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『ブチ切れた公爵令嬢、勢いで悪魔を召喚してしまう』SS置き場  作者: 優木凛々
番外編:コミカライズ連載開始!記念SS
9/10

【9月5日 コミカライズ開始記念SS】エルミナスの波乱万丈な400年(4/5)

 

「あ、悪魔が帰ってきました!」

「なっ! 本当か!?」

「は、はい! ち、血だらけの人を連れて……」



 会場は騒然となった。

 人々は動揺したように一体何が起こったのか、と囁き合う。


 そして、そんな中――



「ここにいたのか」



 入口から、よく通る声が響いてきた。


 人々は自然とピタリと口を閉じた。

 声の方向に目を向ける。



「……っ!」



 そこには、読めない微笑を浮かべた悪魔が立っていた。

 手には何かを紐のようなものを持っている。


 彼は、エルミナスを見ると、薄く微笑んだ。

 綱を持っている方の手を軽く振る。



 ドサッ



 謁見の間の中央に、綱の先にぐるぐる巻きにされた2人の人物が放り出された。

 1人は立派な服を着た中年の人族、もう1人は漆黒の髪の美丈夫。

 両者とも目をつぶって気絶している。



「なっ!」



 謁見の間にいた人々の顔色が一気に青くなる。



「こ、これは……?」



 エルミナスが戸惑いの目で悪魔を見ると、悪魔が読めない笑みを浮かべた。



「人間側の召喚者と悪魔だ」

「…………は?」

「転移陣もここに戻る1つを除いて破壊してきた。人族が攻めてくることはない」



 謁見の間が騒然となった。

 宰相が、騎士の1人に「今の話、裏をとってこい!」と大声で命令する。


 そんな中、悪魔が微笑みながら呆気にとられるエルミナスの正面に立った。

 妖艶な赤い瞳で彼を見る。



「契約は達成された。報酬の時間だ」



 その言葉を聞いて、エルミナスは悟った。

 とうとう死ぬ時が来たのだ、と。


 彼はゆっくり立ち上がると、まっすぐ悪魔を見据えた。



「本当に、もう攻め込んでくることはないのだな?」

「ああ、国そのものを滅ぼして来たからな。攻め込んでくることはありえない」

「そうか……、それならばいい」



 エルミナスは、首を垂れた。

 もう思い残すことはない、と目をつぶる。



(さあ、一思いにやれ!)



 その様子に、謁見の間がシンと静まり返った。

 固唾を飲んでその様子を見守る。


 しかし、悪魔はそんな彼らを一瞥すると、クスクスと笑った。

 エルミナスの耳元に口を寄せると、囁く。



「悪いが、私は美食家なんだ。今のお前は趣味に合わない」

「…………は?」



 エルミナスが思わず顔を上げると、悪魔が口角を上げた。



「だから、美味くなるまで寝かしておいてやる」

「え?」

「どうやら、美味くなる素質はあるようだからな」



 悪魔の言葉に、エルミナスは混乱した。

 一体どういうことか問いかけようとした、そのとき――――



「……っ!!!!」



 突然、床に光る陣が浮かび上がった。


 研究者が「あれは帰還陣!」と驚愕を声を上げる。


 悪魔は、気絶した悪魔を抱えると、魔法陣の中に入った。

 光と風に包まれながら、エルミナスに向かってニヤリと笑った。



「また来る」



 そう口を動かすと、まばゆいばかりの光のへと入っていく。


 そのあまりの眩しさに、謁見の間にいた全てのエルフたちが目をつぶって手で顔を覆う。



 ――――そして、気が付くと、荒れた部屋の中には、呆然としたエルフたちと、ぐるぐる巻きにされた人族がいるのみで、魔法陣も悪魔の姿もどこにもなかった。




 *



 悪魔が消えてから、すぐさま調査が行われた。

 彼が言ったことが本当かが念入りに調べられる。



 その結果――――



「どうやら、悪魔の言葉に偽りはなかったようですな」



 調査に向かったエルフによると、イラーリオ帝国の王城は破壊され、人っ子一人いなかったという。

 また、人族領の各地にある転移陣も、イラーリオの城の地下迷宮内にある転移陣を除き、全てが破壊されていたらしい。



「確かに、これでは人族は攻めて来られませんな」

「これを機に、人族との国交は断絶しましょう」



 そんな取り決めがされ、エルフ国には平和が訪れた。


 エルミナスは安堵した。

 国の危機が去ったことに加え、とりあえず死なずに済んだと思ったからだ。




(色々あったが、良かったな)



 しかし、彼にとってはここからが地獄だった。

 寝ても覚めても悪魔に怯える日々を送らなければならなくなってしまったからだ。


 悪魔が襲ってくる夢を見ては夜中に飛び起き、ちょっとした音にビクリとする。

 食欲も減退し、長い時間眠ることができないほど緊張した毎日を過ごすことになる。


 しかも、そんな怯える彼を、他の王族たちは見捨てにかかった。

 エルミナスがいると悪魔が来る可能性があると、彼を唯一残った魔法陣の番人として、人里から隔離して住まわせることに決定したのだ。



「国のためだと思って耐えてくれ」



 そう国王に済まなさそうに言われ、エルミナスは黙り込んだ。

 もう誰も信じられない、そう思ったからだ。



(俺は1人寂しく死んでいく運命なんだな)



 そう思いながら、いつ悪魔が来るか分からない恐怖の日々を過ごす。


 しかし、10年経っても20年経っても、悪魔はいっこうに現れなかった。

 100年、200年と過ぎても、まだ現れない。


 そして、遂に400年が経ち。研究者はエルミナスにこう言った。



「これだけ来ないとなると、もう件の悪魔は死んだのかもしれませんね」



 これを聞いて、エルミナスは、嬉しさのあまりむせび泣いた。

 もうこれで怯える生活をしなくて済むと思ったからだ。



「俺の人生はこれからだ!」



 そして、何の憂いもない明るい気持ちで絵の製作に没頭した。

 人生を取り戻したような気持ちになる。


 しかし。


 ある朝、大きな窓から朝靄に包まれる森をながめながら、

「今日も良い天気になりそうだな」と、湯気の立つお茶を飲もうとしていた、そのとき。



「……!!!!!!」



 突然襲ってきた、ドクン、という急に血液が逆流したような感覚に、彼は思わず持っていたティーカップを落とした。



 ガチャンッ



 ティーカップが見事2つに割れ、床に転がる。


 機械的にそれを拾い上げながら、エルミナスは胸を押さえた。

 心臓が早鐘のように打ち始める。



(…………まさか)



 恐る恐る手袋を取ると、そこにあったのは、青白く光る悪魔との契約印だった。






せっかく逃れたと思ったのに!


続きはまた明日投稿します。


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ぜひお読み頂けると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

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