【5月30日書籍発売記念SS】アイリーン、試験で本気を出す(2/5)
本日5月30日に書籍発売! SS記念第2話です。
「わたくし、今回の試験は本気でがんばってみようと思うわ」
「なるほど、それはとても良いことですね」
大体の事情を察したらしい悪魔が、読めない顔でにこやかに笑う。
――この日の放課後。
学園内にある洒落たカフェの、空が見えるテラス席にて。
アイリーンは、いつものように、マーシャとリリイ共にアフタヌーンティーを楽しんでいた。
話題は、ロマンス小説についてだ。
マーシャが、目をキラキラと輝かせて身を乗り出した。
「そういえば、『氷の騎士と薔薇姫』、新刊が来月出るらしいですよ!」
アイリーンが上品に手を口に当てながら目を軽く見開いた。
「まあ! それは素晴らしい話ですわね」
「昨日聞きましたわ、私も本当に楽しみで……」
眼鏡のリリイがうっとりとした表情を浮かべる。
3人は新刊について話し始めた。
氷の騎士と薔薇姫が今度どうなるかについて楽しく予想し合う。
マーシャが、ふと何か思い出したように顔を曇らせると、残念そうにため息をついた。
「楽しみですけど、その前に試験があるんですよね……」
「そうでしたね……。私も忘れていましたわ」
リリイも憂鬱そうな顔をする。
マーシャが机に突っ伏した。
「私、王国史が苦手なんですよね……。暗記も嫌いだし、似たような名前ばっかりだし」
「私も苦手ですね……。年号と人の名前は一応覚えたりはするんですけど、論述となるとお手上げで」
そして、マーシャに「アイリーン様はどうやって勉強しているのですか?」と問われ、アイリーンは考え込んだ。
自分は一体どうやって勉強しているのだろうか、と思案に暮れる。
「……わたくしは、まず人の気持ちを想像して王国史を読むことにしていますわ」
「人の気持ち?」
「ええ。事件も戦争も“誰が怒ったのか”“誰が得をしたのか”を考えると、自然と順番や理由が頭に入ってくるの。 歴史を“覚えるもの”じゃなくて“読むもの”と捉える感じね。ひとつの物語みたいに」
マーシャが興味深そうな顔をした。
「その方法なら何とかなりそうな気がしますわ。アイリーン様、どうやってその勉強方法に行きついたのですか?」
「小さいころから歴史の本をたくさん読まされていたから、自然とこう考えるようになったのかもしれませんわ」
「……なるほどです。ちなみに、アイリーン様は、他に何が得意ですか?」
アイリーンは考え込んだ。
「そうね、王国法かしら」
「王国法!」
マーシャが目を輝かせてアイリーンの手をとった。
「アイリーン様! 一生のお願いです! 勉強を教えてください!」
「え? わたくし?」
「はい! お願いします! ちなみに私は経営学が得意なので、それならばお教えできると思います!」
「あ、できれば私もお願いします。私は文学なら得意ですわ」
リリイも小さく手を挙げる。
どうやら、2人はこの得意教科については上位10位以内に入るらしい。
「もちろん無理だったら遠慮なく断って下さい!」
と言いつつも懇願するようなマーシャの顔を見て、アイリーンは思った。
王子の試験対策として勉強を教えたことはあったが、友達と一緒に学び合うのは初めてだ。
きっと楽しいに違いない。
胸が暖かくなるような感覚を覚えつつ、彼女は貴族令嬢らしく微笑んだ。
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます! じゃあ、早速明日とかどうですか?」
「ええ、大丈夫よ」
「場所はここにしましょうか。それとも談話室にしましょうか」
にぎやかに相談する3人を、読めない笑顔を浮かべながら見守るカイン。
その後、3人は明日も同じ場所で集まることを決めると、カフェを出た。
降車場で、「ごきげんよう」と手を振り合って別れると、それぞれの馬車に乗り込む。
アイリーンも、カインと共に馬車に乗った。
窓から、夕方の雰囲気が漂う貴族街をぼんやりとながめる。
そんな彼女の様子を、カインが軽く口角を上げながら静かに見つめていた。
◇◇◇
その翌日から、アイリーン、マーシャ、リリイは一緒に勉強するようになった。
週に2回ほど、生徒会の仕事を早く終わらせてカフェや談話室に集まるのだ。
3人の得意科目が違うことで、勉強会は思いのほか充実したものになった。
マーシャの家は商売をしているせいか、彼女の経営に関する知識は非常に実践的だったし、
芸術一家出身のリリイの文学に関する知識も素晴らしかった。
1人でずっとがんばってきたアイリーンにとって、この体験は実に大きかった。
(こうやって、人は補い合っていくのね)
パーカーや家族に一方的に努力を求められた過去を思い出し、複雑な気持ちになるものの、楽しく勉強を進めていく。
――そして、試験まであと10日と迫ったある日。
本日発売!
4万字ほど加筆しておりまして、内容ももちろんグレードアップしておりますが、何といっても桜花舞先生の美麗な絵が最高!
ぜひお手にとって頂けると嬉しいです。(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこり