14話
自宅を出て、フードを被る。ついでに普通のマスクもする。
不審者感は否めないがしょうがないと割り切る。
時間帯もあり、ダンジョンの入口には誰もいなかったのでよりフードを深く被り、駆け足でダンジョンの中に駆け込む。
間違いなく、ダンジョンカメラのAIには注意人物としてマークされたに違いない。
ダンジョンの中に入り、少ししてから端末を取り出す。マップを確認して、他の探索者が近くにいないか確認。
近くにはいなかったので秘密基地を発動して、中で死蜘蛛装備をつける。
秘密基地の透過機能を使い、外に誰もいないのを確認して、秘密基地を出る。
今日から死蜘蛛の小手の能力、蜘蛛の糸と罠術を活用して探索を進めることになるので確認の意味で一度、使ってみる。
「スパイダーネット!」
利き手にはショートスピアを持っているので逆の手を伸ばし、壁に向けて放つ。
俺から放たれたスパイダーネットは綺麗な蜘蛛の巣の形のまま、飛び壁に張り付く。
当初、糸しか出せないと思っていたがベースAI先生から魔力の消費は上がるが形を変えることが出来ると教わった。
試しにやってみたが上手くいったようだ。
次は罠術を試す。罠術はレベル1なので使えるトラップは『落とし穴』だけだ。
こちらは発声する必要がないので(蜘蛛の糸も発声は要らない)イメージして、発動する。
するとイメージした場所に落とし穴が発生し、床に穴が出来る。
今回は30cmほどの深さをイメージしたがイメージ通りの出来だ。
多分、本気を出しても2メートルくらいの深さが最高だと思う。
確認も終わったので探索を開始する。少し歩けば、前方からモンスターがくるのが解った。
気配察知は仕事をしている。
最初に現れたのはゴブリン。止まることなく、進んでいれば相手もこちらに気付く。
ゴブリンは俺を見つけると喜色を浮かべた表情で走り寄ってくる。
ゴブリンの走る早さに合わせて、タイミングよく落とし穴を発動。
ぐぎゃっ!?
落とし穴に足を取られ、ゴブリンは派手に転ぶ。そこへスパイダーネットを放つ。
ゴブリンはスパイダーネットで床に張り付けにされて、身動出来ない。
そこをショートスピアで一突き。
モンスターに何もさせないこの戦術。まさにハメ技だな。
今後は魔力節約の為にスパイダーネットは控えるが落とし穴は罠術レベルアップの為、積極的に使っていく。
端末を使いながらどんどんと進み、他の探索者と遭遇しそうになれば、秘密基地を使い身を隠す。
秘密基地の中にいる時は当然、端末から俺の存在は消える。
端末から急に探索者の反応が消えれば、不審に思う奴がいるかもしれないが些事としておく。
そんなことを繰り返し、地下2階へ。同じように3階、4階を過ぎて5階に入った時だった。
端末に探索者の反応があったので秘密基地にこもり、透過機能で過ぎ去るのを待っていると見覚えのある4人組みが歩いてくる。
それは俺のクラスメイトであり、最初にパーティーを組んでいた友人達。
彼等は順調に探索者の道を歩んでいるようでその表情には自信と笑顔に溢れていた。
そんな友人達を微笑ましく見ている俺は爺臭かったかもしれない。
友人達が過ぎ去り、少ししてからまた探索を開始する。
端末で最短距離を進んでいるのでかなりのペースで地下6階へと辿り着く。
時計を確認すれば、時刻は19時前。今日の探索はここまでとして、秘密基地を発動する。
秘密基地の中で転移機能を使用すれば、一瞬で自室へと着く。
秘密基地はダンジョン内でドアが見えないように発動したままにしてあるので明日は地下6階から探索を続けられる。
更にダンジョン内は地上に比べて、魔力濃度が濃い為、秘密基地の魔力の貯まりも良くなる。
一石二鳥というやつだ。ちなみにベースAI先生にこの調子でダンジョン内で発動していたら基地レベルが6にいつ上がるのか尋ねたところ、約10年後と言われた。
なので獲得した魔石は今のところ、秘密基地に吸収させている。
自室から1階に降りれば、両親がちょうど夕食を食べるところだったので一緒に食べながら今日の報告をする。
両親の反応は薄かった。なんかもう好きにしたらいいよみたいな。
ただこれまで以上に無理はするなと念は押されたが…。
次の日、また学校で女子に挨拶されたが今まであまり話さなかった男子からもちょいちょい話し掛けられた。なぜだろうか?
学校が終わり、紅い悪魔号をとばして帰宅する。
今日は地下10階のボス部屋の前まで行きたいと思っている。
ちょっと、探索を急ぎ過ぎじゃないかと思うかもしれないが俺のレベルは19。
称号の効果でダンジョン内のみ、レベル40相当になる。
なので俺の適正階層は15階前後が妥当になる。
自室で着替えて、秘密基地のドアをイメージすると何もなかった場所にドアが現れる。
中に入るといつもと違う場所から作戦室に入った。
『マスター、ようこそ』
今日もベースAI先生が迎えてくれる。
「問題はなかったか?」
『はい。問題ありません。』
それだけ聞くといつものドアから出る。
そこは昨日まで探索していた場所、気を引き締めて探索を再開する。
このダンジョンは地下5階からモンスターの種類が増えて、大体2匹で出てくる。といってもコウモリ型のモンスター、レッサーバットだ。
飛行型のモンスターで的も小さく、素早いので倒すのが面倒だが俺にはスパイダーネットがあるので楽に倒すことが出来る。
勿論、レッサーバット用に網目を小さくしている。
探索を進め、もうすぐ地下7階というところで気配察知の範囲が広がった感覚があった。
元々、20メートルくらいだったのが30メートルくらいになったと思う。
より安全を確保できるようになったことで探索の速度はわずかに上がった。
地下7階、相変わらずモンスターは変わり映えしないがモンスターに遭遇する頻度が上がってきた。
それにともない、スパイダーネットを使う機会も増えて、魔力がちょっと心許なくなってきたので一旦、秘密基地で休憩をとる。
作戦室を抜けて、ダイニングに備えつけてある冷蔵庫からジュースを取り出して、リビングでゆっくりする。
糖分が魔力を使ったことで疲れた身体と脳へと行き渡る気がする。身体を伸ばしたり、横になったりと寛ぐこと30分程。
魔力も少しだが戻ってきたようなので探索を再開しようと作戦室で透過機能を使うと間の悪いことに配信系探索者が配信しながら探索している。
ここで外に出る訳にはいかないので配信系探索者を見ているとどうやらレッサーバットの対処法を語っていた。
よりによって、ここでやらなくてもいいのに…。
その大学生くらいの配信系探索者が言うには素人では突きは悪手だからなるべく武器で払うようにとかよく見て武器を振ろうとか言っていたがなんだか、う〜ん。
レッサーバット2匹を仕留めると再び、進み始めた。その際にも注意を怠らないようにとか言っていたのでイタズラ心で彼の足下に落とし穴(30cm)をタイミングよく発動させる。
すると見事に彼は転けて、カメラに向かって赤い顔で苦笑いしながら注意を怠るとこうなるので気をつけようと締めくくった。
うん。マジごめん。悪気しかなかったけど、今の罠発動でどうやらレベルが上がったみたいだ。
彼には悪いことをしたけど、おかげでレベルが上がりました。
今度、覚えてたら配信探して見てみようと思うので許してください。
ただ配信しながらの探索で彼の進みが遅いので今日はここまでとした。
その後、彼の配信はまだ見ていない。
 




