【9月5日 コミカライズ開始記念SS】エルミナスの波乱万丈な400年(5/5)
本日最終話です。
恐る恐る手袋を取ると、そこにあったのは、青白く光る悪魔との契約印だった。
「……っ!!!」
脳天をガツンとやられたようなショックがエルミナスを襲った。
契約印が光るということは、悪魔がすぐ近くにいるということだ。
「くそっ! 死んだんじゃなかったのか!」
エルミナスは頭を抱えた。
せっかく自由を満喫し始めたと思ったらこれだと絶望的な気持ちになる。
しかし、彼はすぐに顔を上げた。
こうなったら死ぬことは避けられないだろうが、せめて地獄のような400年を味合わせられた仕返しをしてやりたい。
彼は決意を込めて立ち上がると、部屋の入口に立てかけてあった剣をとった。
どうせ悪魔には敵わないだろうが、不意打ちをすれば一矢くらい報いることができるかもしれない。
「よし、やるぞ!」
彼は大きく息を吐くと、剣を持ってドアの向こうの森へと走り出した。
悪魔の姿を見つけ、大きく剣を振りかぶって切りかかる。
ガキンッ
悪魔は、涼しい顔でエルミナスの剣を受け止めた。
思い切り切りかかるも、軽くいなされる。
(くそっ! やはりダメか!)
絶望的な気持ちになるエルミナス。
――しかし、話は意外な方向に進んだ。
なんと、悪魔は新たな召喚者を連れて来ていたのだ。
「霧で見えにくいが、そこにいるのが今回の俺の召喚主だ」
「……は?」
エルミナスは呆気にとられた。
予想外過ぎる展開に、カインが自分を騙しているのではないかと思う。
しかし、新しい召喚者だというアイリーンという人族の若い女性を見て、彼は考えを改めた。
(……どうやら本当らしいな)
女性はとても容姿が整っていることに加え、とても育ちが良さそうだ。
自分を殺しに来たのではないと分かって安堵した反面、エルミナスは心底彼女に同情した。
(きっと、昔の俺のように誰かにそそのかされて悪魔召喚をしたのだろうな)
しかも、呼び出したのがよりにもよって、人をからかうのが大好きなこの悪魔だ。
過去の自分の経験から鑑みるに、彼女もさぞ苦労しているに違いない。
(崖の上から落とされるとか、朝起きたら木の上とか、色々やられているんだろうな)
しかし、家に招き入れて話をしているうちに、彼は気が付いた。
なんかこの二人、想像と違うぞ、と。
悪魔が信じられないくらい紳士なのだ。
彼女を常に気遣い、相変わらず読めない表情を浮かべてはいるものの、その目の奥はとても優しい。
常に、からかわれていた自分とは大違いだ。
彼女の方も全く警戒していないようで、悪魔を全面的に信頼し、甘える素振りすら見せている。
(……一体何なんだ、これは)
二人のやりとりや悪魔の優しげな視線を見て、エルミナスは思った。
俺は一体何を見せられているんだ、と。
「……まさか、生きているうちにあんなものが見られるとは思わなかったな」
エルミナスは珈琲を飲み干すと、正面にある二人が並んで座っていたソファを見た。
アイリーンは、自分が悪魔に惹かれていることに気が付いていないようだった。
きっとまさかと思っているのだろう。
悪魔の方は、自分の中で彼女が特別になりつつあることに気が付いてはいるが、そこに蓋をしているように見えた。
恐らく、二人にとって今の関係はとても心地良いものなのだろう。
(ただまあ、どう考えたって長くは続かないだろうな)
彼らの関係は、悪魔と召喚者だ。今の関係を維持するのは不可能だ。
この関係を壊さなければならない何かが起こったとき、二人は改めて自分の気持ちと向き合うことになるのだろう。
そして、それはきっと辛いものになる。
(……まあ、俺にできるのは、弟子の幸せを祈ることくらいか)
エルミナスはため息をつきながら立ち上がると、新しい珈琲を淹れるためにキッチンに向かった。
これにて記念SSは終わりです。
お読みいただきありがとうございました!(*'▽')
9月5日より”B's-LOG COMIC 2025年9月号 Vol.152”にてコミカライズの連載が開始されます!
カドコミとニコニコには9月11日に掲載されます!
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