1/15

１話

　ダンジョン歴フェイズ３期

　ダンジョンがこの世界に発生して、約５０年。

　ダンジョンの発生と同時に未知なる怪物達が放たれ、それまで世界に存在していた国は４分の１まで数を減らした。

　世界は停滞と混迷を極めるかと思われたが弱小国家や中堅国家は併合を繰り返し、また大国に飲み込まれることで安定を得て、人類は仮初めの平穏を取り戻すことに成功した。

　我らが日本は人口の半分近くを失うことにはなったが他国に吸収されることもなく、世界一とも言える災害に対する経験は政府の迅速な対応と国民·企業の努力によって、どの国よりも早く復興を遂げた。

　何処よりも安定した国家運営は大きなアドバンテージを生み出し、今では魔導工学という革新的な技術の先駆者として世界をリードする地位を確立している。

　そして、ダンジョンから得られる素材などは新たなるエネルギー資源として活用され、社会の基盤や国民生活の一部を支える大事な資源となっていた。

　そんな資源を確保するべく、新たに生まれた職業こそ、迷宮探索者。

　未知なる怪物を倒し、未知なる迷宮を彷徨う。最も危険で最も稼げるこの仕事に憧れ、探索者（シーカー）となる者は多い。

　かく言う俺も今年で１６歳。晴れて探索者（シーカー）の資格を得ることが出来る年齢となり、友人達と共に探索者（シーカー）資格を取得した。

　一つ友人達と違うところは俺だけが非戦闘職の道具（アイテム）士であり、共に試験を受けに行った友人達は皆、戦闘職を選択したことだろう。

　フェイズ３期に移行し現在、最初に選べる探索者（シーカー）の職業で解っているのは基本４種類の職業がある。例外もあるが…今回は記載しない。

　まずは５人中２人の友人達が選択した《戦士（ウォーリアー）》。

　《戦士（ウォーリアー）》はその名の通り、武器を使い接近戦を行う職業だ。友人達の中で運動神経に自信がある２人が選択し、扱う武器やレベルアップによっては剣士や槍士、日本人固有の職業《侍》といった感じに枝分かれしていく。　

　ちなみに海外だと普通に盾を片手に拳銃や機関銃を主武装として使用する探索者（シーカー）がほとんどを占めており、《盾銃士（シールドガンマン）》が主要な職業らしい。

　日本では未だに銃に対する規制が厳しく、銃の使用が許可されているのは自衛隊か警察官くらいしかおらず自ずと《銃士（ガンマン）》系の職業になれる者は限られている。

　なので日本のほとんどの探索者（シーカー）達は近接戦闘用武器を使用するしかなく、その為か動画を見た海外勢の探索者達からは国を含めて変態（クレイジー）扱いされることが多い。

　何はともあれ、前線を担う《戦士（ウォーリアー）》は探索者（シーカー）において、最も重要視されている職業のひとつだ。

　次に１人が選択したのは《斥候（スカウト）》。索敵をメインに戦闘では小回りや速度で敵を撹乱したりと火力は低いがパーティーの生存率に関わる重要な職業だ。

　レベルが上がれば、日本人固有の職業《忍者》にもなれるとあって海外勢からは羨ましがられているらしい。

　そして、次に１人が選択したのは《魔術士（ソーサラー）》。

　《魔術士（ソーサラー）》は探索者（シーカー）という職業が出来て以来、色褪せることのない華形職業とされている。

　アニメや漫画のように華麗に魔術を操り、怪物を倒すことが求められるが実際に魔術を使いこなせる者は僅かで魔術の才能がない者には正直ネタにしかならないと言われているが《魔術士（ソーサラー）》を選ぶ者は後を絶たない。

　しかも魔術巻物（スクロール）をダンジョンで獲得するか魔具店やオークションで高値で購入し使用しないと属性魔術が使えないという兎に角、お金が掛かる職業だ。

　資金が潤沢ならば、最初から大活躍間違いなしなのだがほとんどの者は淡い期待を胸に抱いたまま、フェードアウトしていく。

　俺に言わせれば、一昔前の冴えないバンドマンの様な存在だ。

　さて、最後に残るは俺の選択した《道具（アイテム）士》。

　探索者（シーカー）の資格を得た者なら誰でも成ることができ、全職業中で最も弱い（能力の上昇値が最も低い）とされる職業だ。しかし、この道具（アイテム）士を選ぶと固有の技能（スキル）が発現する。

　それはズバリ！『アイテムボックス』！！勿論、自身が持ち上げることが出来る物だけという制限はあるが便利なことに変わりない。

　戦士や斥候や魔術士には固有の技能（スキル）は確認されていない。剣術スキルや索敵スキルや無属性魔術スキルは存在するが汎用技能（スキル）として確認されており、戦士・魔術士はこれらの技能（スキル）を発現させるところから始める必要がある。

　それに対して道具（アイテム）士は成った瞬間から固有技能（ジョブスキル）が発現する。

　うちの家は両親が魔具店を経営していることもあって、跡を継ぐ為に迷いなく道具（アイテム）士を選択した。

　職業は一度選ぶと変更することが出来ない。だがこの選択に後悔はない。しかし、いざ！ステータスオープンと唱えてみれば、俺のステータスがどうもおかしい。

【名前】　藤(ふじ)　颯夜（そうや)

【順位（ランキング）】―

【職業(ジョブ)】　道具（アイテム）士

レベル:1　　0Ｐ

筋力:12

体力:13

魔力:3

精神:15

耐性:8

器用:18

敏捷:11

幸運:80

【技能(スキル)】

【固有技能（ジョブスキル）】

　アイテムボックスＬv:1

【特異技能（ユニークスキル）】

　物置きＬv:1

　道具（アイテム）士を選ぶと幸運値が大きく上がる事は世間的に良く知られている。

　戦士なら筋力、斥候は敏捷、魔術士は魔力が上がる。

　探索者（シーカー）登録が出来る様になる１６歳の平均値は１０前後と言われていることを考えれば、平均よりやや上と言ったところか…。

　問題は技能（スキル）欄。

　汎用の技能（スキル）欄には何もない。固有技能（ジョブスキル）欄にはしっかりと『アイテムボックス』がある。問題はその下だ。

　特異技能（ユニークスキル）。時に探索者界隈で神の如く扱われ、時には腫れ物扱いされる。

　俺の『物置き』は《道具（アイテム）士》以外だったなら前者よりの扱いを受けただろうが残念ながらアイテムボックスとほぼ丸被りしている時点で後者よりの扱いになるだろう。

　とりあえず、みんなには黙っておくか・・・。