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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最後の食卓

怖い話がトラウマになる方は、決して読まないでください。


この物語は、フィクションです。

登場する団体、および人物は、実在しません。


この作品に影響されて、犯罪を模倣したとしても作者は、一切の責任を負いません。

三浦巡査部長は

万引きの通報を受けて

スーパーマーケットに

やって来た。


三浦は裏口から

建物に入る。


バックヤードの片隅に

スチール製の事務机と

その上にEOS端末が

1台ある。


その周りには

インスタントラーメンの

段ボール箱が

山積みにされている。


ジャガイモや玉葱の

カートンが

堆く重ねられて

あたりは雑然としている。


事務用の椅子に

少年が座っている。


頭を丸刈りにした

少年の年齢は

10歳くらいに見える。


三浦が少年と

目を合わせると

少年は暗く濁った眼付で

三浦を見返す。


腐った鰯のような

眼差しに

三浦は気分を悪くする。




三浦は、近くにいる店員に

声をかけて

店長を呼び出す。


万引きをした少年の名前は

佐藤保。


近所の児童養護施設で

暮らしている。


スナック菓子を握って

金を払わないで

堂々とレジの前を通り

店を出たところで

後ろから店長に

腕を掴まれた。


10歳の少年にしては

大胆な手口である。


常識的な考えを

以てすれば、こんな方法で

盗みができるのだろうかと

疑うが、佐藤少年は

実際にこの方法で

5回も万引きに

成功している。


万引きの常習犯である

佐藤少年は

この店でマークされていて

6回目の犯行に失敗して

店長に捕まり

警察に突き出された。


万引き犯が

警察と向き合った時には

だいたい泣き出して謝り

赦しを乞うものであるが

佐藤少年の場合は

三浦の質問に

淡々と答えていた。


児童養護施設から

保護者を名乗る者が

佐藤少年を迎えに来た時に

少年は

反省の態度を示さないで

また悪びれもせずに

保護者の後をついて

店を出た。


保護者と少年が店を出て

バックヤードの

扉が閉まると直ぐに

保護者が少年の頭を

思い切り引っ叩いた。


少年が保護者を

睨みつけると、保護者が

少年の肩を小突いた。


児童養護施設は

身寄りのない子供を

受け入れて

18歳になるまで育てる。


運営資金は

国が提供している。


佐藤少年の暮らす

児童養護施設では

園長による児童への

虐待が横行していた。



悪戯や規則違反を犯す

児童には

園長による容赦のない

肉体的精神的暴力が

日常的に行われていた。



若い職員の中には

児童への虐待を咎めて

止めさせようとする者も

いたが

年配の職員の圧力と

園長からの報復を恐れて

施設内での問題を

公にできなかった。



園長は、児童達を

木刀で殴り、衣服や手足を

鋏で斬りつけて

恐怖心により

園内を支配した。



園長の息子である副園長は

女子児童に対する性的虐待

暴行を繰り返していた。


身よりの無い子供達は

唯一の身近にいる

大人たちから抑圧されて

暴力を受け

逃げ出したくても

どこにも逃げ場の無い

弱みから

大人たちに

身を任せるしかなかった。


ある日、佐藤少年が

宿直室の前の廊下を

歩いていると扉が開いて

仲良くしている

お姉ちゃんが出てきた。


佐藤少年と目が合うと

下を向いて

足早に去っていった。


3歳年上のお姉ちゃんは

佐藤少年が6歳になり

この施設に入所した時から

少年の面倒を

良く見ていた。


そんな大好きな

お姉ちゃんが

副園長にされた行為を

思いながら、佐藤少年は

世の中と大人たちに対する

憎悪を

醸成させるのだった。


佐藤少年は

何度となく万引きを働いて

その度に

三浦の世話になった。


佐藤少年は、18歳になり

卒園を迎えることになると

地元の自動車工場への

就職を希望した。


施設は

素行の悪い佐藤少年の

就職の身元保証人に

なることを拒否した。


三浦は、佐藤少年を

補導した縁から

彼の身元保証人になった。


佐藤少年は

就職後1か月で

社員寮から逃げ出して

行方不明になった。


虐待の横行する施設で育ち

大人たちを信用しない

少年にとって

自動車工場の先輩や

上司から下される

一方的な命令は

施設の職員のそれと

変わりなく思えた。


佐藤少年は

希望を持って就職したが

施設を出ても抑圧される

環境に耐えられずに

失跡した。


一般家庭で育った

普通の子どもならば

