ぼくとクローディアの秘密
ぼくの名前は綴 天地。小学生。
友達とYouTubeのおススメをしあったりする普通の小学生。うちは何故か年齢制限とか何も掛けられていないのだけど、クラスメイト達はいろいろ制限が掛かっているらしくておススメを教えるのに少し気を遣う。
今、クラスで流行っているのは怖い話。だけど、SCPとか、都市伝説とかは皆が見られない物があるから、動画を教えあうなら何種類か用意しないといけないんだ。
「だからさ、おばあちゃん。何か怖い話のおススメない?」
「んー、動画には詳しくないのだけどねぇ」
まぁ、お祖母ちゃんは本を読むのが多いからね。期待はしていない。でも『変な家』とか、動画の他に原作があるような物もあるから……
「私はねぇ、ゆっくりとかの、音声読み上げソフトを使った動画はあまり好きじゃないのよ。声が平坦で聞き取りにくいって思っちゃうの。それに動画で見る位なら文章で読みたいのだしね。怖いサイトなら箱庭じゃとか、赤い部屋とかいろいろあったけどflashの消滅と一緒に多くのサイトが消えたから」
「めっちゃ詳しいじゃん」
「読めれば何でも読むもの。紙にはこだわらないのよ」
お祖母ちゃん、部屋中の積み上げた本の量から、紙の書籍にこだわってるのかと思った。言われてみれば今持っているのもタブレットだ。電子書籍も読んでるの?
恐ろしい物を見る眼でお祖母ちゃんを見ていると、手元のタブレットで動画を検索して表示し始めた。
「これ、むかしの『みんなの歌』でやってた『メトロポリタンミュージアム』っていう曲なんだけど、多くの子供がトラウマになったとか怖いとか言ってるのよ」
「え、凄い怖いやつ? そういうのが欲しいんだけどちょっと怖いから一緒に見てもいい?」
「ちょっと待ってね、画面最大化するから」
お祖母ちゃんが表示させた画面には、歌に合わせてクレイアニメの女の子が踊っている。
「天使の像。うわ、ミイラ出て来た」
「この後よ」
「美術館でタイムトラベルって……うわ、閉じ込められた?」
「絵の中に閉じ込められた、っていうのが唐突で当時の子供たちは怖かったみたいね」
「今も怖いよ?」
歌の中では主人公と思われる女の子が最後に絵の中に閉じ込められていた。それもかなり唐突に。
「でも、考えてみて。『絵の中に閉じ込められた』って、どういう状況だと思う?」
「んー、なんか、特殊な力で封印されたとか」
「そんな能力バトルの要素、歌の中に出てきたかしら?」
「でてきてない」
「本の中に心を捕らわれた、だったらどう思う?」
お祖母ちゃんが言い方を変えてくる。
「あー、それだと……本当に閉じ込められたんじゃなくて、心残りとか、心をギュッと掴まれたとか、そういう意味?」
「そうそう。夢中になったっていう事の言い換えとも取れるわね」
「大好きな絵の中に。そうか、大好きだからそこに心を持って行かれたんだ」
「全体的にこのクレイアニメの色が暗いのと、その前にミイラとか出てくるからホラーだと思われたのかもしれないわね」
「あれ、じゃあ、怖い歌じゃ無くない?」
ボクがそういうと、おばあちゃんはにっこり笑って一冊の本を差し出した。髪の毛はドンドン黒くなり、五十歳くらいにまで若返っている。わくわくしすぎでしょ。
「『クローディアの秘密』この本がどうかしたの?」
「女の子が家出する話なのよ。家出したけど安全な屋内にいる為に、閉館後の美術館に入り込む事をたくらむの」
「もしかして、メトロポリタン美術館?」
「そう」
お祖母ちゃんが頭を撫でる。
「天使の像。トランペットのケースをトランク代わりに。そういう所も一緒。なぜならこの本をモチーフに作った曲らしいわ」
「へぇ。イメージソングみたいな物なのかな」
「この本を読むと、『絵の中に閉じ込められた』っていうのも感慨深いのよ。美術館の中でとある秘密に気が付いた子の選択の話よ」
「あ、その秘密っていうのはやっぱり美術館のなんだ」
「でもね、『クローディアと美術館の秘密』ではなくて『クローディアの秘密』っていうタイトルな理由、私は素敵だと思うの」
お祖母ちゃんはうっとりと表紙を撫でて、少し寂しそうな表情をする。吸字鬼であるお祖母ちゃんは一度読んだ本は二度目に読んでも心が動かないらしい。読み終わった本でも処分せずに家に溜め込んでいるのは、もう一度読みたい本だからなのだろう。読めなくてもボクや他の人に読ませて、感動を共有したいのだ。
「……タイトルの意味が読み終わった後でわかるやつ、ボク好きなの知ってるでしょ、そういう勧め方はずるいよ」
「天ちゃんの好きなツボはだいたいわかってますからね」
ニッコリと笑うお祖母ちゃんから本を受け取り、しばし読みふけった。
次の日学校に行って、怖い動画の話はあっという間にすっ飛ばされていた事に気が付いた。