空洞
中東のとある地方、石油の採掘中に偶然大きな空洞が発見され、石油会社は高名な学者たちで編成された調査隊を派遣した。
注意深く縄梯子を伝って空洞の底に降り立った彼らは、その空洞がかなり大規模であること、地面を埋め尽くすかのように、大小様々な生物の風化した死骸や、枯れ果てた樹木が無数に散乱していることを知る。1番目を引くのは遠景でもそれとわかる2本の枯れた巨木であり、それらは兄弟のように並んで数百の枝を空洞内に張り巡らしていた。
巨木を目指して更に奥へ進む調査隊は、その木の元に、かつて地底湖だったと思われる巨大な穴を見つける。
学者たちはその異様さに息を飲んだ。
これまでに見てきた生物たちと同じ姿をした多数の死骸が、穴の縁から這い出る途中で力尽きたように倒れ込んでいる。そして、穴の中心には何かの大きな塊がうずくまるようにあった。
暗視スコープで拡大して見ると、それは魚類から哺乳類までのありとあらゆる生物の死骸が一体に混ざりあい、各々の異なる身体が融合しているようなもので、穴の縁にいる生物たちはその塊から分離して這い上がってきたように見える。
「あのぐちゃぐちゃの塊は何だ?ここは一体どういうところなんだ?」
激しく動揺する調査隊の隊長や学者たちの中で、1人の新進気鋭の若手学者がやれやれと言いたげに溜め息を吐いた。
「これだけ色々見てきて、まだわからないんですか?」
その言葉に反発した隊長が彼に詰問する。
「君にはこの空洞が何かわかっているのか?」
「わかりますよ。皆さんだって知っているはずです。それこそ、子どもの頃から知っていた」
「勿体ぶらずに言いたまえ、ここはなんなんだ!」
「かつてここは雑多な生物と植物で満たされていたようです。そして、この空洞の中心と思われる場所にある2つの巨木。これはおそらく知恵の樹と生命の樹です」
そこまで言われた隊長は言葉を震わせた。
「ま、まさかここは……」
若手学者は頷く。
「そう、ここがエデンの園です」