第637話 夜の男子部屋にて
「どう考えたって、途中まで委員長が悪者だったじゃないか。何で俺が」
「僕には身に覚えが無いよ。さっぱりだ」
夜の男子部屋で俺は藍城委員長に抗議を入れるのだが、メガネをキラつかせた【聖騎士】様はあっさりとスルーする。
委員長で勇者キャラなんだから嘘とか苦手で真っ直ぐなのが定番なのに、政治家みたいな言い方をしないでほしい。いくら父親が山士幌の町長で、その背中を見て育ってきたからだとしてもだ。
結局夜の会談はミアと綿原さんが謎のテンションとなり、そこにタァンやら女子たちが悪乗っかりすることでお開きとなった。裁定を下したのは風紀委員な中宮さん。
宿から荷物を引き払って戻ってきたシロゥネとチャアトが、ケラケラと笑うタァンを見て驚いていたのが印象的だったな。
上杉さんたちが作ったサンドイッチを美味しそうに食べていたのも。
そこからは普段通りの練習風景をタァンたちに披露した。中でもミアや春さんの魔獣芸が大ウケ。
途中からシロゥネとチャアトも混じって魔獣ごっこを楽しんでいたようだし、そういう時間を作ったのは、まあ良かったんじゃないだろうか。
『タァンからもまだ話しておきたいことが残ってるから、また明日ね。……よっし、みんなの活躍も聞いておかないと』
楽しい時間も終わり、女子部屋に入っていくタァンは一度難しい顔をしてから、くるりと悪い笑顔に切り替えていた。表情を変えたタイミングでチラっと俺のことを見ていたけれど、嫌な予感しかしない。
まあ、タァンだけでなく俺たちにもインターバルは必要だ。ダンジョンやらなんやら、考える時間がいくらあっても足りないくらいの情報量だし。
ちなみに今日もティアさんとメーラさんは、こちらに気を使って個室だ。なんだかちょっと申し訳ない。
「八津、お前そろそろ綿原にさ──」
「そういうのは日本に戻ってからだろ」
余計な茶々を入れてくる恋愛脳な古韮に、俺は即座に釘を刺す。
仮にだ。あくまで仮にという前提で、もしも、万が一上手くいって、その、お付き合いをすることになったとしてもだ。現状の異世界事情を鑑みれば、二人きりでイチャコラどころかデートすらおぼつかない。藤永・深山ペアや野来・白石ペアを見ていたら一目瞭然じゃないか。
俺は迷宮委員として二人で頑張るくらいの距離感が気に入っているんだよ。
そもそも古韮は上杉さんにアクションすら起こしていないだろうに。なんか悔しいから口には出さないんだけどな。
「まあまあ、話を進めよう。僕たちは今までこの世界に召喚された理由は、迷宮の魔力異常で引き起こされた事故みたいなものだと考えていた。つまり、『たまたま』僕たち一年一組だった」
古韮と俺の会話を流した委員長が、人差し指を突き上げながら前提条件を語る。
さて、俺たちは今、男子部屋で夕方からのタァンとの会話を振り返っているところだ。決して恋バナが主題ではない。
もうすぐ日付も変わりそうな時間帯だけど寝ているヤツなんて……、夏樹だけか。妙なところで図太いんだよな。
「だけど、そうじゃない可能性が出てきた」
「地球側にダンジョンができて、しかも教室がポータルになっていたってタァンは言ってたな。偶然だと思うか?」
人差し指に続き中指を立てた委員長に、古韮が合いの手を入れていく。それでいいんだよ、それで。恋愛話は置いておいてさ。
「だけどさ、アラウド迷宮の『召喚の間』の魔力が減っていたのは本当でしょ?」
魔力量にかけては人一倍玄人な草間も会話に加わっていく。
そう、地球に現れたという『十勝ダンジョン』とやらのポータルが一年一組召喚の原因だとしても、こっち側の『召喚の間』だっておかしなことになっていたのは見逃せない。
迷宮の魔力が明確に減少する時は、俺たちの知る限りで大きな何かが起きてばかりだ。構造の変化や新種の登場というレベルの現象……。従来の魔獣の追加や俺たちが技能を使いまくっても、魔力の変化は観測できていない。
そして『召喚の間』の魔力は、シシルノさん曰く明確に減っていた。俺たちの召喚に合わせてだ。とてもじゃないが無視できることではない。
つまり、地球のダンジョンとこの世界の迷宮が結託して、俺たちを転移させた?
