15話
秘密基地と探索を始めて、4日目。3日目は2日目と大して変わらないので省略する。
やっと、地下10階のボス部屋の前まで来ました。
正直、もっとサクサクと探索が進むと思っていたが思いの外、魔力の問題で休憩を多く取る必要が出て進みが悪かった。
ベースAI先生からの助言通り、道具士と魔力系の相性はイマイチだと実感したのがここ数日でのことだ。
まあ、必要以上に安全マージンを取っていたっていうのもあるけど、一回死に掛けているのでね。念には念をだ。
だけど、今日は学校が休みなので朝イチからしっかりと探索を進めようと思う。
その前にボス戦を終わらせないとだけど…。
この自宅近くのダンジョン地下10階のボスはホブゴブリン1匹にゴブリンが3匹出てくる。
この情報は端末にも出ているので潜ったことがある探索者なら皆知っている。
情報の開示が行なわれ、ここまで潜れる実力があるパーティーならなんら問題ないが俺はソロだ。
対策が必要になる。
『ステータス的には圧倒出来ます。』ベースAI先生談。
まだね、自信がね。そう自身の強さに対する自信がないのだよ!武術系スキルひとつも持ってないし。
取りたいとは思うけど、、道具士は非戦闘職だから武術系のスキルを取得するには倍のポイントが必要になるから躊躇する。
さて、脳内でイメージトレーニングをする。
「完璧だと思う」
脳内のシュミレーションは完璧だった。後は実践するのみ。強く、両手を握り締めると深呼吸して精神を落ち着かせる。
秘密基地から出ると門のような大きい扉を両手で押し開く。
今はショートスピアはアイテムボックスの中にある。
扉をくぐれば、黒い靄が4つ発生する。
靄はだんだんとゴブリンの姿を形作っていく。
「今だ!」
俺は両手の死蜘蛛の小手からスパイダーネットを計4回打ち出す。
スパイダーネットは形作っていた靄を包むように絡め取る。
ゴブリンの姿が見えるようになった時には既にスパイダーネットで身動き取れないホブゴブリンとゴブリン達が出来上がっていた。
ゴブゴブ?
グギャグギャ?
どうして自分達が動けないのか解らない様子。
「勝ったな・・・」
アイテムボックスからショートスピアを取り出しつつ、まずは罠術がレベル2に上がったことで覚えた『トラバサミ』を全力で2匹に発動。
罠術レベルが2に上がったことで2つまで同時に発動出来るようになった。
ダンジョンの床の一部がトラバサミのように変化し、ゴブリンへ襲い掛かる。
全力のトラバサミはゴブリンの下半身をやすやすと挟み千切る。大きさが最早、トラバサミじゃないっていうツッコミは聞きたくない。
残りの2匹はショートスピアで無慈悲に1匹ずつ仕留めていく。
戦闘時間約1分。如何にも強敵だった風に掻いてもいない汗を拭うふりをする。
「お前達は強敵だった」
卑怯な手で勝った自分を慰めている訳ではない。断じて、自分の記憶を美化しようなんてしてない。
1人、善戦した余韻に浸っているとボス部屋の中央に宝箱が現れた。
「宝箱だ!」
俺は全力で宝箱に向かって駆け出した。それもそうだろう。俺にとっては初めての宝箱なのだ。
テンションが上がらないわけがない。
フロアボスを倒すと初回のみ、宝箱を100%ドロップする。1人でも経験者がいると初回と見なされず、ドロップ率は10%まで下がる。
そして、初回は良い物が出やすいと言われている。
俺は逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと宝箱の蓋に手を掛けて開ける。
「おお〜!」
中に入っていたのは3つ。大当たりだ。
「2つ入っていたとかは聞いたことあるけど、3つも入ってることあるんだ・・・」
ひとつずつ持ち上げてはアイテムボックスに回収し、魔石も回収する。
本当はじっくりたっぷり感動を堪能したいところだが気配察知で後続を捉えたので急いで移動する。
