表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブチ切れた公爵令嬢、勢いで悪魔を召喚してしまう  作者: 優木凛々
第1章 公爵令嬢、悪魔を召喚してしまう
5/46

05.学園へ


本日1話目です。

 

 夫人が、「では、後はまかせましたよ」と踊るように食堂を出て行ったあと。

 アイリーンは、優雅にコップに水を注ぐ悪魔を、ジト目で睨んだ。



「……あなた、何をしていらっしゃるの?」

「お嬢様のコップに水を入れております。喉がかわいているのではありませんか?」

「ええ、まあ」

「ではどうぞ」



 ありがとう、とアイリーンはコップを受け取って飲み干す。

 そして、ハッとして、「ち、ちがいますわ!」と叫んで立ち上がった。



「なぜあなたがここにいるか聞いていますのよ!」

「なぜって、お嬢様が呼び出したのでしょう?」

「そ、それはそうですけど……」



 アイリーンが言い淀みながら、のろのろと椅子に座った。

 本当だったら、「お帰りになって!」と言いたいところだが、そんなことを言ったら、願い事をさっさと言え、と言われてしまうだろう。

 そして、何か願いを叶えてもらった瞬間、アイリーンの命は終わる。



(そ、それだけは何としてでも避けないと!)



 黙り込むアイリーンに、悪魔が微笑んだ。



「まずは、食事を済ませて下さい。その後、学園に行きましょう」

「……え?」

「夫人から聞きましたよ。家人を1人連れて行ってもいいそうですね」



 アイリーンが、再びガバッと立ち上がった。



「ちょっと待って! まさか、あなた付いてくるつもりですの!?」

「ええ、召喚者に付き添うのは当然のことかと」



 そんなのダメですわ! と言おうとするものの、アイリーンは口を噤んだ。


 夫人の様子は、明らかにおかしかった。

 絶対にこの悪魔が何かしたに違いない。

 こんな危ない悪魔を野放しにするなんて、危険過ぎる。



「わ、わかりましたわ……。でも、大丈夫なの? あなた目立つでしょう?」

「はい、人の目を誤魔化すのは得意ですから」



 悪魔が楽しげにうなずく。

 そして、アイリーンの食べている皿に目を留めると、不思議そうな顔をした。



「それは、何ですか?」

「これ? これは完全美容食よ。食べると美しくなれるの」

「そうですか……」



 悪魔が微妙な顔をする。


 アイリーンが尋ねた。



「ところで、あなたは何という名前なの?」

「名前は時代によって様々ですが、基本的に召喚者に付けて頂くことにしています」



 ふうん、とアイリーンが考え込んだ。

 悪魔さんとか呼びたいところだが、目立つし変だから、何か違うものにしよう。



「……カイン、とかどう?」



 悪くないですね、と悪魔が目を細めた。



「なにか由来があるのですか?」

「絵本の中に出てくる悪魔の名前よ。あなたにちょっと似ているの」



 小さい頃に童話で読んだ、悪魔を呼び出してしまう農民の話。

 わくわくどきどきしながら、何度も読んだ。



(あの時はまさか自分が呼び出してしまうなんて、夢にも思いませんでしたわね……)



 遠い目をするアイリーン。



 そして、食事を終えると、彼女は「準備をする」と1人自室に上がった。

 メイド2人に化粧と髪の毛を整えてもらう。


 おしろいを塗りたくられながら、アイリーンは、メイド2人をチラチラ見た。

 この2人は、あの悪魔のことを知っているのだろうか。



「新しく来た執事のこと、ご存知?」



 ええ、と2人が興奮気味にうなずいた。



「すごいカッコいいですよね! しかも、優しくて紳士です!」

「さすがは夫人が信頼することだけあります!」



(どうやら全面的に受け入れられているようね)



 アイリーンは身震いした。

 一体何をしたらこうなるのかと、空恐ろしくなる。


 そして、下に下りて行くと、カインが階段の横に立って待っていた。

 アイリーンを見て、一瞬驚いたような表情になる。



「お嬢様、そのお顔、どうされました?」

「普段通りよ? うちのメイドはお化粧が上手なの」



 得意げに言うと、そうですか、とカインが目を伏せる。




 その後、2人は向かい合って馬車に乗ると、学園に向かった。


 馬車の中で、アイリーンが、物珍しそうに外をながめるカインに尋ねた。



「……あなた、夫人に何をしたの?」


「なにも」と、カインが微笑んだ。


「少々お話をさせていただいただけですよ」



 アイリーンがジト目で彼を見た。



「あれが、お話しただけ、な訳がないでしょ!」

「本当ですよ。ずっと旅行をしたかったとおっしゃっていたので、今日から行ってみてはどうかとお勧めしました。ああ、大丈夫ですよ。心を操るなどの行為はしていませんから」