「この世界と地球……、もっと限定すれば『召喚の間』と『一年一組の教室』は、思った以上に『近い』んじゃないかな」
俺の内心を委員長が代弁する。さらに追加の仮説を乗せてという辺りがSFオタだよな。『近い』ときたか。
タァンからもたらされた地球側の情報は、俺たちがこの世界に飛ばされて以来、明確に提示された帰還に関する最大のヒントだ。
原因がアラウド迷宮だけだったとしたら、一方通行の可能性すら十分にあり得た。事実ここまでの迷宮活動で俺たちは強くなってはいるものの、帰還への鍵は影も形も見つけることができていない。
だが、地球側にもトリガーがあったとしたら、双方向の転移が現実的に思えてくる。
しかもだ──。
「俺は『ポータル』っていうのが気になった。要するに転移装置だよな。そのものじゃないか。地球のダンジョンが誤作動して、この世界に飛ばされたっていうのはどうかな」
俺の言葉に大半のメンバーが頷き返してくれた。誰でも思い付くことではあるけどな。
「考えてみたら『インベントリ』だって転移、どころか次元転移か。『ドロップアイテム』だって怪しいな」
オタ仲間の古韮はいち早く俺の思い付きに乗っかってくる。確かにインベントリなんていうのは如何にもだ。
「でも、シシルノさんが言ってたっすよね。この世界に『転移』に関する技能や魔術は無いって」
「こっち側だけのことだろ。地球側は何でもアリだし、そもそも迷宮だってまだまだ謎だらけだ」
「八津っちの【魔力観察】なんて、最たるものっすね。こっちから地球のダンジョンに手が届かないのがもどかしいっすよ」
藤永の指摘に俺は肩を竦める。確かに言う通りなんだよな。異世界から地球にアプローチする何かがあれば話も違ってくるのだけど。
仮に迷宮に答えが無かったとしても、探索を止めるという選択肢は無い。
アウローニヤやペルメッダ、加えてタァンたち魔族とは友好的な関係が築けているが、襲撃してきた聖法国と帝国が完全に手を引くと考えるのは温すぎる。
たとえこちらの迷宮でヒントを見つけることができなかったとしても、これからも強さを求めることは必須だ。
それに、二十階位くらいになったら【次元跳躍】なんていう技能が生えるかもしれないし。
「なあ委員長。やっぱりスワンプマンどうこうより、ダンジョンの方がずっと重要だったろ。普通に」
「いやまあ、あの話でタァンから違和感を感じたら、それはそれで──」
古韮や委員長も発言を重ねていく。
見ようによっては答えの存在しない無駄なやり取りかもしれないが、俺たち一年一組はずっとこうしてきた。
情報の共有と、思わぬところからの発見だってあり得るんだから。
俺はこんな時間をワリと気に入っている。
意味があるのか無いのかも不明なことを、各人がのんべんだらりと語り合う。そんな会話は悪くない。
「懸念もあるぞ。この話は全部が全部、淡崎……、タァンの前世の記憶頼りだ」
「あのタァンを見て、それを言うのか」
とはいえ、ベッドの上で難しい顔で腕を組んだ田村の発言はどうなんだろう。すかさず言い返したのは真っ先に突っかかりそうな佩丘ではなく、眉をひそめた馬那だった。
男子部屋に入ってからの佩丘は起きてはいるものの、目をつむって黙ったままなんだよな。
俺の勝手な印象だけど、こうなっている時の佩丘は心が乱れているのを表に出さないようにしている気がする。
「どこまで迷宮を信じるかって話だ。ダンジョンの部分が後付けされた記憶だとしたらどうする」
「本来の記憶に都合よく地球のダンジョンの情報を上乗せか。矛盾しないように整合を持たせてって、無理じゃないか?」
あまりに疑い深い田村に、古韮が呆れたように切り返す。タァンの記憶が正しいという前提に疑問を持つのは、まあわからなくもないが、それにしたってひねくれすぎじゃないだろうか。
いや、そういうことを口にする田村の存在も、確かにウチのクラスには必要な視点だとは思うけど。
「それでも否定し切れない可能性だ」
「だったらもっと前向きな可能性を探る方がマシだろう?」
「……そりゃまあ、そうだけどよ」
