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1 亡国の姫から魔法師団長の妻になる


 本当のわたしは決して愛されない。

 だから真実は一生隠し通さないといけない。


 決意を新たに、右手の小指に巻きついたヘビのような指輪を左手で握りこむ。


「ノア様、お綺麗きれいですよ」

「ありがとう」


 準備を整えてくれた付き人たちに笑顔で応える。

 立場的なお世辞ではないだろう。今の自分は、客観的にもキレイな花嫁だ。


 顔立ちは整ってエルフに似ている。ほどよく背は高く、胸や臀部でんぶはふくらんでいて、腰や手足は細い。

 理想を絵に描いたかのような姿をしている。


 純白のドレスに、これでもかという宝飾。国だったもの(・・・・・)の威信をかけているかのようだ。

 自分もこの宝飾品のひとつに過ぎないのだろう。


 きらびやかな式場に足を踏み入れる。


 隣に立つ旦那様は、前に遠目で見た時と同じように、長い銀色の髪が流れてキレイだ。その時と同じように、仮面舞踏会マスカレードで使うような豪華な金色の仮面で顔の上半分を隠している。


「シルヴァン様はお式でも仮面を取られないのね」

「取れないのでしょう。昔大怪我をされて、見せられたものではないらしいもの」


「またてい(・・)のいい人質でしょう?」

「王子様方はもう人質を取り終えて(ごけっこんされて)いるから、魔法師団長のシルヴァン様に回ってきたのですって」

「シルヴァン様のドゥ・オージェンタム家は公爵家筆頭ですものねえ。これからは他の公爵家にも回るのかしら」

「でしょうね。国王様はいったいどこまで国土を広げるおつもりなのかしら」

「シルヴァン様が世界最強の魔法師でなくなるまでかしらねえ」


 本人たちは声をひそめていたつもりなのだろうけれど、内容までしっかり聞き取れていた。自分は生まれつき耳がいいらしい。


(まあ、ていのいい人質(そのとおり)なのよね)

 祖国はこの国に戦争で負けて、一領地になったのだ。

 この国は征服国の王族を殺す代わりに、婚姻関係を結ぶことで内側に取り込む政策をとっている。

 唯一の女の子、姫だった自分が嫁がされるのは当然の流れだった。


 戦争という言葉は正確ではないかもしれない。

 ある日、空に1人の魔法師が飛んできた。そして、声を大きくする魔法でこう言われたのだ。


「今から私の力を示します。この地を更地にされて占領されるのと、平和的に我が国にくだるのと、どうぞお好きな方をお選びください」


 内容からは想像できないくらい、静かで落ち着いた響きだった。

 注目を集めた彼は、魔物の領域にある山をひとつ消し飛ばした。


 自分が前に彼を見たのはその時だ。

 対抗できる実力を持った魔法師なんていなかったから、自国はすぐに降伏した。


 式を終えてひと息ついてから、夕食の席で旦那様シルヴァンから尋ねられた。


貴女あなたは私を恨んでいるでしょうね。祖国を滅ぼした男に嫁がされるとは思わなかったでしょう」

「わたしがシルヴァン様を、ですか? それは、いいえ、まったく」

「まったく?」


「はい。感謝こそすれ、恨む理由はありません。

 わたしは生まれながらに国の道具として育てられました。もしあの時にあなたが現れなかったら、隣国の老いたヒキガエルに嫁がされる予定でした」

「老いたヒキガエル……」


 記憶を辿ったようなシルヴァンが、ぷっと小さく吹きだす。

(あ、かわいい)

 もっと無表情な人かと思っていた。


「待ってください。私のイメージが間違っていなければ、その方はだいぶご高齢な上に、何人もきさきがいますよね?」

「はい。私は5人目ですね。なんでも、前のお妃様が30代になられて、もう女ではないから若い妃がほしいのだとか」

「それはまた……、世界中の女性を敵に回しそうな物言いですね」


「この国の方が力を持っているおかげで、せめて近い年代の方の正妻になれたので。シルヴァン様とこの国には感謝しています」


 シルヴァン様が仮面の奥の目を軽く伏せて、水で口を湿らせてから続ける。


「祖国への思い入れは?」


「一国でなくなったことにまったく思うところがないわけではありませんが。アウラムの名は領地の名として残してもらっていますし、何より、占領後の方が国民の笑顔が増えたので。

 国とは国民の生活のためにあるべきではないかと常々思っていたけれど、父も長兄もあまりそのようではありませんでした。

 次兄と私はよく変装して2人で城を抜けだして街を見て、いろいろと話していたのだけど、私たちには国政への発言権がありませんでした」


「なるほど? ご家族は他には?」

「母がいます」

「ご母堂はなんと?」

「? 母ですか? 父と長兄に従えと。それが女性として当たり前だと教えられています。

 なんというか……、この席にわたしがつかせてもらったことに驚きました。女は使用人とともに格下の部屋で食べるものではないのですか?」


 シルヴァン様が驚いたように目をまたたく。

「……あなたの国では、そうだったのですね」

「ここでは……、違うのですね」


 旦那様と向かいあって同じ温かいものを食べる。そんな生活は想像したこともなかった。

 ぽろりとこぼれた涙に気づかれないように、ナプキンで軽く口を抑えながら目元をぬぐう。

 心の奥にあるものがあふれないように、意図して話を変える。


「あの、お尋ねしてもいいでしょうか」

「はい。私に答えられることならなんなりと」

「シルヴァン様は、なぜ他国を滅ぼすのですか? 戦うことがお好きなようには見えないのに」


「好戦的には見えないということなら、そうですね。私は戦いは嫌いです」

「なら、なぜ?」

「私が戦っているのは、他国ではありません」

(?)

 仮面の奥の瞳が真剣に見つめてくる。


「私が滅ぼしたいのは、『奴隷制』です」


 すとんと、心に落ちた感覚があった。


(あ、わたし……、この人すごく好きかも)


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