 やると壊れますし、とカインがにっこり笑う。


 美しく笑う悪魔を見て、アイリーンはため息をつきながら悟った。

 これはもう、何を言っても無駄そうですわね、と。




 *




 ため息をつくアイリーンをながめながら、カインは思った。

 単純なようでいて、なかなか謎の多い娘だな、と。


 彼は昨晩、この屋敷に到着した後、まずは屋敷中を見て回った。



(意外だな。ここは「公爵家」なのか)



 書類のあて先を見て、ここが公爵家であることを知り、彼は疑問になった。


 公爵家の娘であれば、婚約者の浮気相手など、どうにでもできるだろう。

 金を出して人を雇えば、あっという間に解決する。



(なぜ俺を呼び出したんだ?)



 悪魔を呼び出すということは、命を失うということだ。

 世界征服など、自分には絶対にできないことを叶える場合に、呼び出すことがほとんどだ。


 先ほどの話を聞いていて、てっきり上位貴族の娘を始末して欲しいのかと思ったが、

 彼女自身が公爵家となると、恐らく違う。



(分からんな)



 まさか勢いで呼び出されたとも思わず、首をひねる。



 その後、彼は、廊下で屋敷内の見回りをしている男性を捕まえた。

 話を聞き、「ナスティ夫人」という女がこの屋敷をし切っていることを突きとめる。


 そして、その部屋を訪問し、夫人が寝ているベッドのへりに座って名前を呼んだ。


 彼女は目を開けてカインを見るなり、驚愕の表情を浮かべた。



「ひ、ひい! だ、誰です!?」



 悪魔は、必死に叫ぶ夫人の目を、赤い瞳でジッと見つめた。



「俺が誰であろうと、どうでもいいだろう?」



 夫人の目がとろんとなる。



「……そう、ですね」



 その後は、この家のことを色々と聞き出した。


 アイリーンの両親は幼い息子2人と領地にこもっており、ほとんど帰って来ないこと。

 この屋敷では、アイリーンと使用人たちしかいないこと。

 ナスティ夫人が、屋敷とアイリーンの一切を仕切っていること。



「アイリーン様を立派な淑女に育てるのが私の役割です」



 と言うのを聞いて、カインは思った。

 こいつは邪魔そうだな、と。


 それで、何かやりたいことがないかを聞き出し、旅行に行くように薦めた、という次第だ。


 ちなみに、彼がやったのは、欲望を増幅させ、義務感や使命感などを弱めたことだ。

 無理矢理心を操ると人は壊れてしまうが、元々持っている欲望を大きくしたり、誘導するくらいなら、特に問題はない。


 その後、彼は執事という身分と服を手に入れ、アイリーンの前に現れた、という次第だ。




 *




 馬車に揺られながら、カインは疲れた表情で座っているアイリーンを見た。



(色々と謎はあるが、こっちも解せないな)



 彼が解せないと思っているのは、化粧だ。


 昨日見た時は、痩せすぎではあるものの、どちらかといえばおっとりとした、整った顔立ちの可愛らしい令嬢に見えた。

 しかし、今の姿は、それとはかなり違っていた。


 おしろいを厚く塗りたくられた肌に、濃く描かれた眉毛に長い睫毛。

 髪の毛も、つやつやの金髪から一転、くるくるに巻かれてドリルのような房が複数垂れている。


 何と言うか、すごく派手でキツそうだ。


 良い所を潰しているような様相に、カインは首をかしげた。

 これは流行なのだろうか。



 そう思っている間に、馬車は立派な門をくぐる。


 アイリーンがためいきをついた。



「着きましたわ。行きましょう。わたくしは公爵令嬢ですから、くれぐれも言動にはお気を付けになって」



 カインは、はい、とにっこり微笑みながら思った。



 300年振りの人間界だ。

 ここはせいぜい楽しむとしよう、と。






今日は夜にまた投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓5月30日書籍発売!『ブチ切れた公爵令嬢、勢いで悪魔を召喚してしまう』
お手に取って頂けると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

★各書店サイトはこちら★ 【Amazon】  【楽天ブックス】  【Book Worker】 
ie52c7gqa2qc87vji1om5l509wjf_jrc_f2_lk_7xlx.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