結果として古韮にしてやられた田村は、面白くなさそうに黙り込んだ。
実のところ俺はもう、淡崎佐和の化身を名乗るタァン・サワノサを疑ってはいない。正確には疑いたくない、かもしれないけれど。
彼女は俺たちがどんな反応をするのかに怯え、奉谷さんはそれを真正面から受け止めた。そして今頃、タァンたちは女子部屋で楽しく会話をしているのだろう。
そう、俺にとってはそれで十分だと思うんだ。屁理屈をこねている田村だって、心の一番奥ではタァンを信じているんじゃないだろうか。もちろんほかのメンバーも。
たとえどちらか片方が、もしかしたら両方がスワンプマンだったとしてもだ。
「敢えてなのかはわからないけど、タァンがボカしたことが二つある」
ちょっと白けた空気になった男子部屋に委員長の声が響いた。二つか。俺はひとつだったんだけど。
「ひとつは時間。何故タァンの転生が十五年前だったのか、彼女がそれを考察していないはずがない」
なるほど、気付かなかった。転生と転移で種族や場所も違っていたが、時間の差もあったか。ダンジョンネタに気を取られ過ぎていたな。
「もうひとつはタァンと一緒にダンジョンに入ったっていう友達……、だね」
「そっちは聞き難いな」
そして引っ掛かっていたもうひとつ、俺も気付いていた方は野来が言い難そうに口にしてくれた。それに対して馬那が唸る。
確かにタァンは言っていたんだ。高校での友人と『二人』でダンジョンに入って死んだ、と。
性別すら知らされていないその人物は、淡崎さんと同じトラップに落ちたのか、それとも無事だったのか。
もしもタァンだけが死んだのだとしたら、残された方もショックだろうな……。
「あ、それとだけど僕はさ、淡崎佐和って名前とタァン・サワノサが似てるのが気になってるんだよね」
みんながちょっと沈みかけたところで、野来から思わぬ発言が飛び出した。
普通に流していたけれど、確かに名前の近似は言われてみれば妙な符号を感じなくもない。面白い視点だな。
「友人の件は黙っておこう。それ以外の気になることは明日聞けばいいかな。彼女が話したくないことなら、それはそれで仕方がないだろうし──」
『そこで広志は言ったんデス!』
『なになにぃ?』
委員長のまとめを遮るように、壁の向こう側からミアとタァンの不穏な会話が聞こえてきた。何で俺の名前が出てくる。
タァンの声がやたらと弾んでいるのは良い傾向だとは思うのだけど、彼女って地球と異世界を合わせたら三十歳ってことになるんだが。これは魔族の特性なのか、それともラノベでありがちな肉体に精神が引っ張られたってヤツだろうか。
いや、今はそうじゃない。嫌な予感が脳だけでなく、体中を駆け巡っているんだ。
『黙って俺についてこい、って感じのコトをデス!』
「違うだろっ」
ツッコミが思わず声になった。
俺がいつそんな俺様系キャラになったのか、全く記憶に無い。それならまだタァンの怪我の方が薄っすらと憶えているくらいだ。
ミアめ、絶対俺をネタにして大袈裟なことを言っていやがるんだろう。綿原さんも何か反論すればいいものを。
『うん……、八津くんって……、凄く頼りに……。それに、拉致された時も……』
ミアのでっかい声とは違う、綿原さんの小さな言葉が途切れ途切れに漏れ聞こえてきて、男子部屋が静かになった。普段は聞き耳を立てるようなことはしないのだけど、この騒ぎだからなあ。
野郎共の耳が壁側に、そして視線は俺に集中している。何だこのいたたまれない状況は。不必要に睨むなよ、佩丘。さっきまで目を閉じて考え事にふけっていたじゃないか。
なあ、こういう展開はさっきで終わったはずだろ。天丼を仕掛けてきてどうする。
『わきゃんっ! 凪ってば顔真っ赤。どうしちゃったのさ!』
なんかタァンが興奮状態の犬みたいな声になっているけど、これなら視界の内側でサメが荒ぶっていた方がよほど気が楽だ。
『ねえ、このサメ? 何で暴れてるの? ちょっとっ、タァンにぶつけなくても。なんで頭が二つ!?』
『タァンはおれが守る』
『あはははっ』
本当に暴れてるのか……。
