第615話 泣かせないでくれよ
「ご挨拶が遅れましたね。申し訳ありません、侯息女殿下」
「わたくしとメーラは一介の冒険者ですわ。そのような礼儀など不要ですわよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。ベスティ・エクラーよ」
「リンパッティア・ペルメッダですわ。こちらは盟友のメーラハラ・レルハリア」
宿泊部屋ではベスティさんとティアさんが挨拶を交換している。ベスティさんらしく、口調があっという間にフランクだ。
『一年一組』は行動を開始してから五分も掛からず片付けと身支度……、とは言っても濡れタオルで革鎧を拭っただけだが、それでもまあ体裁くらいを整えた。
今は料理長の上杉さんと副料理長にしてヤンキーな佩丘たちの調理が行われているところだ。
全員が調理班に回るわけでもないので、残ったメンバーはこんな感じの雑談モードとなっている。
お堅い話は食事が終わってからかな。
気を使った綿原さんが確認したところ、『七号』の人たちはこちらに背を向けるなら食事に参加してもいいことになった。
以前のメーラさんとは違い、作戦行動中に他者からの施しはアリというのがウィル様の判定だったのだ。苦笑交じりではあったけどな。
「ちなみに出席番号は二十三番なの」
「……二十九番、ですわ」
で、ベスティさんとティアさんの会話が怪しげな方向になっている。
だからさあ、どうしてそこで火花を散らすんだよ。
いい笑顔なベスティさんと悔し気にぐぬぬるティアさんの対比は見物ではあるけれど。
「懐かしいし、羨ましいわね。こうして彼らと一緒に迷宮なんて」
「わたくし『一年一組』の仲間として十三階位になりましたの!」
「そう。良かったわね、リンパッティアさん」
そこで一転、ベスティさんはティアさんを持ち上げる。途端上機嫌となったティアさんはドヤドヤ状態だ。
イタズラ好きなベスティさんだけど、性根は優しい人だからなあ。なんだかんだで気遣いだってしてくれるし。
「そうですわ、ウィル兄様。わたくし十三階位になりましたのよ!」
「ついにかい。凄いじゃないか、リン」
「まだまだ通過点ですわ!」
「僕が追い抜かされるのもそう遠くはなさそうだね」
十三階位というフレーズを振りかざしたいのか、ティアさんがウィル様に矛先を向ける。実に仲良しな兄と妹の光景だ。
俺も山士幌に戻ったら心尋とああやって会話をしてあげたいな。
「ねえねえ、どうしてベスティさんが来てくれたの?」
「それはみんな揃って落ち着いてからね。メイコは元気にしてた?」
「うんっ! ベスティさんと一緒で十二階位!」
ティアさんから解き放たれたベスティさんに、ロリっ娘な奉谷さんが駆け寄るように話し掛ける。お互いにニッコニコなんだよなあ。
アウローニヤを出国した時点で十階位と十一階位だった一年一組が、気付けばほぼ全員がレベルを二つ上げている。戦士の頂点ともされる十三階位だって七人だ。
ティアさんとメーラさんには申し訳ないけど、久しぶりとなるベスティさんが目の前だから『一年一組』ではなく『緑山』として活動していた一年一組が先に出るのを許してほしい。
「ベスティさん……」
そして満を持して『氷弟子』の深山さんまでもが会話に合流した。ニコニコな奉谷さんは楽しそうにそんな光景を見つめている。
ちなみにベスティさんがお気に入りのお姉さんキラーな海藤は、串焼き担当で忙しい。あとで存分に話せばいいさ。
「ユキノも十二階位?」
「ウン。【身体操作】を取ったの」
「へえ。凄いね」
手紙のタイムラグもあって、ベスティさんは深山さんの最新階位を知らないだろう。ただし深山さんの【身体操作】は十一階位の段階で取得しているので、そっちは伝わっているはずなんだけどな。もちろんそんなヤボなツッコミは入れない。
【冷徹】を解除している深山さんが、ストレートな誉め言葉をもらって照れくさそうに笑っているのだから。
「そうだっ。怪しい商人を見つけるのに、ベスティさんが大活躍だったんだよね?」
「へへん。頑張ったんだよ? だけどナツキ、ここにはおっかないお兄さんがいるんだから、言いふらさないでね」
