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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第616話 お姉さんの聖法国講座

 急な所要につき、変な時間の投稿となりました。

「さて、聖法国関連ね」


 アウローニヤの国内に敷かれた体制を話し終えたベスティさんが、ようやく聖法国という単語を口にする。


「とは言っても『尻尾』については追加の情報が無いの。扇動に長けた部隊だってことくらいしか……。せめて神授職と階位だけでもわかれば良かったのだけど、ごめんね」


「いえ、気にしないでください」


 だけど初っ端から新規情報は無いのだとベスティさんが頭を下げ、綿原(わたはら)さんがそれをとりなす。


「だから国についてのおさらいと教えていないことも追加するわ。もしかしたらどこかで役に立つかもしれないから、ちゃんと憶えておいてね」


 改めてちょっと先生っぽく、とは言ってもウチの滝沢(たきざわ)先生とは違う意味で、教師みたいなノリでベスティさんは語り始めた。


 大陸北西部の西端に位置するのが聖法国アゥサだ。


 アウローニヤを流れるパース大河の河口部にある平野を国土としているが、面積はそれほどでもなくて、人口もアウローニヤには遥かに劣る。

 俺たちにとって何より羨ましいのは聖法国が海に面しているってことだ。迷宮産のシャケやカニ、タイも美味いけど、やっぱりなあ。面積とかはどうでもいいし。


 標高があって盆地なペルメッダ侯国と違い、聖法国は温暖で雪も滅多に降らないらしい。大雑把な地図では西から並ぶ聖法国、アウローニヤ王国、そしてペルメッダの三国は緯度が同じに描かれているので、海に暖流があるんじゃないかというのが一年一組の予想だ。

 ちなみにアウローニヤはちゃんと冬に雪が降る。で、ペルメッダは豪雪地帯。道民だけに雪は気になるんだよな。



「──はい、じゃあリン」


「『アァサー』だったと思います」


「大正解」


 ベスティ先生から出された質問に、副委員長の中宮(なかみや)さんが即答する。


 聖法国アゥサの首都というか自称『聖都』の名は『アァサー』だ。あの国のメイン言語はアァサ語と呼ばれているのだが、アゥサとアァサがごちゃ混ぜになるので、俺はもうどっちでもいいって思うようにしている。


 地理についてはこんなものだが、付け加えるとすれば迷宮か。地球ではテストの科目になんてなり得ないけど、この世界では迷宮の数は国力の一部として捉えることができる。つまり試験に出るんだ。そんな試験があるのかどうかは知らないけどな。

 勉強はさておき、聖法国の持つ迷宮は三つ。名前もアウローニヤにいた頃に教えてもらったが、それはどうでもいいか。どうせ入国するつもりもないし。



「聖法国を語る場合に欠かせないのは教会についてよね。わたしたちは単に『勇者教会』とか『勇者教』って呼んでいるけど、正式な名称は……、ミノリ」


「『勇者の血を持つ者たちが集う地上』、でしたか」


「よく覚えていたわね」


 自分で質問しておいて、即答した上杉(うえすぎ)さんにベスティさんが驚いている。


「ヤベえな、上杉」


「やっぱり、上杉さんだよね」


美野里(みのり)、さっすがー」


「やりますわね、ミノリ」


 これには仲間たちも絶賛だ。


 うん、俺が当てられていたら絶対に答えられなかっただろう。

 というか、ベスティさんは誰も答えられないのに期待していたまである。で、自分で正解を言ってからドヤるパターンだ。



「さ、さて、続けるわよ」


 やっぱりちょっと動揺してるじゃないか、ベスティさん。ウチの上杉さんは凄いんだぞ。


「今の国家元首は十五年くらい前に枢機卿から選出された聖法王、ダーグート四世・ツェラ・アゥス聖下。この人も転生者とされているわ。今の情勢が続けば、次代は『五百年前に実在した勇者本人の転生者』、ミリャ・ウースェ主席枢機卿猊下が本命ね。ちなみに女性よ」


 ちょっとペースを乱したベスティさんが早口気味に説明を続ける。


 それは見ていないフリをするとして、ベスティさんの説明通り、あの国って転生者だらけなんだよな。

 俺たちは自称じゃないかと睨んでいるけど、聖法国ではそれがステータスなんだ。


 ちなみにここで言う『転生者』の多くはこの世界の過去を記憶している人たちで、ほぼ共通しているのは五百年前の勇者と共に魔族と戦った者って点だ。中にはベスティさんが名前を出した『勇者本人の転生者』まで混じっている。