地下10のボス部屋は何人でも入ることが出来て、横取りも可能でそのまま、素通りすることも出来る。
ボスフロアを抜けて、階下に降りてから端末で人がいないところに移動し、秘密基地を発動する。
『マスターおかえりなさいませ。実に見事な戦いでした。』
やめてぇ〜、もう忘れてたのに〜。
フロアボス戦では無傷だったのに味方からの玉で被弾するなんて…。クリティカルヒットだよ。
『マスターの戦い方はとても効率的で理に適っていたので私は純粋に褒めただけです。』
「・・・そうなの?」
『はい。マスターは自身の持つ力を最大限に最大効率で使用しフロアボスに何もさせませんでした。これはマスターが選択したビルド。罠士に必要な素養です。』
「そうかな・・・?」
「そうです。マスター程、罠士に向いている人はいないと思います。」
これは煽てられている気がするが悪い気はしない。寧ろ自信になる。
「ところで何でフロアボスとの戦い知ってるの?」
『私はマスターのユニークスキルです。普段はマスターの中で見ています。』
「じゃあ、秘密基地の中以外でもアドバイスとかって出来るの?」
これが出来るなら秘密基地が発動出来ない危機に陥っても的確なアドバイスが貰える。
『現状ではまだ無理ですが秘密基地のレベルが上がれば可能です。』
秘密基地のレベルを上げる理由が出来たな。
話も一段落着いたところでフロアボスから出たフロアボーナスを調べる。
宝箱から出た物を鑑定すると『盗賊の靴』、『強化玉』、『ポーション』。
名前以外に効果が解るのは唯一、知識で知っている『ポーション』のみ。他は効果不明だ。
なので作戦室の台座にひとつずつ乗せていく。
盗賊の靴 一般級
能力︰敏捷+5
強化玉
効果︰一般級の武具を一段階強化
フロアボーナスのわりに微妙だが10階層のましてやホブゴブリンのボスからと考えれば、納得だ。
まあ、俺にはどちらも使えるけどね。
早速、スニーカーを脱いで盗賊の靴を履く。
履き心地と見た目は圧倒的にスニーカーが上だ。明日、中敷きを買うことを決意し、次は強化玉を使う。
今、強化出来るのはショートスピアと手に入れたばかりの盗賊の靴。
迷うとこだが靴はいずれ死蜘蛛シリーズにするつもりなので今回はショートスピアにする。
「ベースAI先生、これってどう使うの?」
『強化したいアイテムに押し当ててください。』
教えて貰った通り、ショートスピアに強化玉を押し当てると、強化玉は割れてなくなったがショートスピアに変化は見られない。
不安になる現象だ。
「こ、これって、成功なの?」
不安に駆られ、恐る恐る尋ねずにはいられない。
『はい。成功です。ご不安でしたら台座に置いて確認ください。』
言われるまま、台座に置くと『ショートスピア+』となっていた。
プラスが付いているから強化されたことが解ったがどれくらい強くなったのかが分からない。
「これでどれくらい強化されたんだ?」
『はい。鋭さと強度が約1.5倍程になりました。』
これは凄いのだろうか?聞いてみたもののよく分からない。
試しに振ったり、突いたりするが強くなった実感はない。
仕方ないので実戦で使用して違いを感じるしかないと言い聞かせる。
フロアボーナスの確認も終わり、探索に戻ろうとするが時間帯なのか休日のせいなのか、秘密基地の外は探索者がなかなか途切れない。
どうしようもないのでリビングで休憩をとって、時間を空けるが探索者は増えるばかり…。
まさか、こんなにも週末探索者がいるとは予想外だった。
諦めも肝心かと今日の探索はここで一旦切り上げて、靴の中敷きを買いに行こうと思う。
それぐらい、盗賊の靴の履き心地に違和感しかない。
やっぱり、ファンタジーアイテムだろうとテクノロジーには敵わない部分があるのだなと痛感する日となった。
 