「あっ、ごめんなさい」
続けての参戦は夏樹か。
その件については侯王様が知ってしまっているからネタでしかないし、おっかないお兄さんとやらにも伝達されているんだろうけどな。
模擬戦の結果でテンションが下がった俺たちだけど、こうして懐かしいベスティさんと話をすれば、盛り上がりもするというものだ。ベスティさんってそういうキャラだからな。
食事までのちょっとした時間だけど、ベスティさんはアウローニヤにいた頃と変わっていないというのが、なんだかやけに嬉しいんだ。
◇◇◇
「うん。やっぱりミノリとシュンペイの料理は美味しいね。あ、タカシとミアも焼き物をありがとう。それと──」
串焼きを片手にベスティさんはご満悦の様子だ。料理長クラスの二人だけじゃなく、キッチリ海藤やミアたちにも感謝の言葉を贈っている。
本日の夕食は、牛、馬、ヒヨドリ三種の串焼きと、定番となるカニと白菜のスープだ。せっかくベスティさんが来てくれたので、味付けはペルメッダ風。是非とも異国情緒を楽しんでいってもらいたい。俺が調理したわけじゃないけどな。
三泊目ともなると米のストックは尽きているので炭水化物はジャガイモで補充だ。フェンタ領のバターをふんだんに使ったジャーマンポテト。ただしジャガイモのみって感じ。
野菜がちょっと足りない気もするが、結局のところ迷宮料理っていうのは一層から四層を網羅して完成するものだ。
タマネギ、レタス、トマト、青リンゴ、そして羊が恋しいよ。偶発的な遭遇なら狩っても問題はないが、予約もしていない区画を巡るわけにはいかないし。
さて、バーベキューコンロと寸胴鍋を囲んだ俺たちは、輪になって座っている。
ウィル様にはこちらから敷物を貸し出しているが、ベスティさんは自前のマント。そういうところでさりげなく『緑風』を自慢してくれているんだ。
ウィル様の言っていた通りに『七号』の人たちは扉付近でこちらに背を向けて食事をしている。
当然覆面はズラしていて、角度次第ではお顔が見えてしまいそうなのが気まずいので【視野拡大】はオフの一択だ。
「相手が君たちだから正直に話すけど、わたしがここにいるのは一番に『政治』。これに尽きるね。『外交』でもいいかな」
「わかります」
「うんうん。マコトはわかってくれるよね」
食事が落ち着いてきたところで、自分がどうしてここにいるのかをベスティさんが語り始めた。こういう会話になると相槌は藍城委員長がメインとなる。
「今回の騒動にアウローニヤとして関与するための人員を送り込む必要があったの。大使館だけじゃ足りないし、それでわたしなのよね。わたし以外にも五人くらい派遣されてるけど、君たちが知らない人たちだから今は大使館で待機中よ」
ベスティさんの言っていることは、確かに政治だ。
そこに情があるのも確実だけど、コトが勇者案件なだけに国家として全力を尽くしたというポーズが必要になるんだろう。
そういうことが理解できるようになっちゃったなあ。
で、送り込まれたのがベスティさんたちというわけだ。当然アウローニヤの女王様の人選なんだろうけど、俺たちの知り合いを混ぜてくれたのがとても嬉しい。あの女王様はこういうところでの気配りが上手い人なんだ。
「エクラー卿のご助力に感謝していますよ」
「いえいえ、勇者を狙う者共をアウローニヤ王国が許すはずもありません」
白々しくウィル様が持ち上げ、ベスティさんは卒なく返す。
俺たちとしては勇者を卒業したつもりだし、法的にもそうなっているんだけど、さしずめ恩のある『旧勇者』の保護といったところか。
「で、陛下がこの『お仕事』をやりたいって人を募集したんだけどね」
ウィル様と通り一辺倒な会話をしてから、ベスティさんはイタズラお姉さんの表情となって俺たちを見渡した。
「もう争奪戦よ。ガラリエやシャルフォも名乗り出るし、ヒルロッド副長やイトル総長まで。ヴァフターが手を上げたのは点数稼ぎかな。アヴェステラさんとかシシルノさんなんてもう、悔しがってさ。ありもしない内務卿特権とか言い出したくらい」
「うわあ」
「……そうか」
ベスティさんが羅列した名前の数々にクラスメイトたちの反応は様々だ。