 俺たちオタ組がラノベで嗜んでいる『地球からダイレクトにやってきた転生者』っていうのは何故かいない。そういう概念が存在していないかのように。


 自称勇者の転生者がいるのに故郷の言葉を基にしたとされている古アァサ語で『六本の尾』が『ソド・ラ・ヴェオ』で『五』が『ブリャ』とか、仮に転生が事実だとしても地球以外なんじゃないだろうか。


「そんな現聖法王聖下だけど、ここ数年体調が思わしくないの。だから大半の政務……、あそこでは『聖行』だったかしら、それをウースェ枢機卿猊下が引き継いでいるみたい」


 そこまでを一気に言い切ったベスティさんが少しだけ息を吐く。この辺りは初耳情報だな。


 それにしても『聖行』ときたか。聡明で鳴らすアウローニヤの女王様をもってして解釈に苦しんだという『聖句』といい、妙な単語が多すぎる。

 宗教組織なんてそんなものかもしれないが、無信仰の俺からしてみれば辟易だ。


「元々アウローニヤと聖法国は友好関係にあったんですよね。もしかして今回アウローニヤに訪れた使節団が横暴なのは……」


 などと聖法国の面倒くささについて考えていたところで藍城(あいしろ)委員長の考察が入った。なるほどなあ。


「ウースェ筆頭枢機卿の意向じゃないかって陛下も疑っていたわ。とはいってもアウローニヤは沈みゆく国だし、縁切りのついでにと考えれば、ね」


 ベスティさんはウィル様の方をチラ見してから苦笑する。沈みゆく国とか自分で言っちゃうのはどんな気持ちなんだろう。


 だが女王様は帝国との密約を結んでいる。属国であれアウローニヤが王国として生き残れば、聖法国にはいい意趣返しにもなるだろう。頑張れリーサリット陛下って気分だ。


 さておき、聖法国が俺たちをターゲットにした理由は『転生者』ではなく『転移者』だって辺りなんじゃないかと疑ってもいるが、もしかしたらそのウースェ枢機卿とやらの意向もあるんじゃないだろうか。

 代替わりで何か目立つことをしたくなるって話題があったな。あれは初めて『オース組』と会談した時だったかな。



「聖法国の真の方針は現時点では調査中。さて、話を続けるわよ。そんな聖法国は北で魔王国と戦争をしているの。年中ずっととかじゃなくて、折を見て『聖戦』を謳ってね──」


 聖法国は北部で国境を接する魔王国と年中行事みたいに定期的な戦争をしているらしいが、実は迷宮を巡っての争いなので、何十年かに一度くらい領有数が四つに増えるのだとか。

 そこに投入されるのが『教会騎士団』とか転生者で構成された『勇者』たちだ。迷宮でレベルを上げた勇者やら騎士たちと渡り合えている魔族が階位を持たないとされているのは無理のある話だが、今はそっちは置いておこう。


 そして推定される聖法国の兵士が持つ練度はアウローニヤよりも上だ。もしかしたら数でも。

 何故ならば──。


「教会では『巡礼』という行いが推奨されていて、迷宮で得た素材を勇者、まあ教会ね。そこに納めることが信仰の証になるの」


 呆れ交じりな苦笑を浮かべたベスティさんは、聖法国の潜在的な強さを語った。


 要するに日本の滝行とお布施の合わせ技みたいなものだ。

 俺たち『一年一組』がやっている冒険者も素材代金の一割が組合を通じて国に渡っているが、聖法国ではダイレクト。しかも半分くらいは教会の取り分になるらしい。

 で、貧乏な人には信者限定で教会が炊き出しをするわけだ。そういうことをする教会が国を牛耳っている。


 ヤバいよな、聖法国って。


 国民の九割方が一つの宗教を信じ、人によって程度に違いはあれど、信仰心を証明するために迷宮に入るんだ。つまり徴兵できる数が多くて強いってことになる。

 軍と冒険者に十三階位クラスがゴロゴロしているペルメッダだけど、国民レベルとなれば話は別だ。戦闘に向かない神授職もあるのだから全ての民がってことにはならないし、一般の人は魔族との『聖戦』には参加していないらしいけど。