慌てているタァンにシロゥネとチャアトの声が被るけど、結果としては全員が楽しんでいるようにしか聞こえない。
「なあ、八津。やっぱり──」
「もういいよ、古韮。それは」
さっきと同じことを言い出そうとした古韮だけど、勘弁してくれ。
「なんか正直、どうでもよくなってきた。そろそろ寝ようぜ。いやぁ、八津の【安眠】が羨ましいな」
「そうだな。俺も取りたくなった」
呆れた風な海藤のシメに、寡黙な馬那が乗っかる。堅物な馬那までそういう態度を取るのかよ。確かにクラスメイトの全員に【安眠】は生えているけれど。
雰囲気に耐えかねた俺は意趣返しというワケではないが、昨日と違う意味で【安眠】を行使する。どれだけ素敵な夢を見たところで、現実は変わらないって理解していたとしてもだ。
◇◇◇
「みんながアラウド迷宮の入り口に呼ばれた時の様子、昨日聞かせてもらったんだけどね」
翌日、談話室でタァンはそう切り出した。
厭らしい顔をして俺を肘で突いてきたのがついさっきだというのに、まるで嘘みたいに真面目な語り口だ。
朝食中に聞いたところによれば、一年一組のこれまでの冒険については昨夜の内に女子たちから犬耳の三人に伝えられたのだとか。もちろんティアさんたちに隠している部分は漏らしていないそうだ。この辺りは公平じゃないとな。
未だに俺の耳にはガールズトークっぽい会話が残っている気がするのだが、女子部屋は随分と遅くまでお喋りの花が咲いていたようだ。
それに対し、タァンがこの世界に生まれてからの身の上話について、多くは語られなかったらしい。一緒にダンジョンに入ったという友人についてもだ。
仲間たちから聞いていた淡崎さんの人物像と昨日の態度からして、彼女が誠実な人であることは理解している。それなのに口をつぐんだということは……。
やはり、敢えてタァンは俺たちに伝えていないんだろう。
嘘つきということではなく、何かしらの事情があるとしか思えない。とすれば一番に想像できるのは魔王国や魔族の内部事情なんだよな。
俺は【魔力観察】でその一端を垣間見てしまった。消されたりしないことを祈るのみだけど、鼻に魔力を込めたシロゥネにはバレていそうで怖すぎる。
「服や鞄もそうだけど、みんなの座っていた椅子や机まで転移してるのが気になるんだよね」
内心で震える俺を他所に、タァンは軽い調子でセリフを続けた。
椅子と机か。ついでに教壇や鞄も俺たちと一緒に転移している。
鞄と制服やジャージはペルメッダに持ち込んで、今も隠し部屋に置いてあるけれど、机や椅子はアウローニヤに残したままだ。アヴェステラさんが保管を確約してくれたから、分解とかそういうことにはなっていないだろう。
「地球のダンジョン、ポータルではどうなんだ?」
難しい顔で腕を組んだ田村が鋭い質問をする。昨日の夜にタァンの記憶を疑っていたクセに、ここで情報を求めにいく辺りが田村らしい。
「ネットで調べた範囲だけで話すね。身に着けていたものは一緒にダンジョンの一層に飛ばされるんだけど、手を放していたら消えちゃうみたいなんだって。この辺りはいろいろ検証中だったらしいけど、タァンが知ってるのはそれくらい」
自分がダンジョンで死亡するまでの五日間を語るタァンに陰は無い。こっちの世界での十五年や、シロゥネとチャアトの存在が大きいんだろうな。
彼女の心については置いておいて、ここで重要な点はダンジョンで物が消えるってことだ。タイミングが違うとはいえ、この世界の迷宮と似ている現象ではある。
「委員長が言っていたみたいにみんながスワンプマンだとするとさ、余計なモノまで再現するのはどうかなって思うんだ」
「なるほど……」
「確かにそうかも」
タァンの説明を聞いたクラスメイトたちから、安堵とも喜びともつかない声が上がっていく。
消去からの再現ではなく、本当にただ『飛ばされた』だけっていう可能性か。
そもそも地球のダンジョンにあるポータルが分解と再生で転移を実現する仕様だとしたら、あっちの人たちはスワンプマンだらけってことにもなるし。
ただまあ、これはタァンなりの気休めっていう部分もある。それでも気遣いは嬉しいかな。
「じゃ、じゃあ……、タァンは?」
