冷静な俺は無事に地下16階をクリアして、地下17階に入る。
新しい階層では秘密基地でまず休憩することに決めている。
休憩することで一度、気持ちと集中力をリセットするのだ。
『マスター、休憩中に失礼します。』
「どうしたの?」
『マスターにご提案があります。』
ベースAI先生から提案してくるのはこれで2回目だ。1回目は毒魔法の取得についてだったか。
あれはためになったと思っているので今回も当然聞く。
「提案って?」
『はい。マスターはダンジョン内に存在するモンスターハウスについてご存知ですか?。』
モンスターハウス。それは探索者がダンジョン内において、恐れる事象の上位に入るひとつだ。
曰く、転移罠が発動しその先がモンスターハウスだったとか、通路の途中にあった部屋に入った瞬間、モンスターが湧き出し閉じ込めりたとかそのどれもが悲惨な結末を持って語られる。
「当然、探索者登録時に教えられるから知ってる」
『この地下17階にはモンスターハウスが存在しています。』
確かに端末に表示されるマップにもモンスターハウスが表示されており、注意喚起する文章が載っている。
「そうだな」
『そこでレベリングすることを提案します。』
「な、なんだってぇ!?」
俺はこの提案に腰を抜かしそうになるくらい驚いた。というのも俺はソロであり、この地下17階にあるモンスターハウスは通常、地下30階以降に出るCランクモンスターのオークが出ることで危険とされ、探索者協会から注意喚起が強く出されていた。
なのにそこでレベリングをしようなんて…。いや、待てよ。
そこで俺は思案する。ベースAI先生が無茶な提案などするはずないのだ。
30秒ほど、思案するとモンスターハウスでレベリングを勧めた核心に辿り着く。
「なるほど、そういうことか…」
ベースAI先生の真意を読み取った俺は不敵な笑みを浮かべていた。