 だけどそれでも、たとえば南東から迫る帝国との総力戦ともなれば、ってことなんだ。



「いちおう冒険者もいるし組合もあるのだけど、『巡礼』のお陰で随分と肩身の狭い思いをしているみたい」


「それは、組合の力が弱いということですか?」


 肩を竦めるベスティさんに、委員長が手を上げて質問する。


「そうね。じゃあマコト、組合が弱いとしたらどうなるの?」


「……ペルメッダの冒険者と揉めても、国として問題になりにくいってことですか」


 委員長の答えをベスティさんは無言で頷くことで肯定した。ウィル様も端整なお顔をちょっとしかめている。

 これは明確によろしくない情報だよな。聖法国にも冒険者がいるってことは事前の知識で知ってはいたが、そういう立場だったとは。


 なにも俺たちが冒険者に肩入れしているからという意味じゃない。

 国籍を持たず、自由を誇る冒険者たちは外部からの介入を嫌う。そのケツ持ちをしているのが迷宮ごとにある冒険者組合だ。

 同じ組合に在籍している冒険者のイザコザを仲裁することもあるが、それくらいは小さなものだ。問題となるのは外部、今回のケースだと聖法国から自分のところに所属している冒険者が被害を受けた場合。


 そんなことが起きたら組合は本気を出す。組合職員と冒険者が総出でコトに当たるのだ。


 結果としてペルマ=タの中で狼藉者を捕らえることができれば、犯人はペルメッダの法律で罰してもらう。

 逃げられたりした場合は逃亡先の冒険者組合に通達し、そこで対処する。各迷宮に組合がある以上、冒険者を傷付けた者はどこかでケジメを取らなければいけないのだ。

 もしも犯罪が国家によるものならば、組合主導で冒険者が迷宮をボイコットするケースまであるのだとか。


 そういう理屈があるからこそ、俺たちはペルメッダで冒険者となった。帝国を筆頭とする国家からの干渉を避けるために。


 だが大変残念なことに、どうやら聖法国の冒険者組合は発言権が小さいらしい。ほぼ絶滅状態のアウローニヤよりはマシかもしれないけどな。

 つまりはだ、もしも俺たちが拉致なり怪我を負わされたとして、犯人が聖法国まで逃げ延びてしまえばアウトということになる。



 ◇◇◇



「──要するにあそこは勇者偏重なお国柄で、君たちは恰好の看板になるの。もしかしたら好待遇を受けることになるかもしれなわね」


 十五分くらいに渡ったベスティさんの聖法国講座はそんな言葉で締められた。好待遇、か。


「もしくは研究材料か、気付けば最前線ってな」


「笑えねえぞ、古韮(ふるにら)


 古韮の軽口にヤンキーっぽくドスを効かせて佩丘(はきおか)が詰めるが、確かに笑えない。


「そういう危機感を持とうってことだよ」


「真っ直ぐに言えばいいじゃねえか」


「性分なんでな」


 古韮と佩丘が言葉でじゃれ合う。放っておけば誰かが収めるのだが、古韮が敢えて口にしていないこともある。


 勇者が終焉を迎えた地という伝承もある以上、帰還へのヒントが聖法国に存在している可能性はゼロではない。

 だが、拉致され、運び込まれるなんていうのは絶対にごめんだ。必要となれば正面から堂々とじゃないとな。門番に阻まれたらコソコソと。


 だからこそ、この場でそれを話題にするヤツはいない。普段からジョークの多い古韮でさえ、ブラック方面のネタを繰り出したくらいだ。


「はい、そこまで。こんな遅くに情報提供してくれる人たちに申し訳ないわよ」


 結局風紀担当の中宮さんの一言で古韮と佩丘は黙った。迷宮委員な綿原さんのサメもスタンバイしていたし、言葉で済んでよかったな、二人とも。


 古韮のブラックジョークは拉致が前提だったが、勇者を消すという線は薄いだろう。

 聖法国の刺客、『六本の尾』がペルマ=タに潜入してから十日以上が経過していると推測されている以上、直接襲う機会はいくらでもあったはずだ。たとえば『シュウカク作戦』で装備をボロボロにして、ほかの冒険者たちが宴会をしているタイミングなんて最高の狙いどころだったのだし。


 ティアさんと決闘騒ぎを起こしたニューサルが取り込まれそうになった時の証言もひとつの根拠だが、聖法国は勇者の拉致を企み、ペルマ=タで下準備という名の暗躍を繰り広げているって考えるのが自然だ。