「タァンはタァン・サワノサだよ。それ以上でも以下でもないから」
どこか怯えたようにおずおずと尋ねた白石さんに対し、タァンは堂々と言ってのけた。
そんなタァンを見るシロゥネとチャアトの目はキラキラだ。自慢の姉ってところか。
やっぱりタァンは引きずっていない。俺たちとの再会で動揺はしたのだろうけど、これが普段の彼女なんだって思わせる目をしているんだ。
推定三十歳であることはさておき、小さい体に大きな覇気をまとった無邪気な存在。カッコいいよな。
◇◇◇
「また、会えるのかな」
「ちょっと忙しいんだよね。ペルマ=タに来る用事はあるけど、ひと月は先になるかな」
寂し気な春さんに、こちらもまた残念そうにするタァンが答える。
場所を食堂に移し、俺たちは昼食のホットドッグを食べているところだ。ウチの料理番たちが作ったものだが、オリジナルではない。ペルマ=タでは普通に屋台で売られているんだよな。
午前中はタァンたちとの何気ない会話で時間が過ぎていった。
地球での思い出は部外者が四人いるので控えめに、こっちの世界で起きた当たり障りのない内容がメイン。それでもタァンは楽しそうにしてくれたし、何ならチャアトとシロゥネも興味深げに耳をピクピクさせていた。
ちなみに前世と今で名前が似ているのは偶然で、十五年の差についてはわからないというのがタァンからの解答だ。はぐらかしかもしれないが、それを突き止める術はない。
地球を知らないメンツの一人になるティアさんは、時折俺たちとの迷宮行を自慢げに語ったりもしたが、魔王国への探りを入れるような発言はしていない。もちろんメーラさんは無言のまま。
ウチの悪役令嬢はワガママではあるけれど、そういう部分では気遣いがちゃんとしているんだよな。外交っていう側面もあるし。
もう少しで食事も終わる。そうしたらタァンたちともお別れだ。
本当だったらもっと踏み込んだ話をしてみたかったのだけど、どうにもタァンはその辺りをボカしたいような雰囲気がある。仕方がないか。ペルメッダと魔王国はお隣だし、今生の別れとは限らないのだし……。
「みんなの目標は山士幌に帰ることなんだよね? それは絶対に変わらない?」
最後のホットドックを呑み込んだタァンが、チラっとティアさんを見てから改めて切り出した。
「そうだよ。僕たちは、全員揃って故郷に戻る。たとえそれが百年後の地球でも、ダンジョンのせいで全てが変貌していても」
タァンの問いに委員長は全く怯まず、むしろ不敵な態度で答える。
百年後か。五日の違いがあってもほぼ同時に地球から姿を消した一年一組とタァンは、十五年という差をもってこの世界に出現した。つまり地球と異世界との『時間』は同期していない。むしろ逆転現象すら起こしているのだから。
委員長はその意味を理解しつつも、それでも言い切ったんだ。
ふと召喚初日、滝沢先生が帰還問答で草間に言ったセリフを思い出す。
『戻ってちゃんと家族に経緯を説明して、その上でこちらの世界にもう一度来ればいい──』
とか、そんな感じの内容だったはずだ。
今の委員長や仲間たちからは、そういう気概が溢れ出している。
どんな異常事態や危機に翻弄されたとしても、絶対に譲れない部分だけは押し通すのが山士幌高校一年一組全員の意志だ。俺だってとっくに覚悟はできている。
「ならさ、こっちの人たちが言う『魔王国』、『フィルダール連合』に来るつもりはあるかな」
少しだけ寂し気に俺たちの様子を見たタァンは、お得意の腕組みをしてから静かに告げた。
つい一昨日、聖法国の召喚状を破り捨ててやったかと思えば、今度は元クラスメイトから魔王国へのご招待か。
なんていうどうでもいいことを考えてしまうくらい、タァンの言葉は唐突だった。
次回の投稿は三日後(2026/04/04)を予定しています。投稿間隔が空いてしまい申し訳ありません。
(2026/04/03 17:30追記)
大変申し訳ないのですが、次回の投稿について4月7日に変更させていただきます。詳細(言い訳)については近況ノート、活動報告にて記載してあります。