我慢できる職場の指導でも

大人からの愛情を知らない

少年には

抑圧との区別が

つかなかった。



数か月後


佐藤少年は

歓楽街にいた。


街を徘徊する不良少女に

巧みに声をかけて

薬物をチラつかせて

誘惑する。


毒牙にはまった少女は

薬物とセックスの虜になり

やがて佐藤に

言われる通りに客を取る。


佐藤は

廃人になった少女を

街に捨てて

別の少女を物色する。


いつか佐藤本人も

薬物に溺れて

奈落の底へと続く

廃人への階段を

下りていく。


三浦巡査部長は

女子大生の拉致監禁事件を

担当していた。


女子大生拉致監禁事件の

容疑者は、数ヶ月前に

三浦が身元保証人を

引き受けた

18歳の少年だった。


三浦は、犯行現場の

アパートの一室に

突入した時に絶句した。


そこには体中に

刺し傷のある

女子大生の遺体と

薬物により朦朧としている

少年がいた。


不思議なことに

遺体から出血は無かった。


それより

三浦を驚愕させたのは

遺体の刺し傷の一つ一つに

火の付いた蝋燭が

刺さっていたことだ。


この日は、佐藤の19歳の

誕生日だった。


非人道的な施設で育った

佐藤には

今まで誕生日のお祝いを

してくれる人が

いなかった。


施設を出て

自分で金を稼いで

今は誰にも

抑圧されることがない。


佐藤は

自分の誕生日を祝うために

目の前に横たわる

美味そうなケーキに

蝋燭を立てた。


全裸で横たわり

体中に火の灯った蝋燭を

立てた女子大生に

三浦が近づくと

遺体がピクリと痙攣した。


女子大生に投与された

強力な薬物により

出血が止められたので

生きていたのだ。



被害者の女子大生は

傷が回復する前に

息を引き取った。


無理矢理投与された

薬物から醒めた時に

全身の激痛に耐えられず

ショック死したのだ。


犯行の残虐さにより少年は

家庭裁判所から

検察へ逆送された。




極めて残虐な猟奇的殺人を

犯した佐藤に

精神鑑定が実施された。 


佐藤の弁護士は

佐藤の生い立ちに

世間の同情を求めて

自動車工場での

佐藤の行動について

適応障害を主張した。


また、犯行当日の佐藤は

精神薄弱状態にあり

善悪の区別をつける

責任能力が無かったことを

主張した。


佐藤の刑事裁判の判決は

無罪になる可能性が

高かったのだが

佐藤の自動車工場への

就職の身元保証人になった

三浦の証言により

一転して有罪に傾いた。


佐藤は

自動車工場の独身寮から

失跡する直前まで

正常な判断能力を

有していたことを

三浦が証言したからだ。


佐藤の刑事裁判は

10年続いた。




判決は懲役15年。


元少年の更正の可能性と

社会復帰を願っての

情状酌量だった。


拘置所に

収監されている間の

10年が減刑されて佐藤は

34歳で出所した。


横須賀港第13埠頭


中国から輸入された

ドラム缶が数百個も

地べたに

平置きにされている。


ドラム缶の中身は

山菜や生姜などの

塩漬けだ。


錆びて朽ち果てた

ドラム缶が

我慢のならない

異臭を放っている。


これは

廃棄されるのではない。


食品会社の

在庫調整のために

出荷待ちを

させられているのだ。 


ドラム缶の群衆の中を

一人の中年男性が

顔をしかめて歩いている。




三浦巡査部長59歳は

娘の救出と

容疑者逮捕のために

ここへ来た。


三浦巡査部長が

逮捕しようとしているのは

15年前に

自分が逮捕した

女子大生拉致監禁事件の

犯人だ。


猟奇的殺人事件の犯人は

自分を捕まえた警察官に

恨みを抱いて、出所後に

三浦の娘をさらった。


三浦は

娘が監禁されている

倉庫の扉を

ゆっくりと開いた。


薄暗い倉庫の中に

容疑者がいた。


薬物により朦朧として

ヨダレを垂らして

ニヤついている。


地べたに

あぐらをかいている

容疑者の前には

金属製の食器がある。


食器には

生の肉片が乗っている。


テーブルに娘が

横たわっている。


二十歳になる

美しい娘の顔は

薄化粧をして

眉根に皺を寄せて

恍惚の表情を

浮かべている。


全裸で横たわる娘の

肋骨と臓器は

総て明らかにされている。


胴体前部の筋肉は

全て取り除かれて

テーブルの端に

一塊に寄せられている。


出血はしていない。


佐藤は、今度こそ

自分の精神異常を

三浦に認めさせるために

精一杯の

イマジネーションを

駆使して

犯行現場に装飾を施した。


三浦は懐から拳銃を抜いて

容疑者と娘の額を

撃ち抜いた。


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