 ◇◇◇



「続けて僕からの報告だね」


 ベスティさんの話が終わり、五分ばかりの休憩を挟んで今度はウィル様のターンとなった。


 みんなの鉄製マグカップにはそれぞれ飲み物が入っていて、ウィル様は先生と同じくブラックコーヒー。『七号』さんたちはこれ以上はと辞退した。


「幸い、というべきかは迷うところだね。今回の策謀で軍の部隊長級は取り込まれていない。裏取りはできているので、そこは信用してほしいかな」


「部隊単位の集団的な攻撃は考えにくいということですか」


「そうなるね」


 コーヒーの香りを嗅ぎながらウィル様は語り始める。何故かみんながこっちを見るので、応対するのは俺になってしまった。

 戦闘関連とはちょっと違う話題だと思うんだけどなあ。


「逆に個人なら、ですか」


「否定はできないね。兵舎や住居、通常の休暇、体調不良、故郷への長期休暇などを全て洗ったところ、全部で二十三名の所在不明者がいる。言ってはなんだけど、あまりよろしくない評判を持つ者ばかりだ」


「そこまで調べてくれたんですね」


「僕は執務室で指示を出しただけだよ」


 感謝する俺にウィル様はなんてことはないという風だけど、あらゆる可能性を考えて人を動かすのなんて凄いことだと思う。


 ペルメッダ侯国はアウローニヤ王国に比べて遥かに小さいが、それでも首都のペルマ=タと北端の……、たしかテスっていう街とは二日くらいの距離だったはずだ。

 ペルマ=タの中ならまだしも、国中に散らばる軍や兵士の故郷まで調べるのにどれくらいの人数を使ってくれたのか。



「軍の中にも内通者はいると考えてほしい。なにも力尽くで『六本の尾』に協力する必要はないんだ。ちょっとした便宜を図るだけでも、ね」


「事前に捕まえるっていうのは……」


 悪い情報を積み上げていくウィル様に対し、俺はなんとか薄い希望を求める。


「ユイルド・ニューサル以外でも十名程を拘束したよ。残念ながら本命にたどり着く情報は得られていない」


「そう、ですよね」


 ウィル様の説明には頷くしかない。

 もしも『六本の尾』に手が届くところまでいけば、ウィル様や『第七』の人たちはここに来るまでもなく、地上で大捕り物をやっていたはずだ。


 ふとニューサルたちの処遇が気にかかったが、今はそういうのはどうでもいいか。



「遺憾ながら貴族家までもが絡んでいたよ」


「えっ!?」


 さすがに沈痛な面持ちとなったウィル様のセリフに仲間たちから驚きの声が上がる。

 ニューサルは貴族の三男であって当主ではない。だがウィル様は今、貴族家と言った。


「別邸を賊に潜伏場所として提供した男爵がいた。閑職に追われた『王国派』だったよ。ペルメールの乱からまだ三十年だから、当主も現役でね。ああ、『王国派』というのはね──」


 そこからウィル様の続けた説明はペルメッダ侯国の内部事情だ。


 三十年前に起きたペルメッダ独立戦争、もしくはペルメールの乱と呼ばれる争いでは、何もペルメール辺境伯サイドも一枚岩だったわけではない。

 アウローニヤ王国のままでいたかった『王国派』もしくは『残留派』なんていう派閥もあったんだ。


 戦後に初代の侯王様が物理的か立場的にズバズバと首を切っていったので、現在のペルメッダはアウローニヤより余程統治が安定しているが、元『王国派』の全員が消えたわけでもない。