嬉し気に歓声を上げる夏樹、逆に深く感じ入った様子の佩丘、アネゴな笹見さんなんて涙ぐんでいる。
「アーケラがいたら、わたしの出番を取られていたかもしれないわね」
続く言葉で涙腺決壊が加速したかな。俺もヤバいし、隣の綿原さんも俯き加減になってしまった。
ガラリエさんとシャルフォさんは『緑風』の運営で忙しいだろうし、ヒルロッドさんは『灰羽』の筆頭副長として頑張っているはずだ。近衛騎士総長代理のキャルシヤさんなんて問題外だし、ヴァフターは……、まあ軽く感謝しておこう。
アヴェステラさんとシシルノさんは女王様の補佐で王城を出るわけにはいかない。
そしてアーケラさんはすでにウニエラ公国だ。
青がイメージカラーのベスティさんに対し赤のアーケラさんは、出会った当初は俺たちの面倒を見てくれるメイドさん役だった。同時に勇者を探る諜報員みたいな役目も担っていたけど。
ベスティさんは第三王女派でアーケラさんは第一王子派。つまりメイドさんたちのあいだでも暗闘があったんだ。
それでも最後は俺たちを通じて仲良くなってくれていたと思う。だからこそベスティさんはこうして名前を出したのだから。
アーケラさん、異国で元気にしてるかなあ。
「だけど一番来たそうにしていたのって……、陛下だったんだよね。ずっと近くにいたわたしだから、わかっちゃうの」
だからさあ、ベスティさんは俺たちを泣かせて楽しいのか?
草間の眼鏡が真っ白に曇っているなあ。これにはさすがにみんなも食事の手を止めた。
俺たちは骨身に染みて知っている。リーサリット女王という人は、理と利と情の全てを持っている人なんだ。
あの女王様はどんな想いで……、どんな顔をしてこの役目をベスティさんに託したのだろう。
「だからみんな、絶対に無事でいてね。わたしも全力で補助に回るから」
「はい!」
ベスティさんによる締めの言葉に、俺たちは大きな声で返事をした。一部は涙で掠れていたけど。
「まったくあなた方ときたら、方々で味方を作ってしまうのですわね」
不満気だけどその中にちょっとした自信があるという難しい表情をしたティアさんが、第三者的な発言をぶつけてくる。
こっちの答えなんて決まっているのに。ほら、悪役令嬢担当な副委員長さん、言ってやってくれ。
「ティアとメーラさんだって味方で……、お互い大切な仲間でしょ?」
「当然ですわ!」
指先で涙を拭った中宮さんがそう言えば、ティアさんは素敵な笑顔で返すのだ。当の中宮さんは照れで耳を赤くしているんだけどな。
◇◇◇
「僕としても、英明と名高いアウローニヤの女王陛下に拝謁する機会を得たいとは思っています」
「ええ。その際には国を挙げて歓迎させていただきます」
俺たちがちょっとしんみりしているあいだにウィル様とベスティさんが当たり障りのない言葉を交わす。
確かに友好国に新女王が即位した以上、次期国王となるウィル様が訪問するのは外交的に自然なことか。女王様がペルメッダを訪ねたり、逆に侯王様がっていうのは駒が大きすぎるし。
でも今のアウローニヤはまだまだ安定の途上だ。実際に表敬訪問なんて話は……、どれくらい先になるのやら。
「さて、僕からの情報はあとに回して、エクラー卿に譲ろうか」
「ありがとうございます。では」
ウィル様から先手をもらったベスティさんがおもむろに口を開く。
「わたしがペルメッダに来た理由はわかってもらえたよね。じゃあ何故迷宮にまでといえば、殿下のご配慮に甘えたからよ」
「一刻も早く再会したいだろうと思って、大使館に声を掛けたんだよ」
ベスティさんのぶっちゃけたセリフにウィル様が笑顔で合わせていく。ウィル様って超イケメンな上に気遣いの人だよなあ。
そんな理由で特殊部隊な『七号』をベスティさんに見せてしまうとか、そういう権限を持っていたとしても大した度量だ。
俺の心の中で話題となった『七号』さんたちを窺えば、もう食事は終えているか。
もしかしたら早食いも仕事の内とかだったりするのかもしれない。
「あの、話を遮って申し訳ありません。みなさん、おかわりはいかがでしょう」
そんな風に俺が考えていたタイミングで上杉さんの声だ。向けられた先は俺たちの輪だけではなく、『七号』さんたちにもっていう響きがあった。時々俺は上杉さんの度胸にビビるよ。
