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趣味はおかしい作りです

作者: 村崎羯諦

「あ、いえ。お菓子ではなくて、おかしいです。私、家でおかしいものを作るのが趣味なんです」


 とあるホテルのラウンジ。おかしいではなくて、お菓子の書き間違いですよね? 結婚相談所で紹介された菱田友理恵さんは、私の質問に対してそう答えてくれた。


「すみません、おかしい作りが趣味という方は初めてだったので勘違いしてました。ちなみになんですが、どういうものをお作りになっているんですか?」

「今ちょうど持ってきているものでは……例えばこのリップクリームです」


 菱田さんがバッグの中からリップクリームを取り出し、手渡してくれる。私は手に取って、確認してみるが特におかしいところはない。中を開いてみてもいいですよ、と菱田さんが言うので、お言葉に甘えて中身についても確認してみる。中身は普通のリップだったが、それを外に出そうとしたタイミングで違和感に気がつく。


「おかしいですね。こういうリップクリームって、下の部分を時計回りに回すと中身が出るのに、これは逆に回さないと中身が出ない」


 私が指摘すると、菱田さんは嬉しそうに正解ですと言ってくれた。わざわざ逆回転になるような容器を自作して、お店で売ってるリップクリームの中身を移し替えたらしい。変わった人だなと思いながらも、他にはどんなものがありますかと聞いてみる。すると、菱田さんは次々と趣味で作ったものを紹介してくれる。


「このハンカチも私が一から作ったものです」

「おかしいですね。普通ハンカチは正方形なのに、縦横でちょっとだけ長さが違うような気がします」

「私が今着ているカーディガンも買ったものにちょっと手を加えて、おかしくしています」

「おかしいですね。前を止めるボタンの数が、左右で違っています」

「テレビのリモコンも作りました。中の仕組みを理解する必要があるので大変でした」

「えーっと……。ああ、テレビのチャンネルの3だけが漢数字になってますね」


 そこから私たちは菱田さんの趣味の話で盛り上がった。菱田さんは確かに変わった趣味を持っているが、全体的に穏やかで、細かな心配りもできる素敵な女性だった。会話が一段落した後、私は結婚相談所で彼女のことを紹介された時のことを思い出し、ふとある違和感を覚える。


「おかしいですね。相談所の方から菱田さんはお見合いが何度も失敗しているとこっそり教えてもらってたんです。菱田さんはとても素敵な方ですぐにお相手が見つかりそうなのに、どうしてですか?」


 すると菱田さんは恥ずかしそうに教えてくれる。


「先ほどお見せした趣味を理解してくれる方を探しているんですが、なかなか見つからなくて……。私の作品を見て、おかしいと気がついてくれるんですがそれがストレスになってしまう方や、そもそも何がおかしいかに全然気が付かない方が大半なんです。わがままかもしれないんですが、結婚するなら、おかしさに気がついてくれつつも、それを広い心で受け止めてくれる方がいいなと思っているんです」


 私はその理由に納得し、頷いた。


「その意味では、奥田さんは今までお会いしてきた男性の中では初めて趣味を受け止めてくれる人な気がします」

「そう言っていただけて私も光栄です。実は私もこうしてお話ししていて、菱田さんのことをとても素敵な女性だなと思っていたんです」


 私たちは見つめ合い、まるで少年少女のように初々しい照れ笑いを浮かべ合う。そして、お見合い後、私はすぐさま結婚相談所に対して真剣交際の希望届を出した。菱田さんも同じように真剣交際を希望したらしく、そのまま私たちは結婚を前提にお付き合いすることになった。


 それから私たちは仲を深めあい、お見合いからちょうど一年後に結婚することになった。さらにその一年後には妊娠が発覚し、私は幸せの絶頂にいた。


 そして、出産の時。私が待機室でそわそわと待っていると、分娩室から元気な赤ちゃんの産声が聞こえてきた。分娩室から助産師が出てきて、元気な男の子が生まれましたよと教えてくれる。


「お子さんのお顔を見てみますか?」


 私ははやる気持ちを抑えながら分娩室へ入っていく。出産で体力を使い果たした妻へ感謝の言葉を投げかけ、私は我が子と対面する。


「おかしいな。私も妻も純粋な日本人のはずなのに、この子は髪が金色で瞳が青色だ」


 だけど、こうした違和感はいつものことだったので、私は特に気にしないことにした。

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