 微妙な立場となった貴族は、ウィル様が閑職と表現したようにさほど重要ではない立場に追いやられた。


 状況次第ではフェンタ子爵だってもしかしたら……。


「さて、国の恥よりも現状だね」


 サラっと話題を切り替えたウィル様は、コーヒーを一口すする。


「尋問をしたところ、名前は知らない、顔を見たこともない。人数は十人から二十人程、だそうだよ」


「それでいて報酬はしっかりと、ですわね?」


「そうだ。当然捜査は行ったがもぬけの殻でね。目立った遺留物は見つかっていない」


「随分と狡猾ですこと。下調べは万全ということですわね」


 貴族絡みの話題になったことで会話はウィル様とティアさんによるテンポのいい掛け合いになったが、出てきた情報は残念印なものばかりだ。


 事前に買収できそうな『王国派』の貴族を調べ上げ、顔を合わせず間接的に協力させたのか。しかも逃げる準備も万端ときた。ニューサルの時と似たようなパターンだな。

 如何にも秘密部隊って感じだが、狙われている立場としては欠片もワクワクできない。



「一般市民については厄介でね。怪しい人物がペルマ=タに潜伏していると公布し、有益な情報には懸賞金も掛けているのだけど……」


「ガセネタばかりが集まっているというわけですわね」


 ちょっとくたびれた顔になったウィル様を相手にしても、ティアさんは容赦なくツッコミを入れていく。なんだかウィル様が可哀想になってきたなあ。


 さておき、そういうことも起きるのか。懸賞金目当てに本当か嘘かもわからない適当な情報を持ち寄るんだ。

 何しろ『聖法国が勇者を狙っている』なんて状況を一般市民に広めるわけにもいかない。俺たちはあくまで一冒険者であり、国を挙げての大騒動にする名目にはならないんだ。


「わたくしなら本命には懸賞金ごときで転ばない程度の縛りを掛けますわ」


「そういうことさ。手強い相手だよ。ここまで姿を掴めないとは思っていなかった」


 兄妹の会話で事情が説明されていくが、ティアさんの言葉がいちいち黒い。悪役令嬢だけあって、そっち方面への理解が深いってことにしておこう。



 ◇◇◇



「本当は泊まって明日の迷宮を一緒したかったけど、大使館で打ち合わせがあるの」


「僕たちのために、ありがとうございます。お気持ちが嬉しいですよ。本当に」


 別れを告げるベスティさんに、こちらを代表して委員長が頭を下げた。クラスメイトもそれに倣い、ティアさんとメーラさんも小さく礼の姿勢を取る。


「殿下もお忙しい中、ありがとうございました。『七』……、そちらの皆さんも」


「もう僕のことはウィルで構わないよ」


『七号』と言いかけた委員長にウィル様はそこには触れず、愛称呼びを要求してきた。

 もうクラスメイトの結構な人数が『ウィル様』って口にしちゃってるもんなあ。


「それよりも、地上があまり進展していなくて申し訳ない」


「いえ、『六本の尾』がやりにくくなっているのは間違いないですから」


「そうであればいいんだけどね」


 委員長の言葉にウィル様が苦笑で返すが、事実は事実だ。


 地上でウィル様やアウローニヤ大使館、マクターナさんたちが動いてくれていることで、間違いなく『六本の尾』は行動を制限されている。

 だが同時に捜査に関わる人たちに危険が伴うことも事実として受け止めなくてはいけない。潜伏や扇動が得意で戦力としては大したことがないなんていう甘い考えは捨てるべきだろう。


「じゃあ僕たちはこれで」


「わたしも明日ね。成長した君たちに会うのが楽しみ」


 ウィル様とベスティさんが別れの挨拶をしてくるけれど、ベスティさん、明日も会うつもりなんだ。



「ありがとうございました」


 去っていく背中に向けて先生がもう一度大きく頭を下げた。打ち合わせでは出しゃばらないけど、節目で礼儀正しいんだよな。


「強くならなきゃいけないわね」


「地上でたくさんの人たちが動いてくれているんだ。俺たちもやることをしないと」


 綿原さんがサメを踊らせ、俺は拳を握りしめる。


 時刻は夜の十時ちょっと前。まだまだ時間はあるのだから体を動かそう。さっきの模擬戦を振り返り、新しい作戦だって考えたい。

 俺たちが強くなること、そして無事に冒険者を続けること、それこそが多くの人たちへの恩返しになるのだから。



 次回の投稿は明後日(2026/01/28)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
 『六』本の尻尾で『七』号だから、数字が繋がっちゃってどうしても怪しく見えてしまう。  『六』本と言ったが『七』本目が無いとは言っていない。とかってね。
聖法国側の情報が徐々に出てきた感じですね。 戦える一般市民が多いみたいですが、騎士や冒険者が中心の他の国が重要視してない職の人が高階位になったりしてそうで、ちょっと怖いですね。
一般市民へ情報提供を募るのならば「捕縛なり何なりに繋がる情報だった場合には追加の賞金を出す」と言うことにして、最初の時点では端金だけで、しかもその後「あきらかなガセ情報だった場合には罰がある」とするべ…
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