「じゃあ僕もいただこうかな。馬の串をもう一本。君たちも遠慮しなくていいよ」
手本みたいに率先しておかわりを所望したウィル様は、『七号』さんたちにも声を掛ける。まったくこの人は。
そんな上司の言葉に四人が無言でゆっくりと手を上げていく。その中の一人は俺に短剣を突き付けた、推定お姉さんだ。
背中を向けたままっていうのがシュールだよな。あの人たちの素の顔は、もしかしたら楽しい人たちなのかもしれない。
あれ? だけどこれじゃあ。
「牛は人差し指で、馬は中指、鵯は薬指でお願いできますか。蟹汁は親指です」
これまた上杉さんも気遣いだ。なるほど、そういうオーダーの仕方もあるってことか。
「はい。わたしもね!」
勢いよく右手を上げたベスティさんは親指と人差し指を立てていた。ノリがいいよなあ。
「僕ももう少し欲しいかな」
「あ、わたしも」
「わたくしも所望いたしますわ!」
クラスメイトに混じってティアさんも腕を突き上げ、好き勝手な指を立てていく。
ここまでされてしまうと付き合わないわけにもいかなかったのだろう、『七号』さんたちもそれぞれ指定された指を上にした。
一人だけ二本指を立てた猛者がいるな。
「八津くん、お願いできますか?」
「牛が十五、馬は七、ヒヨドリが十一で、カニが九」
「ありがとうございます」
上杉さんにお願いされた時にはとっくにカウントは終わっていた。俺の【観察】は便利機能なのだよ。
実は俺も人差し指を突き立てていたりする。
「んじゃやるか。海藤、ミア、手伝えや」
「おうよ」
「承知デス!」
佩丘が立ち上がり、助手に指名された二人が続く。焼き物奉行たちの活躍シーンだ。
「ねえ八津くん」
「ん?」
串焼きができあがっていく様子を見ていた俺に、隣から話しかけていたのは綿原さんだった。
「サメでサインを送れないかしら。動きとか頭の数とかで」
「前にやったことあったよな。ぶつけるだけだったけど」
「猿ぐつわとかで声が出せなくなることもあり得るでしょ?」
なるほど、綿原さんはそういうヤバいシチュエーションも考慮していたのか。危機意識が高いな。
だけど綿原さん、サインの案は悪くないけど、すでに感情は乗っかっていると思うぞ?
ほら、今も肩のサメが当人と一緒に首を傾げているし。
◇◇◇
「じゃあ改めて。わたしはアウローニヤを代表してペルメッダに来たの。政治的な意味と、みんなへの親愛の両方で。ここまではいいわね?」
ベスティさんの言葉に『七号』さんたちを除く全員が頷いた。
アウローニヤの代表って表現をすると、やたらと重たく感じるよな。親愛っていう単語も。
おかわりで一度中断されたお話は、料理がきれいさっぱり無くなったところで再開だ。
コンロの火も落とされているけど、ここは迷宮だから暗くなることもない。迷宮に住むとしたら、もしかしたらこれが最大の敵になるかもしれないな。【睡眠】があるから明るいと眠れないなんてことにはならないが、夜の暗さっていうのは人間にとって必要な時間な気がするんだ。
「この件に片が付くまで全面的に協力させてもらうけど、それだけじゃもったいないでしょ」
お姉さんモードなベスティさんは人差し指を立てて横に揺らす。
「役に立つかはわからないけれど、聖法国アゥサについての情報もまとめてきたわ。あ、親善するつもりのない使節団はアヴェステラさんが適当にいなしているので気にしなくていいからね」
「あははっ」
「アヴェステラさんも大変だな」
「女王陛下のお手を煩わせないってヤツか」
前半はさておき、冗談めかした後半部分でクラスメイトたちから笑い声が上がる。一部はアヴェステラさんを労わるような乾いた声だけど。
勇者をネタに金を集りにきた聖法国からの使節団など、塩対応で当然だろう。
アヴェステラさんなら上手にあしらってくれるんじゃないかな。
苦労をしているだろうアヴェステラさんには申し訳ないけれど、アウローニヤの人たちがそれぞれ頑張っているのがベスティさんの言葉から伝わってきて、それが妙に心に刺さる。ラハイド侯爵夫妻ではこうまで感傷的にならなかったのは、やっぱり離宮で多くの時間を過ごしたことや、迷宮を一緒したのもあるんだろう。
