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ブチ切れた公爵令嬢、勢いで悪魔を召喚してしまう  作者: 優木凛々
第1章 公爵令嬢、悪魔を召喚してしまう
3/46

03.悪魔、どうしようかと思案に暮れる


本日3話目です。


 涼しい顔をしている悪魔も、また内心困っていた。



(さて、これはどうしたものか)



 *



 アイリーンが、召喚陣を起動させる、少し前。

 人間界の隣に存在する、黒い空と大地が広がる悪魔界にて。


 彼は、宮殿(自宅)の屋上で、カウチに寝そべりながら、友人の大悪魔たちとカードゲームをしていた。


 上空は、黒々した雲に覆われた空で、

 ときおり現れる光る召喚陣(人間界への入口)に、若い悪魔たちが、我こそはと殺到しているのが見える。



「いやあ、若いねえ」

「そうだな。俺も昔はあんな感じだったな」



 そんな友人悪魔たちの会話を聞きながら、彼は欠伸をした。

 最近つまらんな、と軽くため息をつく。

 そして、ゴロリと横になって、空を見上げーー



(ん?)



 彼は真上に、小さな召喚陣がうっすら光っているのを見つけた。



(あれは、生贄なし、か)




 召喚陣の光の強さは、生贄によって決まる。

 生贄が多いほど収穫が多いため、強い光を放つ召喚陣ほど人気が高い。

 そして、こうした薄っすらとしか光らない召喚陣は収穫が少ないため、ほとんど人気がなかった。


 悪魔が寄り付かず、消えていく召喚陣。

 しかし、消えたと思ったらすぐにまた光り始める。


 寝転がって、何度もしつこく光る召喚陣をながめながら、悪魔は思った。

 あの召喚陣、ずいぶんがんばるな、と。


 そして、ボンヤリとそれをながめていると、突然、召喚陣から金切り声が聞こえてきた。



『出てきなさいよ! このわたくしが契約を結んで差し上げるって言っているのよ!!』



 悪魔は、興味をそそられた。

 向こうの声が聞こえてくるなんて、これは相当気合が入っている。



(……ちょっと行ってみるか)



 悪魔が立ち上がると、友人悪魔たちが彼を見上げた。



「どこへ行くんだ?」

「あそこだ。ちょっと行ってくる」



 うすぼんやり光る召喚陣を指差すと、友人悪魔の1人が吹き出した。



「おいおい、アレはやめとけ。どうせロクでもないぞ」

「つまんねーに決まってる」



 悪魔はニヤッと笑った。



「そうでもないと思うぞ。俺の勘が、あそこはかなり面白そうだと告げている」

「マジか」

「ああ、間違いない」



 そして、「そうか?」と首をかしげる友人悪魔たちに、「みやげ話を期待しとけ」と言い残すと、彼は上空に飛び立った。

 召喚陣に近づき、他に近づこうとしていた若い悪魔を切り裂いて、召喚陣に飛び込む。


 そして、300年振りに人間界に出てみたところ、目の前にポカンとした顔をしたアイリーンがいた、という次第だ。



 *



 彼は、アイリーンをながめた。

 金髪碧眼に白い肌。痩せすぎてはいるが、人間にしてはなかなか整っている。


 彼女は非常に怒っており、悪魔が事情を聞くと言うと、機関銃のごとくしゃべりはじめた。


 ふむふむ、と話を聞く悪魔。


 そして、5分ほど話を聞いて思った。

 なんじゃそりゃ、と。


 まず、願いがショボ過ぎる。


 この世の中にはルールが存在し、叶えた願いが大きいほど、刈り取れる魂の量が多い。

 こんな、恋人の浮気相手を何とかして欲しいなんて、せいぜい召喚者の魂が刈り取れるくらいだ。


 悪魔は思った。

 召喚されたのが俺じゃなかったら、この娘、怒った悪魔に一瞬で殺されてたな、と。



(しかも、この娘、びっくりするほどマズそうだ)



 大悪魔になったくらいなので、この悪魔はあらゆる人間の魂を食べてきている。

 量はもう必要ないので、質にこだわりたいところなのだが、アイリーンは実に美味しくなさそうだった。



(この魂の感じ、狂信者に近いな)



 自分の為に生きていない人間の魂は、苦みがある。

 アイリーンには、このタイプの人間の匂いがプンプンした。


 話し終わり、どこか苦悩するような表情を浮かべるアイリーンをながめながら、悪魔は考えた。


 300年振りに来て、ショボい願いを叶えてマズイ食事をするのは、かなり気が進まない。

 しかも、あんなに大見栄を張って出て来たのに、こんなので帰ったら友人たちに大笑いされる。

 まあ、笑い話にするのも悪くはないが、マズイ食事だけは避けたい。



(さて、どうしたものか……)



 考え込む2人の間に、不思議な沈黙が流れる。




 ――と、その時。

 悪魔の耳に、人が歩く音が聞こえてきた。犬か何かの足音も混ざっている。


 彼の様子が変わったことに気が付き、アイリーンが「なに?」という顔をする。


 悪魔が、シーッと口元に人差し指を当てると、小声で言った。



「……誰か、こちらに向かってくるな」

「え?」

「弓矢を持った男が三人、犬を二匹連れている」

「……森番ですわ」



 アイリーンが、困った顔をする。

 ここで見つかってはマズイ、そんなところだろう。


 その顔を見て、悪魔は思った。


 よく分からないが、この召喚主は、何か迷っているようだ。

 であれば、うまく誘導してみるのはどうだろうか。


 望みが小さすぎるなら、大きな望みを持たせればいいし、

 魂がマズいなら、美味しくなるように誘導すればいい。


 美味しい魂に必要なものは、「自分の人生に対する我儘さ」だ。

 堕落させてみてもいいかもしれない。


 自分の食べたいものを自分で調理するパターンだ。



(……まあ、時間もあるし、こういうパターンも悪くないか)



 そうと決まれば、騒ぎになる前にさっさとこの場を立ち去ろうと、悪魔は召喚陣から出た。

 アイリーンに近づき、ふわりと横抱きする。



「なっ!」



 アイリーンが驚きのあまり真っ赤になる。


 悪魔は微笑んだ。



「見つかったら困るのだろう? とりあえず、この場を出よう」






片や「勢いで悪魔を召喚してしまいましたわ! どうしましょう!」と悩む召喚者。

片や「願いはショボいし、魂はマズそうだし、300年振りでこれはちょっと」と考える悪魔。


何となく2人の利害が一致してしまった!


ということで、本日もう1話投稿します。



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