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【5月30日書籍発売記念SS】アイリーン、試験で本気を出す(1/5)


5月30日に書籍発売! 記念SSです。(全5話)


内容としては、第2章の中間あたり。

悪魔カインと主人公アイリーンが無意識に仲良くなっていくあたりで起きたイベントです。

新しくできた友人、マーシャとリリイも登場します。


 それは、夏の気配が漂う、穏やかなお昼前のことだった。


 アイリーンは、いつも通りマホガニーの長机が並ぶ大きな教室で授業を受けていた。

 教室の後ろの壁際にはカインが立っており、その様子を静かに見つめている。


 そして、


 カーン、カーン


 授業が終わりのチャイムが鳴ると、教室の前方で講義をしていた眼鏡の中年の女性教師が、教科書をパタンと閉じた。


「今日はここまでにします。今日の内容は来月の試験に出るので、よく復習しておくように」

「はい、先生」


 生徒たちが一斉に返事をする。


 教室を出ていく教師の後姿を見送りながら、アイリーンは小さくため息をついた。

 そういえば来月は試験ね、と憂鬱な気分になる。


 昼食を食べようと食堂に向かう廊下で、彼女の後ろを歩いていた悪魔がそっと尋ねた。


「何やら浮かない顔をされていますね」

「……もしかして、顔に出てしまっているかしら」

「いえ、お顔はいつも通りです。ただ、そんな気がしただけです」


 アイリーンは内心苦笑いした。

 この悪魔は本当に鋭く、貴族として表情を出さないように訓練されている彼女の心の中を容易く見抜いてくる。


 彼女は軽く息をつくと、小さな声で囁いた。


「来月試験があると聞いて、憂鬱な気分になりましたの」

「おや、いつもお勉強されているではありませんか」

「ええ、勉強はしているわ。でも、試験前はやるべきことが山ほどあるのよ」


 悪魔に「やるべきこととは何ですか?」と尋ねられ、アイリーンは指を折りながらつぶやき始めた。


「まずは、試験対策ノート作りね。今回試験がある、王国史・王国法・算術・経営学・文学、の5教科全て作る必要があるわ。それから過去問と答えを入手して模擬試験を作るわ。これも5教科分ね」


 カインが訝しげな顔をした。


「大変なのは理解しましたが、なぜそのようなことをするのですか?」

「もちろん殿下にお教えするためよ」

「殿下に、ですか」


「ええ、そうよ」とうなずいて、アイリーンは、はたと思い出した。

 そういえば、今回の試験に殿下はいないわね、と。


(ずっとこうやってきたから、習慣になっていたのね)


 彼女はふと思った。

 もしかして、今回の試験は思い切りやれるのではないか、と。


 脳裏に浮かぶのは、王立学園に入学してから今までの試験についてだ。



 *



 約5年前。

 入学して最初の試験で、アイリーンは首位を取った。

 もともと勉強は嫌いではなかったし、ブライトン公爵家の一員として恥ずかしくない成績を取ろうと一生懸命勉強していたからだ。


 本来であれば、1位という成績は誇るべきものだが、アイリーンの場合はそうではなかった。

 この日、彼女は2人の人物から強い非難を受けた。


 1人目は、婚約者のパーカー王子だ。

 この試験で30位だった彼は、アイリーンを険しい顔で呼び出した。


「私よりも良い成績をとるとは、お前はなっていない」

「自分が良い成績を取るより、まずは私の成績を上げることが婚約者としてのお前の役割ではないのか」


 容赦のない嫌味を浴びせられ、アイリーンは意気消沈した


 そして、学園からの帰りの馬車の中で、今度はナスティ夫人に叱咤された。


「婚約者の殿下よりも良い成績を取って恥をかかせるなど、もっての他です!」

「これからは殿下よりも上の成績を取ったら許しませんよ!」


 こうして、次の試験から、アイリーンは自分のことは二の次でパーカー王子の試験成績を上げる努力を始めた。

 普段勉強してと言っても絶対にやらないので、要点のみをノートにまとめ、模擬試験を作り、なるべく効率よく勉強ができるように工夫した。

 この時の王子の実力を把握し、王子よりも確実に下の成績を取るように試験で手を抜いた。


 その甲斐あって王子は常に5位前後をキープし、アイリーンは20位くらいをキープしている。


 周囲から、「殿下の婚約者なのに、アイリーン様ってあまり頭が良くないのですね」と陰口をたたかれることもあったが、仕方ないことだと思っていた。



 しかし、今回は王子がいない。

 本気で試験を受けられる、最初で最後のチャンスかもしれない。


 そんなことを考えながら、アイリーンは明るい食堂に入った。

 挨拶をしてくる生徒たちに向かって軽く口角を上げて応えると、上位貴族用のテーブルに座る。


 そして、カインが持ってきたオムレツランチを美味しく食べ終わって上品に口元を拭くと、彼女はカインを見上げた。


「わたくし、今回の試験は本気でがんばってみようと思うわ」

「なるほど、それはとても良いことですね」


 大体の事情を察したらしい悪魔が、読めない顔でにこやかに笑う。



 ――この日の放課後。



明日発売の1巻ですが、4万字ほど加筆しております。

内容ももちろんグレードアップしておりますが、何といっても桜花舞先生の美麗な絵が最高!


ぜひお手にとって頂けると嬉しいです。(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこり

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