我ながらチョロいと思うが、俺はもうアウローニヤに対してそういう郷愁みたいな感情を持っているってことに気付かされる。
どこかで時間が作れたら、『緑風』とかアウローニヤの話を聞かせてもらいたいな。
「さて、最初にわたしがここに来るまでの道中なんだけどね。フェンタ領の話」
笑顔のベスティさんが話を続ける。聖法国じゃなくフェンタ領からか。
「陛下の指示で兵が大量に配置されていて、不審者が通る隙間もなかったわ。フェンタ子爵も娘さんから檄文が来たからって張り切っていたし」
なるほど、ベスティさんが笑い顔なわけだ。フェンタ子爵の娘さんってガラリエさんなんだよな。『緑風』的にはベスティさんの上役じゃないか。
そんなベスティさんらしい語り口にはクラスメイトも半笑いだ。
とはいえ、女王様とフェンタ子爵もちゃんと頑張ってくれているんだな。感謝しておかないと。
「同時平行して街道整備もやっているし、『聖法国の尻尾』とは関係ない無許可商人を捕まえたみたい。三組だったかな」
「あはははっ!」
冗談っぽくウインクするベスティさんに、ついには本当の笑い声が上がる。さすがはベスティさん、ポジティブなネタからってことか。
兵士の巡回ついでに街道整備とか、女王様の指示なんだろうけどちゃっかりしたものだ。
俺たちのためっていう事実を盾にしてフェンタ領に恩恵を与える辺りが、如何にも女王様のやり口っぽい。ガラリエさんからの発破もあるだろうけど、これならフェンタ子爵も頑張るしかないよな。
「早駆けだったから代官さんには会えなかったけど、イトル領も似たような感じね。伯爵閣下からのお手紙も届いているでしょ」
ベスティさんの喋りは絶好調だ。イトル領に手紙を送りつける伯爵なんて、近衛騎士総長代理のキャルシヤさん以外考えられない。
王城の忙しさが落ち着いたらキャルシヤさんも娘さんのケイタールちゃんに会ってあげることができるようになるのかな。
「王都とペルメッダの両方に蓋をしたのか……」
「そういうこと。イトル領には王都軍、フェンタ領は東方軍が入ったの。ザルカットはまだまだ混乱しているから」
ミリオタな馬那の分析にベスティさんは指で正解の丸を出してくれた。
派閥がひっくり返って混乱中のザルカット伯爵領はどうしようもないとして、王都から東への出口となるイトル領と、ペルメッダとの国境沿いなフェンタ領に力を入れたって形か。
イトル領もいろいろと恩恵を受けているんだろうなあ。
「アウローニヤの国内についてはこんな感じね。絶対にとは言えないけれど、そう簡単に賊を通したりはしない体制ができているわ」
握りこぶしを胸にトンと当てたベスティさんの言葉に、胸が暖かくなるのが自覚できる。ありがたいよな。
「エクラー卿に乗るようだけど、我が国も国境警備の巡回を増やしているよ。こちらも今回の件とは無関係の密輸人を幾つか捕らえているんだ」
「お互い治安が良くなってなによりです」
続けてウィル様の言葉を聞いたベスティさんが粋なやり取りをする。
爽やかイケメンと紺髪美人さんの対比はお似合いに見えてしまうよな。年齢も二十歳過ぎくらいでほとんど一緒だし。
ベスティさんが未婚なのは知っているけど、ウィル様って婚約者とかいるんだろうか。婚約自体はティアさんもだったし、ウィル様は将来の侯王様なんだから……。
婚約、か。ラノベでは何度でも読んだけど、自分に置き換えたらリアリティがなあ。
「八津くん?」
「え?」
頭の中で妙なカップリングと妄想をしていたところで、横から綿原さんの声が飛んできた。サメもこっちを向いているし。
「楽しそうね」
「あ、ああ。アウローニヤもペルメッダも頼もしいなって。ほら、ここのとこあんまりいいニュースが無かったじゃないか」
「早口なのが怪しいわね」
「いやいやいや」
早口だったのは事実なんだけど、決してあくどいコトを考えていたわけじゃないんだ。むしろ前向きなことをだな。
だからサメをギリギリまで近づけないでくれ。
次回の投稿は三日後(2026/01/26)を予定しています。遅くなり申し訳ございません。




